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第2話 骨盤や肺にも転移……だがコロナ禍で治療進まず

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【これぞ不幸中の幸い】

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語尾がおかしい、声がかすれるといった自覚症状の弱さを考えると、2週間で癌と診断して貰えたのはラッキーだったと言えるだろう。
癌になった身でラッキーというのも妙ではあるが、中でも特に幸運を感じたのは、最終的な検査先を『がん研』に決めた時だった。

より詳しく癌の状態を調べて貰い、治療方針を決めるのに、早急に病院を選ぶ必要があったのだが、周りの詳しい人間に相談してみたところ「有明と築地にある国立がん研究センターがいいよ」と教えて貰えた。
そのアドバイスを信じて即座に電話予約を取ったのだが、この判断をしていなかったらボクは確実に命を落としていたはずだ。

というのも、この辺りでいわゆる ”コロナ禍” が始まり、普通の総合病院を選択していたら、診察すらして貰えなかった可能性が高かったのである。

後にコロナ禍における医療業界の大混乱が明るみになった際に、感染対策で病院の対応がバタバタになってしまい、コロナの症状がないのに診察が後回しにされたとか、手術が延期になったなんて話をあちこちで見かけたが、総合病院にこだわっていたら、きっとボクもそういう目に遭っていたはずだ。

その点では、あのタイミングで「がん研にしよう」と即決出来たのは最高の選択だったと言える。癌患者しか来ないがん研だからこそ、コロナ禍の影響を最小限に抑え、速やかに癌治療をスタート出来たのだ。

あの日本中が大混乱していた時期に、自覚症状は弱かったのにすぐに癌が発覚し、入院が決まり、治療方針が決まり、放射線治療が始まり……と、トントン拍子で話を進められたボクは、かなり強烈なツキを持っていたと言えるだろう。

だが、ツイていたのは病院選びだけで、肝心の癌の状態については最悪と言ってもいい有り様だった。

【癌の状態】

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食道は頸部・胸部・腹部の3つに、咽頭も上咽頭・中咽頭・下咽頭の3つに分かれているが、自分の場合特に酷い原発巣(最初に癌が発生した場所)以外にも癌が広がってしまっていた。中でも食道は頸部食道と胸部食道のほぼ全体が薄く癌で覆われている状態だった。

そこで、最初の治療方針として、まずは酷いところから取ろうという事になり、原発巣を含む食道癌と咽頭癌の特に酷い部分から放射線治療を始める事になった。

ところが、その治療を始める頃には、骨盤と首のリンパへの転移も発覚してしまったのだ。

本格的な治療を始めるために入院する事になったのだが、入院当初こそ自力で歩けていたものの、その内に骨盤の痛みが悪化して歩行困難になり、さらには歩くどころか痛みで同じ体勢を取り続けられないようになってしまった。

また、首のリンパが大きく腫れているせいで、食道や気道が圧迫されており、そのせいで声帯がおかしくなって声を出し辛くなっていた事も分かった。これが最初に感じた台詞回しがおかしいという不調の理由だったのだ。これも段々と悪化して、遂には首を回す事も出来なくなってしまった。

最新の診察では、さらに肺にも転移していると知らされた。この肺への転移に関しては、2か月くらい前まではキレイだったのに、何度目かの診察時に突然1cmくらいの転移が見付かったのである。

このような状態なので、最初の段階で病院選びに失敗していたら、治療開始がズルズルと遅れ、ボクはとっくに命を落としていたと思うのだ。

自分は幸なのか不幸なのか、本当に訳が分からない。


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