『いらないもの』を捨て続けて、最後の最後に残ったもの

私は大学を中退した。

入学直後「絶対に4年間でこれだけはやり通す」と決めたことがつつがなく終了し、目標を失ってしまったからだ。
「卒業を目指す」ということは大学に通うためのモチベーションにならなかった。最寄り駅から電車で20分という理由で受けただけの大学だし、「〇〇大卒です」といって社会的に立派だと思われるような大学でもなかったし。
家で日がな一日そんなことを考えていたら留年して、じゃあもういいやと思い立つ。やりたいことをやりたいだけやれたし、もう後悔は無い。

唯一、両親の期待を裏切ってしまったことだけは申し訳ないと思う。これは今でも思ってる。

そして私は大学を辞めた。

思えばこれが、私がいらないものを捨て続けるようになってしまった始まりだったのかもしれない。

学歴を捨てた。次に捨てたのはアルバイトと、大好きだったゲームだった

大学に通わなくなってから中退するまでの間で、私は小説を書き始める。
今までにも何度か小説を書いたことはあったが、それはあくまで趣味の範囲で。
元々悩み多き人間だった私が本を読んでいる間は全てを忘れて没頭できた経験から、『読み終わったら少し前向きになれるような本を書ける作家になる』という短期目標、そして後世に語り継がれるような話を書くという長期目標の二つを建てた。

いざ小説を書き始めると、圧倒的に時間が足りない。だから私はバイトを全て辞めた。

バイトを辞めるということは、収入がなくなるということである。当たり前のことだ。

お金が足りなくなった私は3DSとPS VITAを売る。ボロボロになったロックバンドのステッカーが貼られたDSとPSPは、状態が悪すぎて引き取ってもらえなかった。

ソフトも全て売ったので金額としてはそこそこになった。
3DSはモンハンとポケモン、VITAは艦これ改とパワプロくらいしか印象に残っていないが、結構な量があったと思う。

その場しのぎのお金を作った私は、そのお金がなくなるまでにSEOライティングの仕事を始める。何かを書く仕事がしたかったからだ。
初めはクラウドソーシングサービスを使っていたのだが、ただでさえ単価が低いのに手数料が馬鹿にならない。文字単価1円、手数料2割?ナメんな。
アホらしいと思った私は「面白いな」と思ったウェブサイトに直接メールをして仕事をもらっていた。

そんなこんなで、作家の卵が誕生したわけである。


漫画も捨てた。読み返したくなった時に買えばいい

幸いなことに、書いた小説がきっかけでお仕事をいただいた。卵はなんとか孵化することができた。ヒヨコの誕生だ。

自分が本来書きたかったものとは違うけれど、書きたい小説を書きたいだけ書ける作家になるための一歩だと考え、全力で取り組んだ。文字通り心血を注いだ。

心血を注いだ。が、上手くいかない。評価は芳しくなかった。それでも書くしかない。

気分転換に大好きだった漫画を読んだ時、ふと表紙の裏にある作者のコメントが目に入る。

大変なことばかりだけれど、今が充実していてとても楽しいです。そんな旨のコメントだった。

世界に誇るクールジャパンの最前線で戦ってこられた大先輩と、孵化してまもないヒヨコの自分を比べるなんて烏滸がましいにもほどがあるのだが、なんとも言えない虚しさが胸をよぎる。

結局私は持っていた漫画を全て売った。読み返したくなったらスマホで電子版を買えばいいや。今はもう見たくねえ。

そんなことを考えた。

CDも捨てた。インテリアでしかなかったから

漫画を捨てると本棚はかなりスッキリした。残ったのは好きな作家の小説と、中学生の頃からお年玉をつぎ込んでいたCD。

スカスカの本棚を見ていると、CDも要らなくねという考えに至る。CDを買っていたのは好きなアーティストを応援するためで、CDを買った時点でその目的は達成されていたから。
事実、本棚に並ぶCDは買った直後にパソコンにインポートしてから一度も開いていないものばかり。

結局CDも全部売った。ストリーミングで音楽を聴くようになってからは新たに買うこともなくなった。
たまに大好きなバンドの新譜を買うくらいで、スキマ時間にCDショップに立ち寄って新たなお気に入りをディグったり、ジャケットを眺めてニヤニヤしたりしていた昔の習慣は完全になくなってしまった。

