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読書遍歴

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自分が読んで、面白かった!ぜひ読んでほしい!という本をできる限りネタバレなしでご紹介しています。
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読書遍歴

我が家の母親によれば「あんたは昔から本が好きだった」そうな 確かに小学生のころから昔話、民話、ポプラ社(多分)の二十面相・ホームズ・ルパンを自宅と学校の図書室で読みまくっていた記憶があります。 そんな自分が中学一年生になったとき母親が勧めてきたのが 角川文庫版 犬神家の一族 面白かったなぁ。そこから横溝正史にドはまりして、新刊が出たぞぉと書店で小躍りして喜ぶ夢を見るほどでした。 今思うと中学一年生に読ませる本ではないと思いますが、この出会いに感謝しつつすでに40年以

ダーウィンの呪い 千葉聡著 講談社現代新書(2023年11月発行)

これは「タイトル買い」です。著者が千葉先生ということもあり、なんかまたとんでもないタイトル付けたな、と思って手に取りました。 このタイトルから単純に考えれば 「ダーウィンが放った一言によって、のちの人々がその呪縛にとらわれて困っている」 というものかと思うでしょうが、実際にはまったく逆で、本書の紹介文を引用すると でした。近そうに見えて実際には逆でしたね。 この紹介文にある3つの呪いについて本書では「誰が」「いつ」「どのような経緯で」世に広めたのかが丁寧に描かれています。

化石に眠るDNA 絶命動物は復活するか   更科功著 中公新書(2024年2月発行)

更科先生の本は見つけたら即買い!即読破!を心掛けているのですが、今回はしんどかった。 生物学、進化学の本はそれなりに書棚に並んでいるのですが、正直言ってDNAに関してはいまだにピンと来ておらず、そして本書はその大半がDNAおよびその解析の仕組みについての説明。 更科先生らしく、いろいろなたとえを持ち出してくれてはいるのですが、素人の限界ですね、わからんものはわからん! またテーマが「古代DNAに魅せられた探究者たちのドラマ」であるため、DNA解析の細かいところをすっ飛ばし

音楽の美しい宇宙 和声、旋律、リズム ジェイソン・マーティヌー著 山田美明訳 創元社(2015年9月発行)

音楽系の話題はそれを専門にしている別チャンネルでご紹介するのですが、今回は「あまりに美しい」ので、こちらでもご紹介です。 本書は「音楽」に関する基礎知識を解説するもので、特に目新しいことが書かれているわけではありません。 そして音楽の基礎知識はどの本も内容に大差なく(主張が異なる場合はありますが)、いかに分かりやすく解説するか、に力点が置かれている気がします。 そんな中、本書は基本的な事柄を簡潔に(過はないけど不足もあまりない)まとめられています。もちろん、本書だけでは全

骨が語る日本人の歴史 片山一道著 ちくま新書(2015年5月発行)

おおむね、旧石器時代といわれた頃から江戸時代ぐらいまでで発掘された人骨をもとに、日本列島に暮らしていた人々の特徴の変遷をたどっています。 表紙見返しに書かれている概要は次の通り。 本書では著者の考えに基づいて様々な言葉の定義がされています。また学校で習ったような「縄文」と「弥生」の時代わけについても、その根拠がいかに薄弱か、そして地域特性がいかに大きいかを史料などに基づいて解き明かしていきます。 本書は2部構成となっていて、第1部では「日本人の実像を探る」として発掘された

宇宙からいかにヒトは生まれたか 偶然と必然の138億年史 更科功著 新潮選書(2016年2月発行)

専門書もしっかりと並んでいる大きな書店にぶらりと入った時に偶然みかけて、しばし悩んだ後、購入しました。 悩んだ理由は宇宙の誕生や生命の誕生について時系列に沿って語られる書籍はいくつも持っているからですが、購入した理由はこの著者が大好きで、出版されている書籍の大半に目を通しているからでした。 内容については悩んでいた理由のとおり、他の書籍やこの著者の著書にある内容を宇宙誕生から現在までの時系列に並べ直したものでした。 ただ、著者の安易になりすぎないかみくだいた説明と、論理的か

知られざる日本の恐竜文化 金子隆一著 祥伝社新書(2007年8月発行)

古書店で懐かしい名前を見つけてつい購入してしまいました。本書は「恐竜」について書かれているものではなく「恐竜ブームの虚像と実像」について様々な観点から(といっても主にオタク文化から)書かれています。 概略は次の通り。 今(2023年)から考えると16年ほど前の執筆なので、現状とは違うんだろうな、と思いつつ読み始めましたが、なんだか昨日執筆されたような印象をうける内容でした。変わっていないんですね。 執筆時点では「福井県立恐竜博物館」もオープンしていましたので、恐竜の新発見は

