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読解『おもひでぽろぽろ』”あちら”と”こちら”その共同作業を目指して 【Part 0】

■前段 身の上話

 『おもひでぽろぽろ』を見るまで、高畑勲の作品をまともに見たことがなかった。
 
 「まともに見たことがなかった」というのは、子供の時に見た『火垂るの墓』『おもひでぽろぽろ』は金曜ロードショーでの鑑賞で断片的な記憶しかなかったからだ。『かぐや姫の物語』の公開当時(2013)、大学で美術の勉強をしていながらも劇場に足を運ぶことはなかった。
 2019年、東京国立近代美術館で高畑勲の回顧展がやるということで、すでにアニメーションを職業としていた私は当時の職場にあった『おもひでぽろぽろ』と『ホーホケキョとなりの山田くん』をDVDを借りて鑑賞。

 衝撃。両作とも表現、演出ともにあまりに洗練されており感嘆。描写の丁寧さ、そして複雑さ、複数のエピソードによって立体的に描かれる情景、心情に心を掴まれた。特に自分は『おもひでぽろぽろ』に惹かれ。鑑賞後もずっと作品のもつ意味について考えていた。

 みなさん承知の通り、この作品は難しい。たくさんのエピソードが出てくる。そのどれも描写が細かく、ユーモアがあり、リアリティがあり、見ていて飽きない。

パイナップルを家族総出で食べる
父に打たれるタエ子
生理の話
ハンガリーの音楽
紅花を詰む
そして、アベくん。

 しかし、それらがどんな意図を持って描かれているのかを把握するのは簡単ではない。ひとえにその理由は、高畑勲が人間の持っている複雑性を正面切って描いたからだと思う。

 今回はこの『おもひでぽろぽろ』での各描写に対して、一本の筋を通すような読解をしてみたいと思う。これはチャレンジです。


■”あちら”と”こちら”

 読解の概ねの方針を示す。
 様々なエピソードが描かれるがこの作品のキーコンセプトは「”あちら”と”こちら”」であると見る。あちらに憧れ、あちらと同化し、あちらを決めつけ、そしてあちらを拒絶する人が描かれる。タエ子はもちろん、トシオもそのひとり、父も姉達も。そしてそんな”あちら”と”こちら”の異種間交流、異種交配による共同作業についてのお話だと見る。


■準備

 東京と山形、岡島家と農家の関係も重要なので、ここで登場人物の関係、家系図を整理。

東京と山形の家系図

 タエ子がいく山形の農家はタエ子の姉ナナコの夫の兄カズオのところです。キーパーソンのトシオはカズオのまたいとこ(はとこ:祖父母が兄弟)。

 ゆっくり紐解いていきます。複時間的な作品なので、だからこそ、頭からやっていきます。以下のトピックを順に語っていきます。

■田舎への憧れ 熱海のお風呂
■大したこたないパイナップル
■タエ子、男子との共同作業?
■スケベ横丁の初恋「同じだ!」
■生理 非生理 未生理
■ハンガリーの百姓?トシオの”勢い”
■紅花摘み”体験”
■父はなぜタエ子をぶったか
■蔵王デート 分数ができないタエ子と結婚したリエちゃん
■「本物」の田舎
■カッコよくない有機農業
■タエ子はどうして演技が評価されたか
■トシオの同じ トシオと同じ
■”嫁:こちら”にこないか?
■アベくんの手 農業の手
■トシオの”勢い”再び
■贖罪の演技
■それでも空想するのは…
■同じ傘の元に

引用のセリフは、本編の日本語字幕に即しています。
文中に「」等で書かれたセリフは、筆者の要約です。

続きはこちらから。


また、今回の読解は出てくる昭和モチーフなどには感度が鈍いというか、あまり関心のない読みをします。

モチーフからの読み込みで面白いのが以下の方の記事です。ぜひ。


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