2020年9月24日(木)

乗っている電車が新宿駅のホームに滑り込んでいくときの、方々に延びている線路がぎゅっと凝縮して束なっていく様子を、降車するために手にしていた文庫本をリュックの所定の位置に仕舞い込みながら眺めるまでもなく眺めるわずか数秒に奇妙に高揚することも、じつに一週間ぶりのことだった。最近乗っている電車はその中でも端のほうに位置する十四番線だから、束ねられた線路のほとんどを視界に収めることができそれはそれで壮観ではあるけれども、異動するまで頻繁に使っていた、名の通り全路線のちょうど中央の八番線に収まることになる中央線の、どちらの窓からでも一定の広さが確保されている地面に線路が走っている光景が眺められるという特権も、味があって中々に捨てがたく、いずれにせよ所狭しと立ち並ぶ高層ビル群よりも、個人的には右の光景が、都会に出てきたぞという興奮と諦念が綯交ぜになった感情を喚起してくることになっている。

多くの人間は昨日から出勤しているか、いっそのことここまで溜め込んでおいた夏休みを取得する権利を一気呵成に行使して途方もない連休にしてしまっているだろうから、一日だけ残されていた残尿のような夏期休暇を消去法的に昨日に宛がって、今日が久々の出勤でございますという私のような人間は、少なくとも社内にはほとんどいなかった。私一人が休み明け特有の負のオーラを放つことになった、という精神的な不利に留まらず、実質的な損害も出ていた、それはすなわち、社員の方々が四連休で購入したお土産がすでに配られ終えており、私に回ってきた取り分が、質・量ともに極めて限定的なものになってしまったことだった。とりわけ【仙台銘菓・萩の月】を受け取り損ねたことは大きな痛手である。二度とこんなことが起きないように、取り急ぎ来週の月曜日は在宅勤務を取りやめて、万全を期して出社する所存である。

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