新・エロゲーが売れなくなった7つの理由

先日、なぜ商業エロゲーが売れなくなったのか、すなわち、なぜ商業エロゲー全体の売り上げが激減したのか、noteで4つの理由を挙げた。ぼくは、次のように考えていた。

1.2004年以降、ストーリーゲームにシフトしすぎた
2.2008年以降、スマートフォンが広まった
3.スマホの流行に引きずられて、パソコンを保持する若者が減少した
4.キラータイトルが減少した

だが、

3.スマホの流行に引きずられて、パソコンを保持する若者が減少した

これについては間違っているのではないか、という指摘があった。若者と言う時、ぼくは大学生を主にイメージしていた。若者のパソコン保有者が減っているという話をぼくは人づてに聞いていて、「パソコンを保持する若者が減少⇒新規顧客が減少⇒結果、エロゲー購入者の平均年齢上昇」と結論づけたのだが、調べてみると意外な結果にぶつかることになった。

実はマイナビが、大学生を対象に「自分専用のパソコンを持っていますか?」という質問を行っている。

2012年 75.9%(2011年12月~2012年1月調査。文系男子74.5、理系男子87.6、文系女子67.9、理系女子76.9)
2015年 84%(2015年1月~2016年1月調査)

予想以上に高い数値だった。おまけに、この4年間で上昇していた。それ以前の数値がないので確言はできないが、恐らく、2010年以降、大学生の自分専用のパソコン保有率は上がっているのではないかと思う。

親と共有のパソコンだと、エロゲーはプレイしづらい。それでも共有のパソコンでプレイする素敵な強者たちがいるのは知っているが、自分専用のパソコンがあった方がエロゲーには圧倒的に有利である。

実は、パソコン自体の販売台数も、毎年微増している。8%の消費税増税が実行される前までは、順調にパソコンの販売台数は増えていたのである。

ともあれ、これだけ保有率が高いと、逆にエロゲーのセールスが上がっていてもおかしくはないような気がしてしまう。だが、2008年か2009年頃だったか、すでにエロゲー雑誌でもエロゲー市場衰退の兆候が出ていた。読者の平均年齢が上がってきていたのだ。つまり、新規で入ってくる若い子が少なくなっていたのである。

大学生の自分専用パソコンの保有率は高く、最近については保有率が上がっている。にもかかわらず、2010年以降、エロゲー全体の売り上げは毎年「前年比約87%」、すなわち、前の年に比べて約13%ずつ減少している。

なぜなのか?

考えられる原因は、光学ドライブ、すなわちDVDやBDを再生できるプレイヤーである。大学生が保有するパソコンはノートパソコンが多く、ノートパソコンには光学ドライブは内蔵されていない。もちろん、商業エロゲーにはダウンロード版もあるが、ダウンロード版の利用者は、全体の1~2割程度のようである。多くはパッケージ版を購入している。そしてエロゲーのパッケージ版を利用する場合には、光学ドライブが不可欠である。光学ドライブを利用する場合には、改めて光学ドライブを追加購入しなければならなくなっている。これは購入機会を奪うことになる。「光学ドライブがなけりゃ、自分で買えばええやん。そんなので機会損失になるかよ」と反論する人もいるかもしれない。だが、1つ手間が増えると、それだけでハードルがかなり上がってしまうのである。「え? 光学ドライブいるの? おれ、持ってないしな。じゃあ、ええわ」。「え? 光学ドライブ買わなあかんの? 面倒臭いな」。このように、手間が1つ増えたことによって購入のハードルが上がり、購入が見送られることになる。手間が1つ増えるというのは、それだけ大きいのである。もちろん、デスクトップパソコンならば光学ドライブは内蔵されているだろうが、デスクトップパソコンを保有する大学生は少数派である。

いつから光学ドライブはノートパソコンに内蔵されなくなったのだろうか。抽出してカタログから調べてみた。

2010年の時点では、光学ドライブがあるモデルとないモデルが併存している。この時点では、光学ドライブがノートパソコンに内蔵されていることは多かったようだ。

2011年の時点では、ソニーのノートパソコンには光学ドライブはないようだ。FMVには光学ドライブつきのものが見える。光学ドライブ内蔵のものが、少数派に追いやられている感がある。

2012年になると、光学ドライブつきのものを探すのが難しくなる。

変化は2011年に起こっているようだ。

変化を起こした原因はわかっている。2011年に登場した、MacBookAirだ。MacBookAirの出現によって、ノートパソコンは、「軽く、薄く」に一気にシフトした。その際、「軽く、薄く」を邪魔する光学ドライブは切り捨てられていったのではないか、と思う。

