[清水量子の解説] 第2章の補足(無料)

この記事では、第2章の解説を補足します。

「知りえない」けど「決まっている」んじゃないの!?

量子力学を学び始めた方で、「重ね合わせ」の説明を聞いて、
1つの粒子が、1度に異なる運動量とかの値をもてるわけがない
=「知りえない」けど「決まっている」
と思ってられる方は多いのでは、ありませんか?
しかし、「知りえない」けど「決まっている」場合は、
「混合状態」といい、
これと「純粋状態」では、1つの物理量を測定しただけでは
区別がつきませんが、別の物理量を測定した場合、違いがでてきます。

「箱の中の粒子」の場合、運動量が値P、-Pをとる確率は、「純粋状態」でも「混合状態」でも50%づつですが、
この時、位置xも測定すると(同じ状態のアンサンブルを用意する)
「純粋状態」では、xの測定値の分布は、教科書のψ*ψ(Sinの2乗)。
つまり、位置の測定値の分布に山や谷がある。
(アンサンブルで考えると、測定値をプロットしていくと山や谷が現れる)しかし、どちらか一方にだけ(+Pか-Pに応じた状態に)決まっていて
「知りえない」だけの場合なら、
ψ(x)は exp(-Px/ih') か exp(+Px/ih') のどちらか1つ。
どちらにせよ、この場合のxの測定値の分布=ψ*ψは、一定値!
つまり、測定値の分布は、位置によらず、一定
(アンサンブルで考えると、位置によらずランダム-明確な山や谷はない)∴ 「決まっている」としたものでは、測定結果が合わない!

隠れた変数を演算子とした理論は量子力学ではないのか?

違います。
隠れた変数が演算子なら、その固有ベクトルの張る空間が存在し、
その状態は、それらの固有ベクトルの和ですから、
状態が「重ね合わせ」になっている とは言えます。
しかし、実在論である限り、相反する固有状態が同時に現れては
おかしいです。
例えば、1つの粒子が「位置x1 に居る状態」と「位置x2 に居る状態」が
式に同時に現れたら、どっちが本当だ? ということになります。
量子力学で、状態の「重ね合わせ」が、a|x1> + b|x2> と書ける場合を
「隠れた変数を演算子とした(局所)実在論」と比較してみます。

この状態を密度行列で書くと ( a|x1> + b|x2> )( a<x1| + b<x2| )
=a^2|x1<>x1| + b^2|x2><x2| + ab( |X1><x2|+|x2><x1| )
となり、( |X1><x2|+|x2><x1| )が干渉項です。
古典論では、a=0 or b=0 で、状態の「重ね合わせ」はない。
隠れた変数を演算子とした(局所)実在論では、
測定器に入る直前には、相反する固有状態が同時には存在しないとする
ので、干渉項( |X1><x2|+|x2><x1| )が無くなっています。
(したがって、量子もつれ対の相関測定ならベルの不等式は-2~2の間)
これは、混合状態ではあるが、確率分布は干渉項がある純粋状態と同じ。
つまり、量子もつれでない場合(1個の粒子の測定)、この物理量の確率分布
については、量子力学と同じになるので、隠れた変数理論でも正しいです。
(混合状態なので、他の物理量の確率分布は、量子力学とは異なる)
量子力学では、この物理量の場合、干渉項が存在する純粋状態となり、
量子もつれ対の相関測定なら、ベルの不等式は-2√2~2√2 の間です。

波動関数とシュレーディンガ方程式の関係

古い教科書では、波動関数の定義が曖昧で、シュレーディンガ方程式の解
のこと のように取れるものがありますが、正しくは、
物理量をqとする、q表示の 波動関数ψ(q)の定義は、状態を |ψ>とすると
|ψ>の「物理量qの固有空間{|q>}」への射影:
ψ(q)|q> = |q><q|ψ>
です。
そして、その時間発展がシュレーディンガ方程式 に従う
というだけのことです。
したがって、シュレーディンガ方程式に依存しない関係、
一般に、ハミルトニアンや時間発展に依存しない関係(定理)
が、波動関数や状態ベクトルには、あります。

ハミルトニアンや時間発展に依存しない関係や定理

例えば、
・pがqの正準共役量であれば、ψ(p)=ψ(q)のフーリエ変換
・コピー禁止定理
・状況依存性定理
がそうです。
また、時間発展を記述するシュレーディンガー方程式は、
ガリレイ変換であり、相対論を満たしませんが、
量子力学での「ハミルトニアンや時間発展に関係しない部分」
は、相対論を満たす=相対論で議論できる
と考えてよいです。
なので、EPR論文やベルの不等式が議論できるわけです。

混合状態の純粋化

混合状態は、一般に そのヒルベルト空間(完備な内積空間)を
大きくとることで、純粋状態にできます。
https://kafukanoochan.hatenablog.com/entry/2020/07/04/200342



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