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読解『おもひでぽろぽろ』 part 3 生理、非生理、未生理

■生理、非生理、未生理

 過去:東京 7月

 女子だけ体育館に集められ生理の授業を受ける。これは女子だけの「秘密」なのだ。「秘密」とは他者=”あちら”からは隠すべきものである
”こちら”は秘密をもち、また秘密を持つことで”こちら”を強化する。

 タエ子は友達との会話からみるにまだ生理はきていない。ここでのタエ子の立場を整理する。生理についての立場を以下のように分けてみる。

・生理はありません→非生理
・生理があります→生理
・既に生理があります→既生理
・まだ生理がありません→未生理

とすると、タエ子は未生理に分類(グループ分け)される。まず、
  生理(女):非生理(男)
の”あちら”と”こちら”があり、次に階層的に
  既生理(女):未生理(女)
の”あちら”と”こちら”があります。

 「生理なんて知らなかったー」と言うタエ子。クラスの女子が”アレ”を買うかどうかを話している(男”あちら”には分からない”アレ”)。タエ子はまだ生理の当事者ではないので困惑気味。

 給食の最中。男子が女子に質問する。「女子って保健室でパンツ買うってほんと?」女子たちはダンマリ。はぐらかす。

 なぜ女子だけの「秘密」が漏れたのか。もちろんユダがいたからだ。そのユダの名はリエちゃん(名前覚えておいてください)
 リエちゃんは秘密の花園女子便所”で他の女子に尋問を受ける。どうもリエちゃんは好きな男子に秘密を打ち明けてしまったのだ。彼女を問い詰めるツネ子は言う「女子だけの秘密じゃないの」。

 尋問中のところにタエ子がやってくる。タエ子はリエちゃんが秘密をバラしたことを聞いてこう言う。

やだー

 タエ子はまだ生理がきてないくせに、だ。それでも“女”の”こちら側”である自覚がある。

 機密漏洩事件の後、男子たちは生理と言うワードで女子をからかい出す。(生理:非生理の対立)

 掃除の時間。タエ子はリエちゃんと屑入れを運ぶ。リエちゃんは既に生理がきていることが分かる。つまり彼女は生理の当事者、生理の”こちら側”(既生理)なのだ。
 しかし、未生理のタエ子にとって既生理のリエちゃんは”あちら側”。しかも、男子に揶揄われる”あちら側”。リエちゃんはさらに「生理の時は体育を休む」という秘密も流出させている。タエ子はそこから論理展開をして「体育を休むと生理だと思われる!」と凄む(逆は真に限らず)

 ここでタエ子はリエちゃん(あちら)との同化を拒んでいるわけだ。”あちら”の拒絶。今まで”あちら”への憧景を抱いてきたタエ子が描かれてきたが、ここでは”あちら”を拒絶するタエ子が描かれる。

 ある体育の日。タエ子は風邪で体育を休まなければいけない。その日はタエ子ともう一人体育を休んでいた人物がいた。リエちゃんだ。

わたしも今日見学なの 一緒だね

リエちゃんはもちろん生理だから休んでいる。タエ子はそんなリエちゃんに「私は違う。生理じゃない」と言い放つ。リエちゃんは「そうだね。生理は病気じゃないから」。そこへボールが転がってきて、リエちゃんが取ろうとすると、追いかけてきた男子が言い放つ。

あっ 生理がうつる

 感染るとしたらタエ子の夏風邪なのだが。「感染る」と言うのは子供のいじめの常套手段だが、それは同化を拒絶するための観念でもある。”あちら”と同じになることを恐れている(人と人が無闇矢鱈に、”淫ら”に交わらないための機能でもある)。
 リエちゃんは男子の感染る発言を聞いて笑う。「バカみたい」
その姿を見たタエ子は「おかしくない!」とリエちゃんに向かって真剣に声を上げる。生理の当事者であるリエちゃんは、自分がおかしくないことを知っているので単なる笑い事だが、当事者でないタエ子は生理をよくないものと決めつけてかかるのだ

 リエちゃんは生理の”こちら”にいるので実情を実感している。
 タエ子は”あちら”のものとして生理にあれこれと余計なものを付け足している。(負の方向への期待、憧れ)

 男子(非生理側)にとっては女子(生理側)は一緒くたなので、体育を休んだ二人は「生理の二人だ!」と揶揄される。その中での区分(既生理:未生理)を気にするタエ子は「違うわよ!」と怒る。対してリエちゃんは「エッチね」と軽く笑ってみせる。


現在:寝台列車。

「青虫は蛹にならなければ蝶々にはなれない。蛹になんてちっともなりたいと思ってないのに」とモノローグが始まる。タエ子は続ける。

確かに 就職したての数年前とは何かが違っている
仕事でも 遊びでも 私たちは男の子たちより明るく 元気がよかった

 やや唐突に男との比較が出てくる。

 タエ子に男女のグループ分けが強く根付いていることが示唆されている。タエ子は自分男ではなない認識がある。つまりは”女側”であることを意識している。自覚している。しかし、この後の描写を見ていくとタエ子の”女”というのは簡単なものではないようだ。

 タエ子はモノローグを続け、5年生の思い出が付きまとうのは、もう一度自分を振り返って羽ばたき直すように言っているのではないか、と思う。

 確かに、タエ子の山形との関わりの中に過去のエピソードとの関連がぎっしり詰まっている。次回以降もそれを解きほぐしていきます。

蝶についての解釈は難しかったので付録で。

次回

付録


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