そして、それが、エロゲー購入の機会損失を促す形になった

もちろん、多くのソフトハウスがダウンロード販売を行っているし、ダウンロード版の購入者の比率は伸びているが、まだ過半数には遠い。大半はまだパッケージ版を購入している。仮に顧客が店頭であるソフトを見て興味を覚えても、自分のノートパソコンに光学ドライブがなければ「なんだ、光学ドライブいるのかぁ」で終わってしまうのがほとんどだろうし、仮にあとで自宅に戻ってダウンロードで購入しようという人がいたとしても、「あとで」となった分、買い控えが高確率で発生する。その時買えないと、買わないのである。これはかなり大きな購入機会の損失になるだろう。

光学ドライブがノートパソコンに内蔵されなくなったこと、すなわち光学ドライブのオプション化が、専用パソコンの保有率が高いにもかかわらずエロゲー全体のセールスが下がった大きな理由の1つではないか、とぼくは思っている。

もちろん、他にも理由はある。そもそもパッケージ商品を売っているお店が減少しているという現実がある。ノートパソコンが光学ドライブを内蔵しなくなる前から、すでに全国でエロゲーの販売店が減少していた。ライトノベルの隆盛が隆盛し、エロゲーがラノベと競合状態に陥ったことにより、客足はエロゲーからラノベに向かってしまったのだろう。さらに、エロゲーバブルの崩壊、2008年のリーマンショックによる財布の打撃。それらが、エロゲー売り場を、すなわち顧客が商品を確認できる場所を、少しずつ奪っていった。そこへ、光学ドライブのないノートパソコンの普及が加わった。

さらに2011年以降、スマホが、インターネットツールの地位をパソコンから奪った。パソコンでインターネットをする時間は減少、パソコンよりもスマホでインターネットや通信を行う若者が増えている。結果、パソコンリテラシーよりもスマホリテラシーが上昇した。そのような状況で、「パソコンのゲームを遊ぼう」とはなりづらいだろう。

したがって、冒頭に挙げた4つの理由は、次のように書き直さなければならない。

1.2004年以降、ストーリーゲームにシフトしすぎた
2.2008年以降、スマートフォンが広まった
3.2011年のMacBookAirのヒットによって、光学ドライブつきパソコンを保持する若者が減少した
4.キラータイトルが減少した


だが、光学ドライブのことを考えてみると、理由は4つでは収まらないように思える。

エロゲー全体のセールスは、いかにして減少していったのか。流れを整理する。

始まりは何の不安もないように思えた。2000年の『Air』発売以降、エロゲーはボリュームインフレーションを開始する。シナリオ容量が1MB以上をオーバーし、さらに2MBが標準の世界へと、数年をかけて近づいていく。この時にはまだセールス低下の減少は起きていない。その中、2004年の『Fate/stay night』以降、多くのソフトハウスがストーリー性を売りにしたゲームづくりに追随した。ゲーム性を縮小し、ストーリー性だけで戦おうとすれば、自ずとラノベと競合状態に陥る。競合状態に陥ったエロゲーは、エロゲーの値段の1/10で質も高いラノベに敗北した。さらにエロゲーに対する顧客の興味も、ラノベに奪われることになった。秋葉系エンターテインメントの中心は、ラノベにシフトした。じわじわとエロゲーの客が減りだす。売り場を訪れる客が少なくなりはじめる。閉鎖するエロゲー店も出はじめる。この期間に重なる形で、抜きゲーの世界でも変化が起きていた。2004年に同人ゲームバブルが発生、次々と2000円未満の低価格の同人ゲームがリリースされるようになったのである。エロゲー批評空間を見ても、登録された同人ゲームの数が、2004年以降増えている。同人ゲームの多くは抜きゲーであり、これがパッケージ版の商業エロゲーと競合状態に陥った。エロゲー市場は、ストーリー系ではラノベと、抜き系では同人ゲームと、同時に競合状態に陥り、数を失うことになったのである。そこへ、2008年のリーマンショックが襲う。この時、名古屋の大須では客足が一気に減少したと聞いている。全国でエロゲー売り場が減少したり閉鎖したりする。顧客の目に触れる機会を失って、エロゲーが減少する。さらに、2011年にスマートフォンの販売台数が前年比300%を突破、爆発的にスマートフォンが広まり、スマホにお金と時間を奪われる。エロゲーは2000年からボリュームインフレーションを行っており、プレイには大量の時間を食う存在となっていた。それが、かえって仇となった。エロゲーからますます客足が遠のく。さらに2011年以降、大学生(新規顧客の候補)が保有するノートパソコンから光学ドライブがなくなり、エロゲーをプレイするハードルが高くなる。さらに顧客のエロゲーへの距離が遠くなる。光学ドライブがオプションになったこと、スマホが一気に広まったことにより、パソコンに触れる時間も減少し、エロゲーへの距離はますます遠くなる。その上、キラータイトルの減少により、顧客の注目もさらに減少して、顧客のエロゲーへの距離は遠くなる。かくして、エロゲーは、今も縮小をつづけている。


