続き

日差しがヒリヒリする。雨にしてもなんにしても、もう少し手加減していただけないものかね。かといってノッペリとフラットな世界がいいようにも思わないし、苛烈に分散が大きく/拡大する世界も地獄。中庸とはよくいったものだが、そこそこの近傍でそこそこばらつきがあって、循環が持続するエコロジーはないものかね。

さて、何を書いていたのか忘れ気味だけれども、経済学の種類について書いていたんだったと思う。ミクロ経済学、マルクス経済学、制度経済学と、マクロ経済学という分類をしたんだった。なぜこのような3+1の分類をするのか。もう少し深めていきたいと思う。

経済学に限らず、科学というものは世界を理解するメガネだ。暗視スコープでもいいし、サーモグラフィーだっていい。社会を見る視角を提供してくれる、ということが第一だ。その意味では上に挙げたよっつの経済学は、いずれも社会を見る目を提供してくれる。取り扱っているテーマも違うし、その見方も違うわけだが、それは観点の問題なのであって、問題意識の持ち方なのであって、同じ現象を多角的に把握しているということなので、実はそんなに論争的ではない。その意味では、複数の経済学の分野にまたがって学びや研究をすることは、時間とエネルギーの制約があゆことを無視すれば(こういう思考法はミクロ経済学的である)、望ましいことといえよう。

ところが、社会を見る目の先には、社会のメカニズムをどう理解するのかという問題がある。ここについて、実は非常に論争的で、ひとつが成り立てば他は成り立たないというような排他的関係ではないものの、確かに重なっていない、背反する命題が多く眠っている。市場均衡のミクロ経済学。資本運動のマルクス経済学。動的調整項の制度経済学。マクロ経済学?全ての結果を内包しつつ、それ自体は何かと何かを調整するメカニズムを提供しない。だから、ミクロ的基礎付けに走ったわけだが、制度経済学的基礎付けこそが必要だろうというのが、わたしのポジションである。

再び木材市場を例に、3つのメカニズムについて見てみよう。木を切って売る。木を買って家を建てる。ここに需要と供給の関係を見て、需給均衡が成り立つと考えるのがミクロ経済学である。そこには資源配分の効率性(パレート最適)だけが考えられている。資源制約は明確で、アクターもシンプルで、そこに生きている労働者がどうのこうのという話は出てこない。冷酷だが、思考的アンカーのようなもので、錨に酷いも優しいもない。

その過程で儲けるやつ(資本家)とやられちゃうやつ(労働者)がいるよねってのがマルクス経済学。その過程ってのは、市場均衡が成り立っていてもいいし、異なるバーゲニングパワー(プリンシパル&エージェントでもいいのだが)があってもいいし、政治学的にパワー(権力、他者にそれがなければしなかったであろう行動をさせる現象)が介在していてもよい。だから、政治経済学と呼ばれたりもする。その過程で、資本蓄積(生産の拡大)があれば、必ず搾取(労働価値を奪われる)があると説く。この労働者の疎外過程を批判的に捉えるのがマル経の特徴だが、世界がこんなに豊かになったことを全く評価できないんだなぁ。まぁそれはいいや。とにかく資本は増えたがるし、増えるからには労働者は抑圧されるってこと。木材は切り出されて売られて買われて、全労働者は抑圧される。程度を語る基準がないので、しんどいねぇ。全部同じに見えてきちゃう。

以上のふたつの経済学とは趣が違うのが、メカニズム論を持っているのが制度経済学なんだけど、この理解が難しい。小生の見るところによると、プロでも大いに間違えるし、その理由はミクロ経済学かマルクス経済学かと、組み合わせていかないと本領を発揮できないからなんだな。制度経済学は制度変化に着目する。マーケットや資本とは全く関係ないところにあるものかもしれないし、とても関係しているかもしれない。だれかアクターが(組織であってもよい)ダイレクトに介在しているかもしれないし、そうでないかもしれない(誰も意図しなかった変化だってある)。その変化の持つ意味は、歴史的な文脈によるかもしれない。埋め込みとか、社会学とか政治学の一部とか、ゲーム理論とか歴史学派とかいろんな関係があるが、とにかく制度は変化する。だから、多様な現実を説明するのに向いている。が、多様な現実を理解するのに向いていない。多様なものにたいして多様だね、という理解で止まってしまうから。かつて神野先生が、漠たるものは漠として捉えよ、とおっしゃって、複雑なものを複雑なまま記述する歴史学の手法が積極的に取り入れられたけど、結局、だからなんなの?ということにどんどん答えられなくなっていったんだと思うんだな。そうではなくて、ミクロ経済学やマルクス経済学が念頭に置くメカニズムの、根本に関わる部分を調整していると見れば、すごく面白くなる。エピゲノムという話なんだが、これはまた後で。

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