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エッセイ【後入れ調味料を先に入れたい】

目が覚める。
ベッドに座って血液が頭まで上るまで待ってから立ち上がる。冷たい廊下をに急かされて逃げ込んだトイレの小窓から、冷たい風が吹き込んでくる、くしゃみと一緒に眠気が飛ぶ。日差しが目に痛い。十一月の終わり、冬の匂い、の偽者。

洗面所で顔を洗い、歯を磨く。鏡が歳をとっている。
ぼんやりとさっきまで観ていた夢を思い出そうとしてみるが、うまくいかない。懸命に掴まえようとする手からスルスルと逃げていく、その内、いつもの様に諦める。

昨晩の残りの銀杏とベーコンとほうれん草の炒め物を温める。

ガラス戸を開けたままにしていたベランダから雀が一羽、迷い込んできた。
暫し、雀の愚痴を聞いてやる。そうか、お前も色々と大変なんだな。

他人が何を考えているのかを理解するのはとても難しい。
分かったつもりになっても、勘違いやすれ違いばかり。
相手を理解するって事は、相手の中にある自分を理解するって事かもしれない。だから必死で相手の目の奥を探すんだけど、見えない。

雀はひとしきり話すと、大して満足もしていない顔で飛び去った。

銀杏の苦味が口の中に広がる。
それとよく似た苦味が心に残っている。

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