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ここだけのはなし[02]

01.「家は商品か?それとも…。」

注文住宅の設計は、依頼主との共同作業になると思ってます。

「制約とどうつきあうか」にも書きましたが、依頼主の生活を書き出す訳ですから、設計者はお手伝い(サポート)をする事が基本です。「普段の生活がどうなのか」から始まって、近未来の予測や想像、もう少し先の展望とか希望をヒアリングすることから始めます。(具体的でなくてもお話を聞きます。)

そんな手続きを事前に説明して了解してもらうのですが、なかなか(意図したことが)理解してもらえなくて困惑される場合もあります。

大抵は、「LDKは12畳」とか「子供室は6畳を2つ」とか広さや員数を希望として用意しておられます。もちろん後々、物理的な事も聞きますが、開口一番「3LDKとか6畳二間と8畳の和室」などのパターンでメモなどを示されると「生活像が見えなくて」部屋のつながりとか使い方がイメージできなくて困ってしまう訳です。

住宅を建てるということは、商品住宅を選ぶこととは違うと思います。商品住宅は良くできているかもしれませんが、モデル化された家族像と想定の生活のパターンからつくられた規格化商品です。既製品の洋服と同じで袖が少し長くても、袖まくりをしたりして、身体をその服のほうに合わせるように工夫しますよね。

ご自身の生活を規格住宅のほうに、合わせているわけですね。。

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では、⠀一つ目の逸話になります。⠀

02.「『ピンクがいい』と彼女が言った。」

北関東での出来事でした。若い新婚カップルが住宅を建てるというお話があり、参上しました。土地も購入済で、木造2階の一戸建てが希望だと聞いていました。

新婚さんなので、いろんな夢があるんだろうと思って楽しみにしていたのですが、いざお会いしてみますと、奥さんが目の前の白い瀟洒な家を指さして…。

「あれがいいの」と仰ったのです。

彼女が指していたのは、駅前に建つ典型的な「建て売り住宅」だったのです。

「外観のイメージはあんな感じがお好きなのですね?」と聞き返すと。

新聞のチラシを、バッグから取り出して……。

「外観はあれの色違いで、ピンクがいいんですけど。間取りはコレでいいんです。」と真ん中のプラン(平面図)を指さしたのです。

もし、あの建売が同じ間取りならば色だけを指定してその建売を建てれば良いと思ったのですが、そこはクライアントになるかも知れない方々なので、喉まで出かかった言葉をぐっと飲み込んで…。

「同じ間取りで、塗装を違う色で仕上げればいいんでしょうか?」「まだお子さんはね……。いつ、何人出来るかも分からないのに…ですか?」と聞き返すと。

今まで無口だった旦那さんが「僕は前からあれが好きだったのです。で、色は嫁が好きなピンクでやって欲しいんです。」

「子供は2人で2部屋あればそれぞれに当てられますし、暫らくは納戸にしておきます。」と仰っいました。

なるほど規格住宅のモデルのような家族になると言うことだと理解しましたが、土地の方位もサイズもこれから見ないと分かりませんし、何よりその間取りが敷地環境と合致するかどうかも不明だったわけです。

「商品住宅や建売を買うこと」をとやかく言うつもりはありません。予算や仕様に制限がある訳では無いなら、なぜ既製品や規格品を買うと仰ってるか意味が分からなかったのです。

今それらを詳しく説明するわけには行かないので、敷地を拝見してからもう一度お話をお聞きしましょうということにして、その場を離れました。

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03.「規格住宅は万能か?」

後から関係者に聞いたところ、この辺りの若い人は「駅前の建売住宅がある種、ステイタスで、憧れの家になっているんですよ。」と教えてくれました。

まぁ。好みと言えば、それはそれで仕方ないけれど、余りに夢がないし、そもそも日照の確保や風の流れ、アプローチの方法や外からの視線など敷地の環境によって左右される事を無視してはめ込むわけにはいきません。

モデルルームに建っている商品住宅や企画住宅は、一応方位や想定敷地の特徴を考慮して建てられていると言うものの、いろいろな意味での最大公約数的な仕様になっています。もったいない採光窓や眺望の悪い窓とか、全く風の通らない窓などが平気で採用されています。見た目は良さげに見えていますけれど、そのまんじゃ住めたもんじゃない家も多く存在します。

商品住宅は、全ての敷地に万能で対応できるわけでは有りません。車や時計のように、そのもの自体の性能だけでは対応しきれません。土地に定着させ「環境」に配置しないといけないからです。

おしゃれな外観や素敵なインテリアに憧れても、敷地の環境から考えれば全くマッチしないこともあるし、西日を受けてしまう窓や通りからまる見えの居間などの致命的な結果になってしまうことが心配なのです。

さらに、住宅はかなり長い間生活するための器になりますから、こども達の成長やご夫婦の加齢に伴う身体的な衰えなどの備えを想定しないといけません。5年から10年単位毎の生活の変化やその対応などを想像しながら「長く使える」物である必要があります。その度に改装するわけにはいきませんし、改装するにしても構造物などは簡単に変更できないからです。

<詳しくは書きませんが、商品住宅は増改築に対応(できる)してるといっていますが、多くは全く出来ない状態です。→規格住宅が特別な構造のため。>

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04.「まとめ」

詳細になるともっといろんなことがあるのですが、ここで紹介しようとしたのは。

A.生活スタイルに対応した「住宅」になっているか?規格住宅で収まるようなスタイル。

 つまり生活に合った「住まい」でなく「家」のほうに生活を合わせるということです。特殊な家族構成の場合は、全く規格モノにはフィットしないですね。3人以上の子沢山とか介護の親御さんがいる場合などでは標準では用意されていなかったですね。(最近は、これくらいのパターンは織り込み済みなのであるかもしれません。たまたま規格住宅の家族モデルと同じ場合は使える場合もあります。)

B.住宅は敷地環境と密接な関係にある。(配置計画が重要です)

用地の方位や隣接の建物や環境、接道の様子などから環境の要因を上手く活かさないと障害になることがある。そのものが建つ土地がないとそもそも計画の糸口がないですね。相当自由の効く大きさがある場合じゃないと難しいと思います。規格住宅は無難な仕様になっているために「中途半端な結果」しか得られないと思います。

CMや宣伝の効果は大きいし、商品イメージやブランド化には大金が掛かっているので購買意欲はとても刺激されていますし、何より具体的なものが見れるので想像しやすい。想像力なんていりません。

「住みやすさ」とか「使いやすい」というのは、想像力や工夫がなくても大丈夫だという意味です。「誰でもOK」という業者たちによる「魔法の言葉」です。なぜなら「少しだけ想像力を働かせたり考えれば」分かることだからです。

考えない従順な消費者を作り出しているだけだと思います。

「住宅」は、選んだり買ったりするものではなくて、(自分で)つくるものだと思います。住まい手はその器を長く使えるように、考えて工夫して、本当の意味で「自分(達)の住まい」につくり上げていかないといけません。そのためには「生活」や「家族」のことを考えて、周辺の「環境」の様子をしっかりと観察しないといけません。

物理的な問題や、予算、法的な工夫は専門領域のこともありますし、お手伝いしないと無理だろうし、代理人が必要だと思っています。

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ちなみにこの新婚さんには、丁寧に説明して考え直されるようにお勧めしました。





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