まあ、後者はなくなってよかったのかもしれないけれども。

煩わしい交友関係は全部要らない。人の足を引っ張る奴なんか友達って言わねえよ

ゲーム、漫画、CDと、大好きだったものを立て続けに捨てた私。その後も箍が外れたように身の回りのものを処分していく。

スマホカバー。邪魔なだけだから捨てた。

着なくなった服。これも邪魔。スーパーの回収ボックスに全部ぶち込んだ。

音響機器類。音楽を聴く環境にこだわりがあったから色々揃えていたけど、ストリーミングに切り替えてからはそのこだわりもなくなる。

スニーカー。これからも履くものだけを残し捨てた。

ストリーミングアプリ。Spotifyとアマプラだけ残して、他は全部消した。

SNS。上手くいっている知人の近況報告を目にすると、自分が惨めでたまらなくなる。LINEとTwitterのアカウントを消した。
LINEがない生活は想像以上に不便で、すぐに新しいアカウントを作り直したけど。

趣味用で作っていたTwitterのアカウントだけは残した。匿名のコミュニティはこんなにも楽なものなのだと感動したのを今でも覚えている。

6畳の部屋はどんどん広く、空っぽになっていった。大した実績も残せず焦る私をそのまま映したようだった。


捨ててばかりの私だが、付き合いの深い友人たちとはこまめに連絡を取っていた。

根本の部分で寂しがり屋な私は、結局人とのコミュニケーションが好きな人間なんだということに気付く。

友人と会うと、やっぱり楽しい。会話も弾む。

しかし、別にそうでもない”知人”が問題だった。

無神経に「お前今本書いてるんだろ、売れた?」とか、「10年後のこと真剣に考えな」とか、「お前は悩みがなさそうだからいいよな」などと言われるのが苦痛でたまらない。仲が良い人なら全く気にならないのに。

自信を持って書けた作品なら自分から勧める。逆に聞くけどお前は10年後も今の会社で働けると思ってんのか?このコロナ禍の情勢で同じ事言ってみろや。安定目指してんならサラリーマンじゃなくて公務員になれよ何様だテメエ。偉そうに説教垂れんなクソ野郎。

ここで相手の話を受け止め、意見をぶつけ合える人間だったらどれだけ良かっただろうか。話を受け止める器量も余裕も無かった私は知人とのプライベートの関わりを鬱陶しく感じてしまい、飲み会や遊びの誘いを理由をつけて断るようになる。

立て続けに誘いを断られれば、わざわざアイツを呼びたいなどとも思わなくなる。道理だ。

仲の良かった、おそらく悩みを打ち明けたら親身になって相談に乗ってくれたであろう友達の誘いも、焦りに焦ってギチギチに詰めた仕事が終わらずドタキャン。「もうお前知らねえから」と言われても、これに関しては徹頭徹尾私が悪いので返す言葉がない。

そんな日々が続くとだんだんと誘われる頻度も減っていき、代わりに仕事の打ち合わせ以外では全く外出しない日々が始まる。

がらんどうと化した部屋で一人、焦りと緊張の中で小説を書く。こいつも添削と修正を重ねるうちに自分が書きたかった話からどんどん離れていってしまった。

もう限界だった。ヒヨコはどこまでいってもヒヨコのままで、羽も心も折れてしまった。

捨てて、捨てられて、それでも残ったもの

進路で悩んだ時とか、元カノと別れたくてたまらなかった時とか。
私は昔から強いストレスがかかると体調を崩してしまう人間で、今年の夏についに病院のお世話になる。

胃潰瘍だった。今となっては別に大した病気じゃないと思えるが、腹痛のあまり自分の足で病院に行くことすらままならなくなるほど余裕を失くしていたことに、ことここに至ってようやく気付く。

とりあえず胃潰瘍を言い訳に、受ける予定だった仕事を全てキャンセルさせてもらった。

その後も何もする気が起きず、ぼーっと音楽を聴いたり艦これをしたりNBAを見たり、最後の最後まで手放さなかった趣味を堪能していた。
PTPは最強だしエルレは最高。楽しいシーズンをありがとうOKC。そしてラブリーマイエンジェル風雲ちゃん。

