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英語と魔術を今年は学ぶ:奇書「「魔術」は英語の家庭教師」のすすめ

学びます。先日この本を手に入れたので。


この本の概要

1985年出版、定価980円でした。よくある雑学系新書本です。
著者は某大学の英語講師にして魔術師です。Vtuberや芸人の設定としての魔術師、手品師としてのマジシャンではないですよ、英国の魔法結社黄金の夜明け団(ゴールデンドーン)の流れを汲む、国産魔術結社の魔術師です。

本書は英語学習の手引きでもあり、魔術入門書でもあります。

一章では英語と魔術の関係をざっくりと解説されます。日本語話者でない人が陰陽道や神道を理解しきるのはまあ難しいだろうなそれは確かに、と思わされます。

二章では英語感覚を身につけるには「魔術」が必要である、天道説の感覚を身につける必要がある境界線の魔物を従え「最大公約イメージ」を掴むことの重要性を説きます。

三章は前提を踏まえたうえで、西洋魔術の「どんなことでもこの図で表せる完璧シート」であるところの「生命の木(セフィロト)」へ英単語と動詞を流し込んでいく具体的な方法。

四章は魔術師としての技術と儀式について解説されます。
魔術師になるための儀式の方法(ナイフとか媒介とか使う本格的なやつ)、魔術師としての「日記」の重要性など。この章は九割くらい魔術の話。

右ページ、魔術日記のサンプルと重要性について。左ページ、魔術師になるための技術応用バージョンについて。天使のかわりに記述する邪神、クトゥルフ神話やんけ。

五章、六章、七章は参考文献と「イギリス」という国とどう向き合うか、みたいな話。

本書のメイン理論

英単語は丸暗記ではなく「概念」で覚えるべき、というのは近年の英語学習書にもよく見られる記述です。
orangeを「みかん」として捉えるのではなく、orangeという文字を見たら、手のひらにすこしあまって、皮がぶあつい、あの「あれ」をイメージできるようになりなさい、というやつ。
haveは「持っている」ではなく「なんかこう抱え込んでるっていうか所持してるステータスっていうかそういうかんじ」みたいな、「あれ」をイメージできるようになりなさい「最大公約数イメージを得なさい」というのが本書の軸です。

本書の論をものすごくざっくり要約すると、英語でなくても、母国語の日本語であっても、「単語」を発する時には深いところにある「イメージ」を掬い取って酒瓶に入れてそのラベルをつけて使っているようなものなわけです。で、英単語としての「暗記」はラベルの暗記をしてるだけ、と。

例えば今わたしの目の前にはふわふわの猫がいるわけですが(かわいいですね)、この「ふわふわ」は猫にしか使えない唯一無二の形容句ではなくて、猫を見て「なんかここちよくて軽くてあたたかそうでさわりごこちのよさそうなもの」みたいに感じた感覚に「ふわふわ」のラベルを貼って表現してるんですね。
単語イコール単語で覚えているといつまでも異国語を自分のものにはできない、「なんかああいうかんじ、という「あれ」を積み上げていけ」という話。

で、母国語でも深いところのイメージを掬い取って酒瓶に入れているのは「境界に住む精霊/魔物/天使」であるとされています。魔術では。
なので「今自分の中にいる境界の精霊/魔物/天使は日本語専門職員だから、新しく境界の精霊/魔物/天使を儀式で作り上げてそいつを英語用に育てちゃお!」「だから魔術師になろ!」というのが本書の四章です。

書見台いいよって記事で上げたら「置いてある本のほうが気になる」といわれた写真

三章では生命の木、タロット、西洋占星術のコアとなる単語の対応表があり、これだけでもめっちゃ楽しいです。

日本語の本でたくさんページを使って表現されている概念が、その単語の「最大公約数イメージ」を「自分の感覚」として理解できます。生命の木、タロット、西洋占星術は西洋魔術の基本なので(タロットと西洋占星術はカバラ(=生命の木)の二人の娘、と呼ばれたりもします)、この三章だけでもオカルト好きにはすさまじい威力があります。

タロット解説書では1枚あたり2~4ページ使って解説されてる小アルカナの意味が単語ひとつで……

著者の話

著者の「長尾豊」は偽名というか筆名です。
ご本名は「江口之隆」さんで、wikipediaにも項目あり。

本書の内容をそのまま受け取るなら、学生時代に西洋魔術にドはまりしてそのままロンドンで10年過ごして生活のために英語講師になったりジンバブエで呪術の勉強をしたりしていたようです。

本書の中に、境界線の魔物以外の学習方法もいくつかあります。
その中に「好きな映画を死ぬほど見て真似しろ」というものがあります。のだめカンタービレでのだめも同じことしてましたね。

本書の中で、著者はスターウォーズを三ヶ月で127回見たという話が出てきます。当時はレイトショーがあったので連続視聴ができたようです。
で、観るだけではなくなりきって発音もしろ、読み上げろ、全部セリフ言えるようになれ、とも書かれてます。その映画の選び方も書かれてます。
著者、ダースベーダーの衣装一式を揃えて家の中で何度も繰り返し練習したと本書に描かれてます。それほんとに英語学習のためか? 他のスイッチはいってないか?

そうそう、この方、けっこうオタク気質です。1980年の時代でこれができているというところにもかなりの「本物」感がありますし、ご本人のホームページの日記ではダイエットの筋トレ中にアニソン聴きまくってるという話も出てきます。

40年前にイギリスで魔術師になろうとする人物が、スターウォーズ127回見る人物が、オタクでないわけがないんや…… 江口先生、今期アニメ何みてる? ダン飯とフリーレンは観てるよね? ブレイバーンどう思う?

ちなみにご本人が現在動かしてるTwitterアカウントがこちら。オタクやってたら一度や二度はバズって流れてきたの見たことあるんじゃないでしょうか。

なお先生のホームページには、本書の「境界線の魔物」を転用してダイエットを成功させた記事もあります。魔術ダイエットです。

魅力的かつ馴染みのあるタイプの人物が軽妙に書いてる本書の文章、読み心地もとても良いです。

復刊してほしい

そんなかんじで、各地のレビューを見ても「今だにこんな種類の英語本は存在しない」と言われている「魔術は英語の家庭教師」ですが、残念なことに絶版が続いており入手価格はバリ高です。。

ちなみに私は、数年前に図書館で借りてずっと欲しかったんですが古書価格20000~30000で、欲しい……でも……をくりかえしながらメルカリぼんやり見てたら書庫整理と思われる方が7000円で出品してたので「今だ!!!!!!!」と購入しました。(この方のほかの出品もセンスを感じるものばかりだった)

そして復刊ドットコムのURLはここだ。

これは当時最新だったコンピュータープログラム(著者自作)の瞑想用プログラム。女神転生だ……女神転生の世界だ……


英語入門としても魔術入門としても素晴らしい本なので、今年はこの本をしゃぶりつくして(=本書に記載されている英単語の意味くらいは「概念」としてモノにして)いきたいと考えてます。

生命の木やタロット、西洋占星術はうっすら覚えているだけでも「ああ、あれはこれと同じ構造ね」と感じ取ることができて未知のアウトラインをざっくりとるのに役立ちます。
なので今年は英語と魔術を覚えていきたい所存です。

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