流れを整理すると、むしろ、エロゲー全体の売り上げが激減した理由は7つあることが見えてくる。改めてまとめ直してみよう。

1.2004年の『Fate』以降、ストーリーゲームにシフトしすぎた
2.格差社会&リーマンショックのコンボが、エロゲー購入層を直撃した
3.エロゲー売り場が減少した
4.2004年に同人ゲームが隆盛、抜きゲーと競合状態に陥った

5.2008年以降、スマートフォンが浸透を始め、2011年に一気に広まった
6.2011年のMacBookAir以降、ノートパソコンの軽量化&薄型化に拍車が掛かり、光学ドライブが内蔵ではなくなった
7.キラータイトルが減少して、若者の注意を引き寄せる機会が減少した

少し補いながら解説すると、こうである。

1.2004年『Fate』以降、ストーリーゲームにシフトしすぎた

これにより、エロゲーは埋没方向へ向かい、顧客の興味は、エロゲーから離れて、ラノベへ向かった。

2.2008年の格差社会&リーマンショックのコンボが、エロゲー購入層を直撃した

端的にいえば、自由に使えるお金が減少した、あるいは購入力のある顧客が減少した。

3.エロゲー売り場が減少した

1と2のコンボにより、客足が遠のき売り上げが減少、エロゲー売り場を閉鎖する、あるいは縮小せざるを得なくなり、エロゲーが目に触れる機会が著しく減少した。

4.2004年以降同人ゲームが隆盛、抜きゲーと競合状態に陥った

同人ゲームバブルが発生したのは2004年である。バブルを用意したのは、N.Scripter吉里吉里という2つのスクリプターの流通だった。スクリプトツールの流通により、参入障壁が大幅に下がったのである。そして、同人バブルが発生した。たとえばDlsite Maniaxの年間ランキングトップ10に入るソフト10タイトルの合計本数を見ると、「2000年~2002年までは1万本台だったのが、2003年に3万3000本。2004年は5万本台。2005年は7万6000本、2006年は8万本。2007~2009年までは約6万4000本。2010年に8万9000本、2011年~2012年は約8万本。2013年は約10万本」となっている(『鏡裕之のゲームシナリオバイブル』)。

また、同人ゲームが顧客にとって選択肢の対象となっていったことは、エロゲー批評空間に登録された同人ゲームの本数でも見ることができる(数字は『鏡裕之のゲームシナリオバイブル』から)。

95年 0本
96年 0本
97年 1本
98年 4本
99年 7本
00年 13本
01年 17本
02年 23本
03年 37本
04年 73本
05年 120本
06年 121本
07年 175本
08年 200本
09年 188本
10年 206本
11年 206本
12年 149本
13年 97本。

顧客は商業エロゲーだけではなく、同人ゲームも合わせて選択肢に入れて購入をしていたのではないか、と思う。思えば、定価4000~5800円のミドルプライスが終わった2005~6年にかけて、すでに同人ゲームとの競合が激しくなりはじめていたのかもしれない。

5.2008年以降、スマートフォンが浸透を始め、2011年に一気に広まった

2008年は3G対応のiPhoneが発売された年である。これにより、ケータイ小説は死滅した。そして2011年にスマートフォンの販売台数は前年比300%オーバーを達成、一気にスマホが浸透する。スマートフォンがお金と時間をめぐるバトルロワイヤルで勝利を収め、他のエンターテインメントは、少なくなった残りのお金と時間を奪うことになり、ますますエロゲーは苦戦を強いられる形になった。スマホの利用時間増大に反してパソコンに接する時間は減少し、パソコンに対する距離が遠のき、パソコンは「あまりプレイしないコンシューマー機」のような存在となってしまった。

