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ウクライナ侵略後、予想していたこと

3月29日にこの質問をいただいて、こんなふうにお答えした。

ぼくは高いとは考えていません。高いと考えている人は、プーチンを狂人と捉えているのでしょう。狂人ゆえに何をしでかすかわからない、常人なら押さない核ミサイルのボタンも押しかねない……。プーチンという人間への不安と無知から、そのように捉えているように感じます。

ロシア研究の第一人者だった木村汎先生の『プーチン 外交的考察』と『プーチン 内省的考察』を読んで自分なりにプーチンの人間性を把握した限りでは、プーチンはレニングラードの子供時代、ロシア人の中では身長が低くて、ワルでした。そして弱肉強食的な世界にいました。その弱肉強食的な世界でサバイバルするために覚えたのが柔道でした。

弱肉強食的世界では、強くないこと、負けてしまうことは、惨めな屈辱を味わうことを意味します。はじめは強くなくて、負けを喫して惨めな屈辱を味わったことが、プーチンの原体験になっているのだろうと思います。そういう経験を経た人って、臆病なのに、強くあること、負けを認めないこと、マウントすることを志向するようになっちゃうんです。プーチンが強い姿を見せようとすること、マウントをすること、何が何でもトップにいつづけようとすることは、レニングラード時代の「強くなくて惨めな屈辱を味わいつづけた原体験」が影響しているのだろうと思います。

プーチンの目的は、「ロシアを強くする!」です。プーチンは、民主主義の導入によってソ連が混乱し、経済的にも国家的にもボロボロになったと考えています。ソ連をだめにした元凶が民主主義や民主主義革命だと思っています。なので、元凶である民主主義は排除する。民主主義的革命も断固阻止する。そして国家権力を強化する。

自分も強い姿を見せる。ロシアの強い姿も見せる。強い自分と強いロシアが重なっていますね。そして強いロシアの強い元首として自分がいつづけることにこだわりつづける。自分が負けてトップから転落すれば、惨めな屈辱を強いられることになる――そうプーチンは考えているのでしょう。

プーチンは臆病です。そして、負けるのを凄くいやがっています。自分が国家のトップでありつづけるためならば、一時的に懐柔する振りを見せることもプーチンは厭いません。選挙前には態度が軟化するんです。で、大統領になってから、自分に反対する連中をたっぷりと締め上げる。

プーチンは強い自分の姿を見せようとします。強いロシアの姿も見せようとします。強いロシアの姿を見せるために、海外への軍事行動をつづけてきました。今回のウクライナにも、その意味合いは充分にあるでしょう。ウクライナをあっという間に制圧して「おれは強い、ロシアも強い!」とやるつもりだったのでしょうが、頓挫しています。

では、プーチンは折れるのか? あるいは暴走するのか?

まず、今のロシアの外交はプーチンによるワンマン外交です。外務省や外相がある程度の裁量権を持ってやるということはありません。外交プレーヤーはプーチン一人です。「監督プーチン、バッターはラブロフ」ではなく「監督プーチン、バッターはプーチン」という感じなのです。なので、和議はあまり期待できないだろうと思っています。

プーチンにはレニングラード時代の原体験があります。強くないこと、負けてしまうことをプーチンが受け入れるとは思えません。かといって、核ミサイルのボタンを押せば、ロシア国民は「おれたちロシアは強いぜ、うぇ~~い!」ってなるでしょうか?

さすがにならないだろうと思います。ロシア国民は「おいおい待てよ、冗談じゃないよ」になっちゃうだろうと思います。なので、核ミサイルのボタンは押さないんじゃないか、とぼくは考えています。

プーチンが核ミサイルの話をするのは、通常戦力ではアメリカ&NATOに対してまったく敵わないからでしょう。年間の軍事費でも、アメリカはロシアの10倍近くだったと思います。通常戦力でまともに組み合うと、ロシアはアメリカに勝てません。でも、核戦力についてはロシアはアメリカと五分五分なんです。プーチンは強い姿を見せようとします。負ける姿、弱い姿を見せるのはめちゃめちゃいやがります。それゆえ、唯一対抗できる核戦力をちらつかせて、強い自分&ロシアを見せようとしているのでしょう。

では、プーチンは折れるのでしょうか?

今戦争をやめて和議を結んでしまえば、成果なしで、プーチンは敗者になってしまいます。自分も政権の座から追いやられる可能性が高まります。プーチンは、それは絶対にいやがるでしょう。

とにかく自分は強い、ロシアは強いと見せつけたい。でも、ウクライナの抵抗は強い。首都キーウも攻略できない。となると、限定的な勝利――ドンバスとルガンスクをゲットしたぜ! とか、クリミアからマリウポリまでつなげて確保したぜ! と、ロシア国民に成果をアピールできるものを手に入れたところでオチをつけるんじゃないか、と考えています。

プーチンは、自分の強い姿を見せること、自分の負ける姿を見せないことに固執しています。なおかつ臆病です。そして恐らく、通常戦力では米軍やNATO軍に敵わないのはわかっていると思います。米軍やNATO軍の参戦を招けば、それこそ自分が負ける姿をロシア国民に見せることになるので、NATO加盟国への攻撃は行わないだろうと思います。

では、アメリカやNATOはどうなのか?

アメリカもNATO(ヨーロッパ)も、第三次世界大戦の回避を最優先事項にしているように感じます。またNATOの規約では、NATO加盟国への攻撃は自動的にNATO全体への攻撃とみなして即反撃(軍事行動)となりますが、ウクライナは加盟していません。

プーチンは自分が負ける姿を見せたくないので、NATO加盟国には手を出さない。アメリカとNATOも第三次世界大戦を引き起こすことになるので、直接の軍事行動をするつもりはない。なので、第三次世界大戦は起きないんじゃないか、とぼくは予想しています。

ちなみにロシア国民の動きは?

ロシア国民は、まず権威主義の状態を受け入れています。つまり、プーチンが独裁状態でも、ぎゃーぎゃー騒がないということです。そもそも民主主義の乱立的状況には慣れていません。年配の人たちは、民主主義=混乱の最低の時代として考えているでしょう。

さらに、ロシア国民は何よりも非常に受け身です。しかも、プーチンを支持しているのは軍人や公務員ですが、ロシアの公務員はロシアの平均年収の倍額のお金をもらっているんです。その年収を激減させない限りは、ロシア全土で反プーチンの暴動が起きることはないでしょう。

プーチンも、公務員の給料を激減させるという愚は犯さないでしょう。なので、民主主義的な動きはそれほど起きないでしょう。少なくとも革命と呼べる状況にはならないだろうと思います。

そして今日、ウクライナ軍がルガンスクから撤退するとのニュースが。自分の読みは今のところ当たっている。

ウクライナは、ルガンスクとドンバスを代償に――あるいはルガンスクを代償に――ロシアと停戦&和議を結ぶことになるのだろうか。


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