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読解『おもひでぽろぽろ』 part 1 大したことないパイナップル

■田舎への憧れ 熱海のお風呂

 物語は東京から始まる。休暇申請をして山形の農家へ行くことにしたタエ子。タエ子は東京生まれ東京育ち。いわゆる地方に田舎=実家がない。

 過去の回想小5の夏休み。
 友達はみなは地方へ行くという。タエ子ひとりが取り残されていく。
タエ子はみんなが嬉々として語る田舎への憧れを募らせる。

 田舎はタエ子にとっての憧れの”あちら側”となっている。上の姉のナナ子が山形の男性(ミツオ)と結婚したためにタエ子は待望の田舎を手にいれる。義兄(ミツオ)の実家にお邪魔するのが今回の目的である。

念願の田舎をナナ子のおかげで手にいれる。


 田舎の話になるとタエ子は熱海のローマ風呂で卒倒したことを思いだす。

 小5のタエ子は、友達がみな田舎へ行ってしまうのを羨ましがり、旅行にいきたいと母にねだる。すると姉二人(ナナ子とヤエ子)が熱海がいいと言い出す。二人は大層素敵な物のように熱海の銭湯の話をする。もちろんタエ子をからかって大袈裟に話している。タエ子はその話を真に受け風呂への期待を募らせる。背景には花まで散りばめられ恋する乙女の表情。

熱海の風呂を想うタエ子

 しかし、姉二人は風呂なんて面白くないことを知っている。母に「あなたたちもいきなさい」と言われ苦い表情。もちろん行かない。タエ子は祖母とふたりで熱海へ行く。そこで色々な風呂をはしごして卒倒してしまう。

 このエピソードでは人伝に聞いた話で”あちら側”への思いを募らせるタエ子が描かれる。この憧れの思い出に触発されて27歳のタエ子は次のエピソードを思い出す。


■大したことないパイナップル

 過去:東京 12月

 タエ子がねだったパイナップルを父が買ってくる。みんなパイナップルの珍しさに興味津々。でも食べ方がわからない。

あったかい国には めずらしい果物があるんだね

と祖母がパイナップルを眺めて言う。(この時ヤエ子とタエ子がバナナを食べていることに注目)

南国の果物を見ながら南国の果物を食べる

 家族全員パイナップルを別の世界の果物=”あちら”の食べ物として扱っている。未だ知らない”あちら側の味”に対しての空想が膨らんでいく。きっとすごく美味しいんだろう。

 ナナ子がパイナップルの切りかたがわかったと帰宅。意気揚々と捌き始めると、家族総出でそれを見守るのだ。厳格な父でさえ興味津々でナナ子を見守る。タエ子はパイナップルの皮や芯という食べない部分にまで「いい匂いいい匂い」と賞賛の言葉を浴びせる。パイナップルへの憧れは止まることを知らない。

 一人一人に丁寧に個別に皿分けされたパイナップルに家族みんなで向き合っている。現代でこんなに丁重にパイナップルと向き合うことがある人はいるのだろうか。家族みんなパイナップルへの期待をふくらましている。

皿に個別に盛られたパイナップルを囲む

 さて、いざ実食。

、、、うーん。思ってたのと違う

 期待外れだったか、というみんなの顔。そんな中タエ子が言葉を漏らす。

かたいっ!

 これを皮切りにみな声をあげる。
 父「大したこないな」 ヤエ子「缶詰と違う」
 しまいには姉二人はタエ子に残りを押し付け。父ももう食わんというばかりにタバコを蒸す。

 勝手に期待をふくらましておいてこの始末である。しかも固いということは単に熟れていないだけの可能性もあり、こちらが正しい処理をしていなかっただけかもしれないのに。あちらが大したことないとがっかりしているのだ。まあよくある話で、見た目がいい人がいて勝手にあれこれ想像ふくらまして、実際に話して見ると「大した人じゃなかった」とか。人はそういうもんですよね。

 タエ子にとって「パイナップルが大したことない」は思い描いた世界ではないので、彼女は整合性をつけるために「美味しい美味しい」と口にしながら頬張ることにする。ヤエ子、ナナ子の分にも手を出す。父はその姿をみて「腹壊すぞ」などと言う始末。楽しそうに捌くとこ見てただろあんた。

 そんなタエ子を尻目にヤエ子はバナナの方が美味しいと言い出しバナナを取りに行く。彼女らにとってバナナは日常の中で食べる”こちら側”の食べ物である。パイナップルと同じ南国の食べ物のはずなのに。バナナだって熟れてなければ甘くないはずなのに。


 このエピソードでは”あちら側”に対しての過度な憧れが描かれている。これらはタエ子の田舎への憧れ=”あちら側”への憧れとリンクしており、関連するエピソードとしてタエ子は思い出すのである。

 この後、ビートルズの影響によるグループサウンズの流行についての話になる。その中でナナ子は流行の最先端に入り込んでいる人として描かれる。「ビートルズは歌詞がいいのよ」なんて言ってのけるほど、”あちら側”に同化しようとしている。ヤエ子は宝塚のなんとかさんにお熱。写真を見てホの字。”あちら側”への幻想をふくらましている。
 対して、小5のタエ子はまだ、そういったアイドル的なものへの関心がなかった。と、モノローグが入る。これはまだタエ子がいわゆる"いわゆる"女性的でなかったと言う話なのである。

 この後、エピソードは“あちら”と”こちら”としての”男”と”女”の話になっていく。


次回


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