6.2011年のMacBookAir以降、ノートパソコンの軽量化&薄型化に拍車が掛かり、ノートパソコンでは光学ドライブが内蔵ではなくなった

光学ドライブが内蔵されなくなったことにより、エロゲーのプレイに必要なドライブが欠落、購入機会を大きく失うことになった。

7.キラータイトルが減少して、若者の注意を引き寄せる機会が減少した

エロゲーが全盛期の頃は、注目タイトルが頻出して顧客の注目を引き寄せつづけた。それが市場の維持や拡大につながった。だが、キラータイトルが減少すれば、注目を引き寄せつづけることはできなくなる。光学ドライブのオプション化という逆風と、スマホの浸透によるバトルロワイヤルの激化の中で、キラータイトルの減少はさらに大きな逆風となった。

ぼくの考えは、以上である。
というわけで、蛇足を。

大学生のパソコン保有率が高いにもかかわらず、世間ではパソコンリテラシーのない子たちが巷で囁かれている。

パソコンリテラシーの低さは、スマホリテラシーの高さと表裏一体となっている。パソコンリテラシーの低さは、パソコンでインターネットを利用する時間が減少しているという事実、パソコンでインターネットを利用する子よりもスマホでインターネットを利用する子の方が圧倒的に多いという事実が説明してくれる。

普段、通信やサイト巡回のツールとして、パソコンよりスマホが選ばれて頻用された結果、スマホリテラシーが上がり、逆にパソコンリテラシーが下がったのだろう。使う頻度が落ちれば、リテラシーも下がる。

最後に。

エロゲーは、もう価値のない存在なのだろうか?

ぼくはそうは思わない。2MB、すなわちラノベにして10冊近くのボリュームを一気にプレイする快感を与えてくれるものは、今のところ、エロゲーしかない。

ラノベを10冊一気読みするためには、1巻が発売されてから3年待たなければいけないが、エロゲーは、購入したその日に全部読み進めることができる。この快感は、エロゲーだけのものだ。

というわけで、実は4月1日にぼくの新刊が出ることになっている。

『高1ですが、異世界で城主はじめました8』
である。

なぬっ、貴様、今、エロゲーを賞揚したところではないか! そのタイミングで、自分のラノベを宣伝するのか!

そうだ!
それが商売根性というものよ!(笑)

あ。
あと、

『実践・エロティシズムと誘惑~鏡裕之のゲームシナリオ講義~』

『鏡裕之のゲームシナリオバイブル』

ともに、電子書籍(PDF)で発売中です!

それから、最近の代表作『巨乳ファンタジー』シリーズ、中世ファンタジーを舞台にして成り上がりサクセスものです。面白いよ。

追記。

7.キラータイトルが減少して、若者の注意を引き寄せる機会が減少した

については、

7.ボリュームインフレーションにより「だらだら長くて薄いゲーム」が増加、客足が離れていた中、さらにキラータイトルが減少したことで、若者の注意を引き寄せる機会や注目度がさらに減少した

とした方がいいかもしれない。あるいは、

8.ボリュームインフレションにより緩やかに客足が遠のいた

のように、8つめの理由としてボリュームインフレーションを考えた方がよいかもしれない。少なくとも、7・5個めの理由として、ボリュームインフレーションは存在するのではないか。では、具体的に、ボリュームインフレーションはどのようにして始まり、どのように美少女ゲーム全体の売り上げを低下させていったのか。それが、ボリュームインフレーションと客離れです。

さらに、「売れなくなった」という議論の中で「かつてエロゲーにはバブルがあった」という言説が出てきます。ですが、エロゲーのバブルは果たしていつだったのか。候補は3つあった。そのどれなのか。そのことについて記したのが、エロゲーバブルはいつだったのか?です。

また、スマホの流行がいつから商業エロゲーに影響を与えだしたのかを調べてみたものが、「スマホが商業エロゲーのセールス低下に影響を及ぼしたのはいつか?」です。

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鏡裕之

コメント14件

ありがとうございます。拙著『鏡裕之のゲームシナリオバイブル』でも書いたような気がしますが、同人ゲームの隆盛は、N.Scripterと吉里吉里という、スクリプトツールの浸透がでかいです。90年代に同人ゲームをつくろうとした時、「プログラマーどうするの?」というのが一番つまずく問題でした。
コメントのお返しをいただきありがとうございます。ツールの浸透が大きかったのですね。
同人ゲームが隆盛した原因を、本文に加筆しました。
年代だけみると動画配信サービスの隆盛もリンクしているのかなと思いました
ニコニコ動画の開始が2006年、生放送が07年、YouTubeLiveが11年なので。


この記事が書かれた頃より更にボロボロになってしまった感のあるエロゲー業界ですが、ラノベやネット小説などとは違い明確な終わりがあるからこそできる物語、得られる情感というのもあると思いますので頑張っていただきたいものです
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