現実逃避でしかないことは分かっていたけど、他にやりたいことがない。先のことは考えられない。

そんな日々を過ごしていた私だが、ありがたいことに連絡が途絶えがちな私をいまだに心配してくれる友人がいた。それも一人じゃなくて何人も。

「今暇してる?」だったり、「お前の仕事が落ち着いたら飲みに行こうぜ」だったり、「明日生保レディと合コンするからお前も来い」だったり。

涙が出るほど嬉しかった。捨て続け、見捨てられてきたここ数年だったけど、それでも最後に残った友達とは誠実に付き合おうと心に決めて、予定の合う友人には会えるだけ会った。合コンは行かなかったけど。

そして自分の近況を打ち明ける。


結局作家として人気でなかったんだ。これからどうしようか今悩んでるところ。


仲の良い友人にこそ「俺の親友、今本書いてるんだぜ。すげえだろ」って胸を張って言ってもらえる人間になりたかったから、挫折してしまったことを口にするのは本当に怖かった。
もしかしたら声が震えていたり、泣いていたりしたかもしれない。

それでも私の自慢の友人たちは、誰一人として半ば夢から逃げた形となった私のことを笑わなかった。

そして、どこまでもダサすぎる私の悩みを聞いてもらうことで、ようやく私の中に相手の近況を尋ねる余裕ができる。

ある友人は職場の既婚者の上司のことが本気で好きになってしまっていた。
なんだよそれクソしょうもねえな。でも上司に少しでも良く思われたくてタバコ辞めて、仕事でもちゃんと結果出したんだろ?滅茶苦茶カッコいい男だよお前は。

またある友人は時代錯誤の苛烈なパワハラに悩まされていて。
俺同世代の中で日本一頭良いと思ってたんだよ、お前に会うまでは。そんな会社辞めちまえよ、お前ならもっと規模のでかい仕事できるぞ。俺と一緒に転職活動しようぜ。

怪我が元でスポーツ選手としてのキャリアに終止符を打った友人。
引退すると決断した時どれだけ悩んだんだろう。

8士業の資格取得のために進学したものの、既に社会人として働いている周囲とのギャップに悩む友人。
彼は周りに流されず、自分に確固たる自信を持った人間だと思っていた。だからといって自分が進んできた道に不安が無いわけじゃないよな。

誰しもが大なり小なり悩みを抱えながら生きていて、私の悩みも”大なり小なり”でまとめられるうちの一つに過ぎない。そんなことにようやく気付いた。

改めて『これからどうするか』を考えると、作家としてやりたいこと、書きたいことは変わっていない。そしてそれだけではなく、誰しもが抱える悩みに寄り添えるような仕事がしたいと強く思う。

ギリギリのところで自分を支えてくれた趣味はこの先一生大事にするし、立ち直らせてくれた友人たちには「あいつ俺の親友なんだぜ」誇らしく思ってもらえるような人間になることで恩返しをしたい。

RIZEもNow it's my turn to show Why I'm meって歌っていた。つまりはそういうことだ。

俺が俺であるのはお前らのおかげだ。これから見ててくれよな。

ドロドロしてて青臭くて安っぽい文章を書いてしまった。恥ずか死

実はこのnoteを書いていたのはかなり前のことで、ここひと月ほどは法事で実家に帰省していたり様々なトラブルに追われたり、パソコンを開く余裕が一切ない日々を過ごしていた。

自分の中で様々な感情に区切りが付いた時に書いた文章だから、これからの決意表明的な意味合いもあり相当に気合いが入っている。

というか、気合が入り過ぎて今読み返すと恥ずかしい。恥ずかしさのあまりこうやって後から茶化す文章を付け加えているくらい恥ずかしい。

しかしだ。

私の決意は色々あってあまり身動きが取れなかったこのひと月あまりの間も変わっていないので、恥ずかしさをこらえてこのまま投稿しようと思う。

次はもっと頭空っぽな文章書くからな!!本来はう●ことち●こでゲラゲラ笑ってるような人間が俺だからな!!!




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