恋心の行方

折角のライブハウスの中で、
立ち尽くしたまま動けなくなった。

音楽でさえも、今の私には触れられず、
有り得ない速さで動く心臓を大爆音が揺らしていた。

震える手で必死に抱え込むチョコを、
熱を帯びる私が溶かしてしまわないか、
それだけが、ただ心配だった。

結局渡しそびれてしまって、
態々溶かすような真似をする必要はなかったのだけれど。

ライブ終わり、近くのコンビニに駆け込んだ。

ハイライトメンソール2つ。
ひとつにはメッセージを書いた。

"メンソール"という響きになんだか恥ずかしくなった。

物販最後尾。
チョコと煙草を持って並ぶ。

時間を取らせてしまう分沢山お金を使おうと思って、金額も見ないで欲しいと思ったもの全てを口にした。

「これ、もうすぐバレンタインなので。」

私の大好きな人は、
一瞬驚いた顔をして、目尻に皺を寄せた。

「最近彼女に振られたから嬉しい。」

同じ表情でそう言い放った彼に、
少しだけ胸を痛めた。

そりゃそうだよな。
彼女の一人や二人くらいいるよな。
想像はしてたよ。
それでも、辛い。

それなのに、辛いのに、
話せたことが嬉しくて、
彼の笑顔が私の暗い気持ちを消し去ってくれる。

やっぱり私は、彼が大好きだ。

出待ち宣言をして、
サインを貰う約束をした。

大勢の人だかりの中で、
ペンとタオルを握りしめて一人。

寒いのに、暖かい。

彼が出てくる頃には、
私一人だけになっていた。

そんな私に気付いて声を掛けてくれた彼。

「ごめんね、終電大丈夫?」

どうでもいい少女にも優しくしてくれるのか。
最大の嫌味と祈りを込めて私は言った。

「終電もう無くなっちゃったんです、笑」

毎晩悩んで、結局決められなかった言葉。
好きも伝えられなかった。
これ以上、距離が縮まることがないのも分かってる。

それでも。
積み込みの邪魔に見える赤い箱を、
彼は大事に抱えていた。

それだけが、全てだった。

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