抗うつ剤に強さランキングはあるか?

抗うつ剤の強さのランキング、多くの人が気になると思います。有名なMANGA STUDYという抗うつ剤をランキングした研究を皮切りにいろいろな論文で、抗うつ剤の強さ、ランキングが検討されています。

多くの人はこんな風に考えるんじゃないでしょうか?

「弱い抗うつ剤を出されたから軽症と思われているのじゃないだろうか?」

確かに、例えば○○という抗うつ剤を飲んでいて、「○○は抗うつ剤としては非力である」なんてウェブで書かれているのを見て、「私はこんなにつらいのに軽いんだ」と考えショックを受ける人はいるでしょう。

しかし、この考えは多くの意味で誤っています。その理由を3つ述べておきます。

1.うつ病自体が重症度の高い病気である

このことを忘れている患者さんに限って、「私は軽症で甘えてるだけじゃないのか」とか「自分は何もできないダメな人間だ」と思う傾向があります。正しい考えは、うつ病・うつ状態、と診断された時点で、右足の一番太い骨(大腿骨)を真っ二つに折ってしまうくらいの重症度であると知ることが大事です。よって、どんな薬が出ようが、処方薬で重症度を推測することは、意味がなく、回復を遅くします。

2.単剤・副作用の少ない薬、が選択されることが多い

患者様は「自分のうつ度に合わせた薬を出してほしい」と考えますが、「副作用の少ないものを数少なく出す」といった考えで処方されることが多いです。例えば、巷で言われる「トリプタノール最強説」を例にとると、この薬は確かに鬱に対する効果は高いと認められていますが、便秘、口の渇き、眠気、体重増加などデメリットが多いのです。そのため、こういった副作用の強い薬は、患者さんの生活の質を下げてしまうことがあります。ですので、副作用の少ないセルトラリンなどの新しい薬を出されることが多いです。しかしこのことは、あなたの症状が軽度であることを意味しません。あなたが「どのくらいの副作用に耐えられるか」を考えながら処方されているのです。(医学的には忍容性が高い、などといわれます)

3.抗うつ剤のランキングはあまり意味がない

抗うつ剤の効果の優劣はつけられない、という考えもあります。というのは、薬の効果は、種類ではなく、患者さんの体質に影響を受けるからです。ですので、○○がよく効く、と言われたとしても、それはあらゆる人に言えることではなく、効果がない人もいます。実際、多くの論文で、抗うつ剤の効果のランキングが示されていますが、どの薬があなたに効果的であるかというのは、ランキングで決めるものではないのです。どちらかといえば症状と副作用のバランス、他の薬と飲み合わせたときの影響、などを考えて処方されています。某論文ではトリプタノールが最強、としていますが、ランキングが絶対的なものであれば、トリプタノール以外の抗うつ剤は不要です。しかし、抗うつ剤は何十種類も存在します。それはなぜかといえば、効果に個人差があるからです。

以上が、抗うつ剤から重症度を測ることが誤っているということの理由です。

とはいえ、自分の処方に満足していない人もいるでしょう。そういう方は、医師に正直に言えばいいと思います。例えば鬱が良くならない場合、「○○という薬がよく効いたというのを知ったのですが、ためしてみることはできますか?」「新しいお薬のトリンテなんとかっていう薬って私にあいますでしょうか?」などと提案するといいでしょう。

まれに、患者さんから薬の提案を受けることを非常に嫌う医師がいます。しかし、今の医療というのは、昔のように「お医者様が決めて患者は黙って言うことを聞く」というスタイルから、「医師が複数手段を提案して患者さんとともに最善策を選ぶ」というスタイルに変わってきています。私は、前者のタイプの医師にかかったときは自殺未遂しまくりでした。後者のような医師に出会ったとき、はじめて回復の兆しが見えました。

そういうことは、医師との相性、という言葉で表現されるかもしれません。大切なのは、薬との相性よりも、医師との相性なのかもしれませんね。

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