特撮の地球科学 古生物学者のスーパー科学考察 芝原暁彦、大内ライダー著 イースト・プレス(2021年4月発行)

映画などで描かれている内容を「事実」としてとらえ、それを様々なジャンルの科学の面から解説するという書物はそれこそ「山のように」存在します。 ブームのきっかけとなったのは「空想科学読本」シリーズだとは思いますが、それ以前にもサブカルチャー的書物の中でコラムとして記載されていたり(といってもその文章は柳田理科雄氏が書いていたりするのですが)、宇宙物理学専門の福江純氏が科学的見地でSF作品(主にアニメかな)を解説したりしていて、結構な歴史があります。 そんな中、「地球科学」という

人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか 中川毅著 講談社ブルーバックス(2017年2月発行)

本書はとあるオーディオブックのサイトで聴き放題に入っていたので何気なく聞いてみて「面白いじゃん」と思ったのであえて購入したものです。 本書は人類が生き延びてきた数万年の気候変動を福井県の湖の湖底に眠る資料が読み解き、気候変動のメカニズムを読み解いています。 新しい知見に満ちた傑作でした。 概略としては次の通り。 本書は全6章から構成されています。 プロローグ──「想定」の限界 ○年に一度という表現と気象災害における「想定外」という言葉について古気候学の博士らしい冷静な表現

ヒトはなぜ死ぬ運命にあるのか 生物の死 4つの仮説 更科功著 新潮選書(2022年5月発行)

本書は新聞の紹介欄で見つけて以来、しばらく探して購入しました。なかなか新潮選書が並んでいる書店が近くにないんですよね。 著者の著作の中には「生物の死」について触れているものもありますが、今回はまっこうから「生物の死」に取り組んだものになっています。 本書では「生物の基本形は不死」であるとしながら、多細胞生物になり体中に複雑な機構を有する我々ヒト(をはじめとする各種生物)が死ぬようになった理由の仮説を4つ紹介しています。 いつものことながら、「断定的に」これが正しいもしくは

殺人鬼探偵の捏造美学 御影瑛路 講談社タイガ(2017年11月発行)

誰でも探偵になれるのがミステリーの良いところですが、よりによって「殺人鬼」が探偵になるとは世も末です。 とはいえ、いくら殺人鬼とは言っても、世間の悪をただしたり、個人的な復讐を果たしたりなどの大義名分があるだろうと読み始めたら、本当に単なる美学を追求するだけの殺人鬼でした。 いいのか、これ。 このあと、「氷鉋清廉」の超越的な推理が披露され、よどみなく解決に向かっていくのですが、それにつれて、事件の怪異性、異常性がさらに明らかになり、結論に至るまでには二重三重のどんでん返しが

阿修羅像のひみつ 興福寺中金堂落慶記念 興福寺監修 朝日新聞出版(2018年8月発行)

本書は2009年に行われた阿修羅像のCTスキャナ撮影の結果を取りまとめたものです。数多くの研究者が9年間かけて取り組んだ研究結果が掲載されています。 構成としては全5章に分けられています。第2章だけは2節に分けられていますが、原則として章ごとに著者が変わります。 読み物というより、各研究者の発表という書籍です。ただ、図版・写真が豊富であることと、監修がしっかりしているのか、各研究者間で重複するような記述が少なく読みやすくなっています。 珍しい話ではないのですが、個人的に阿

古代文明と星空の謎 渡部潤一著 ちくまプリマー新書(2021年8月発行)

いやぁ、書籍の紹介にこんなこと書かれたら、すごく期待して買ってしまうよね。 いやね、嘘ではないんですよ。本当にこの通りのことが書かれているのですが、手に取る前は「お、ついにこれらの謎が解明されたのか」と思ってしまったのですよ。 実際には「古代文明と星空の謎」ではなく「古代文明と星空の関わり」ぐらいの内容でした。 分散しがちな知識を整理するにはとてもためになる本でしたが、当初の(勝手な)期待が大きかったので、ちょっと残念な感じです。 ちなみに目次は次の通り。 ただ、天文

名探偵クマグスの冒険 東郷隆著 清山社文庫(2013年1月発行)

この著者の作品は、昔に「定吉七番シリーズ」にはまっていたのですが、それ以外の作品が、あまり性に合わなかったのでしばらく遠ざかっておりました。 そんな中、某巨大中古本チェーンでこれを見つけ、主人公に魅かれたため購入して読んでみました。 主人公の「クマグス」というのは言わずと知れた「南方熊楠(みなかたくまぐす)」のことです。 あらすじはこんな感じ。 過去の有名人を探偵に仕立てた作品は数多くあり、その大半が「洋行した折に語られなかった物語」に代表されるように、日常生活の「隙間」を