見出し画像

もう少しそばに置いておこうと思う。『アンジュール‐ある犬の物語‐』

すでに逆算の人生、ぼくが死蔵、塩蔵しているよりも誰かの役に立つこともあるだろう、と蔵書の整理。

整理のきっかけは、知人のお孫さんが二歳になられたこと。
いつか彼女が手にするその日のために、まずは絵本から手を付ける。

ぼくと家人の絵本冊数をお菓子のパックといっしょに送り出した。

手元に残したのは三冊。
これもいつか誰かのものとに届けようと思うが、もう少しそばにと思う。

ガブリエル・バンサン『アンジュール ~ある犬の物語~』は、鉛筆デッサンによる絵本。
彩色も、テキストも施されていない彼女の最初の絵本。

読み取れるだろうか、タイトル「アンジュール」の上に“UNJOUR,UNCHIEN”とフランス語で書かれている。
ある日、わんわん~の意。

何度ページをめくっても怒りがこみ上げる。
絵本の中の話なのに。

ある日、この犬は疾走する車の中から放り出される。
走っている車の中からだ。


それでも必死に車を追いかける。さっきまで彼の家族だったのだから...

車は走り去り、彼は探し続ける。家族だと信じていたものを探し続ける。


いろいろなことが起こり、疲れはて、座り込み、道に、街に蹴とばされながら、とぼとぼ歩きまわる。

ある日、道の上でひとりの子どもに出会う。

ゆっくり、注意深く見つめる。
もうあんなさびしい、せつない思いはごめんだ。
近づいていくる子どものやさしいまなざし。

彼はたたずむ。

そして、


ふと気になったことが。
子どもが持っているのは、ただのバッグなのだろうか?

見慣れてしまったページをめくりながら、そんなことを、もう少し考えていたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?