探偵

日常_08【名探偵コナン 左右対称を愛しすぎた建築家】

今回はタイトルにある通り、言わずと知れた大人気漫画である「名探偵コナン」の映画で犯人役として登場した建築家について書いてみようと思う。

先に言っておくが、私は小さい頃は漫画やアニメを毎週欠かさず見ていたし、今でも毎年映画は必ず映画館で観る程、名探偵コナンが好きである。

「建築家で犯人」と聞いただけで、どういう話だったかとすぐにわかる人も、もしかしたらいるかもしれない。

私が今回取り上げたい「名探偵コナン」のエピソードは、第1作目の映画である。

【時計仕掛けの摩天楼】

この映画での犯人は、建築家である「モリヤテイジ」という人物が自身で設計した建築を「シンメトリー(左右対称)ではない」という理由で爆発させるという、なんともサイコパスな建築家が登場する映画である。

映画の最後では爆破されたビルに取り残された蘭と工藤新一が「赤い糸で結ばれている」といったピュアで純粋なオチがあるのだが、今回はそこには触れない。

このサイコパスな建築家、「モリヤテイジ」にだけフォーカスを当ててみよう。

建築家 【森谷帝二】

少年期(8歳まで)を英国で過ごした彼は、父の影響で建築家を志す。父も有名な建築家であり、英国式の格式の高い建築を得意としていた。

そんな父のデザイン論を受け継ぎ、建築家となった「森谷帝二」は、
シンメトリー(左右対称)な建築物こそ美学である》と思うようになる。

自身の名前を左右対称な漢字である『帝二』に改名していることからも、その根強い信念を伺うことが出来る。

「30代の頃の建築には美意識が足りない」

父の死後、「シンメトリーに美学を見出した建築家」としてブレイクした「森谷帝二」であったが、30代の頃の作品には納得がいっていないようである。

「建築基準法や様々な条例に対応するため、完全なる左右対称ではない」と犯人を断定したコナンが言っている。

また「森谷帝二」自身も、「最近の若い建築家は美意識が足りない」と豪語していた。

余程、信念を貫けなかった若き頃の自分が許せなかったのだろう。

その事に耐えられなくなった「森谷帝二」は、遂に、自身で設計した作品《シンメトリーではない美意識の掛けた作品》を爆破するという、建築業界で最も恐ろしい大事件を巻き起こすのである。

工藤新一 VS 森谷帝二 

自身の建築を爆破させるならまだしも、サイコパスな建築家「森谷帝二」は、あろうことか市民を巻き込み、工藤新一へ挑戦状を叩きつける。

それには動機があった。

数年前、多摩市の市長が起こした交通事故を工藤新一が解決し、市長を逮捕したことがある。

その市長は、「西多摩市再開発事業」を立ち上げており、その基本構想は、「森谷帝二」が行なっていたのだ。

市長逮捕によって、計画は見直され、森谷帝二の構想は幻となっていた。

その事に恨みを持った「森谷帝二」は、自身の建築を抹殺するという行為を工藤新一への復讐にすり替え、狂気の沙汰を起こすのである。

再開発事業の計画が頓挫することなんて、現実的には良くあることなので、仮に市長ではなく工藤新一に怒りを覚えたとしても、挑戦状を送って事件を起こすなんて普通の人間のすることじゃない。

シンメトリー(左右対称)な建築

左右対称を愛した「森谷帝二」であるが、そもそも日本にシンメトリーが美しいという概念は存在しない。

唯一あると言ってもいい、威厳を重んじた社寺建築等は、もともと中国から運ばれてきた様式が元になっている。

ただそれを日本に合うように変えていった「和様」では、シンメトリーは少なくなっている。

英国やギリシャ建築では、「建築」とは、「自然と乖離した人間が創り出す象徴であり、完全で永久的なもの」という概念なのに対し、
地震等の災害の多い我が国では、「建築」が「永久的なものである」という概念はあるはずもなく、「建築」は「自然と寄り添うもの」と考えられていた。

だからこそ、桂離宮のように、「自然の中に、自然と調和した建築」が日本的な建築概念とされている。

日本には【シンメトリーが美学】いう建築概念はほとんどない。

なぜ森谷帝二は【一級建築士】になれたのか?

ここまで「森谷帝二」の変人ぶりを書いて来たが、私が思った最大の疑問を書いてみる。

それは、ここまでシンメトリーを愛し、少しでも左右対称ではない建築を爆破される程の信念も持った「森谷帝二」が、

「一級建築士の製図試験で左右対称ではない建築を設計するはずがない」

ということだ。

1997年に放映された映画で45歳という年齢であるから、一級建築士になったのは、80年代だろうか。

もちろん姉歯事件の前であるから、どういう試験だったか詳しくはわからない。

ただ、日本の一級建築士試験というものは、威厳のある格式張った建物ではなく、空間構成をしっかりと解き、使用者にとって、利用しやすいゾーニング計画であるかが、問われていることに変わりはない。

だからこそ、バックゾーンと利用者ゾーンの明確な分離や用途ごとによるゾーン分け、周辺環境を取り込む要求室の配置計画の提案が必要なのだ。

仮に「森谷帝二」がゾーニングを上手く解き、合格出来る図面を仕上げたとしても、それは爆破しなければならなくなる。

特に、2年前の「斜面地に建つリゾートホテル」の課題では、景観配慮によってL字プランが正確とされていたので、左右対称な建物を設計していたら、間違いなく【不合格】であろう。

「森谷帝二」が一級建築士になれるはずがない。

仮に、ゾーニングを完璧に解き、かつシンメトリーな外観を持つプランを描けたのだとしたら、「森谷帝二」は類を見ない鬼才の持ち主だ。

まぁ、自分の設計した建物を爆破するなんていうサイコパスな建築家は、鬼才で無ければ、逆におかしいのかもしれない。

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