230605

 日が沈みかけて心地のよい風が吹く夕方、三条通を東に向かって歩き、河原町通を渡ろうと信号で待っていたときのこと。前方からパトカーのサイレンが鳴り始めた。次第に近づいてきている。パトカーが来るのだろうかと考えていたら信号は青に変わり、群衆は道路を渡り始めた。
 すると右へ左へと車体を揺らしながら一台のバイクが現れた。まるで踊っているようだ。踊りながら警察を待っている。遮るものは何もなく俺の道路だと言わんばかりに自由に動く。主役は彼であった。バイクは横断歩道を渡る人々の間をするりと抜けていった。
 暫くしてパトカーがやってきた。人々は横断歩道を渡っていた。パトカーはもたついている。人々が道路を渡り終え、丁寧に安全を確認した後、車は大急ぎでバイクを追っていった。
 バイクは水をすり抜ける魚のようであった。捕まえにくる人間を嘲笑うかのように、優雅にかつ俊敏に泳いでいく。
 野生だ。窮屈にコードでがんじがらめにされた街など見えておらず、大地の上を滑っていくバイクは痛快であった。小さな祝祭であった。「逃げろや逃げろどこまでも」。なぜだか闘争論のフレーズが頭に浮かんだ。
 
 
 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?