異世界ファンタジーの定義のずれは、こう整理できる
「『異世界ファンタジー』の定義が変わっている?」というまとめが賑わっている。「異世界ファンタジー」の定義が、今と昔とではずれてきているというのだ。
ファンタジーを議論する時に厄介なのが、ファンタジーの定義である。この定義をあやふやなままにすると、議論はぐちゃぐちゃになって、ディスコミュニケーションのまずいピューレができあがる(笑)。
拙著『鏡裕之のゲームシナリオバイブル』の中で、ぼくはファンタジーについて定義を行っている。
・資本主義成立以前の世界が、メインの背景
・少年や少女が楽しめるように配慮されている
この両方を具えたものが、ファンタジーだとぼくは考えている。かなり長くなるけど、拙著から引用する。
あとで気づいたけど、ここまで長広舌やんなくてよかったね。失敗。
さて。ファンタジーにおいて、異世界へ召還されて活躍する物語、あるいは異世界に転生して活躍する物語は、必ず1つの移動が前提となっている。
現代日本⇒異世界
という移動が、冒頭に前提されているのだ。移動は、召還や転生や転位(転移ではない! 転移はフロイトの転移や病気の転移に使われる言葉だ! 主人公が精神分析の患者になってどうする!(笑))によって行われる。
現代日本⇒異世界という移動が前提されているものが「異世界に行って活躍する物語」。前提が含まれていないものが、「異世界の住人(ネイティブ)たちが活躍する物語」である。
さらに、その前提には、もう1つの前提が隠れている。
現代人が主人公ということである。
「異世界の住人(ネイティブ)たちが活躍する物語」の場合、主人公は異世界の住人(ネイティブ)である。
「召還や転生や転位によって異世界に行って活躍する物語」の場合、主人公は非ネイティブの現代人なのだ。
整理する。
●召還や転生や転位によって現代人が異世界で活躍する物語
・現代の日本人(異世界にとっては非ネイティブ)が主人公
・現代日本から異世界への移動が前提
●異世界のネイティブが活躍する物語
・異世界のネイティブが主人公
・現代日本から異世界への移動はなし
かつて両者はともにファンタジーと呼ばれていた。
高千穂遥『異世界の勇士』(1979)は、異世界へ呼び出された高校生が活躍する物語である。つまり、異世界召還ものである。テレビアニメ『聖戦士ダンバイン』(1982)も、武蔵野市在住の18歳の成年が異世界に召還されて戦う物語である。つまり、異世界召還ものである。
ファンタジーは、比較的初めの頃から、「異世界のネイティブが活躍する」スタイルだけでなく、「現代人が異世界へ召還される」スタイルも持っていたのだ。
ぼくの個人的な記憶になるが、80年代当時では、「現代人が異世界に召還されるファンタジー」も、「異世界のネイティブが活躍するファンタジー」も、ともに「ファンタジー」と呼ばれていたように思う。わざわざ「異世界ファンタジー」とは呼ばれていなかったと思う。
異世界ファンタジーという呼び方がいつ始まったかは、ぼくにはわからない。このあたり、是非、ライトノベル研究をされている専門の方に調べていただきたい。
今2016年現在で言う「異世界ファンタジー」については、「現代人が異世界に行って活躍するファンタジー」という定義が圧縮されて「異世界ファンタジー」になったのではないか、と思っている。
「異世界ファンタジー」=「召還や転生や転移によって現代人が異世界に行き、活躍するファンタジー」という意味づけが広まったきっかけは、なろう系小説の隆盛ではないか、とぼくは推測している。「異世界《召喚・転移・転生》ファンタジーライトノベル年表」などを参考にすると、2011年、なろう系サイトで現代人が異世界で活躍するファンタジーが異世界ファンタジーとして人気を拡大し注目を集める中で、この5年間のうちに異世界ファンタジーという言葉がどんどん広まっていったのではないか、という推測だ。
「異世界で現代人が活躍するファンタジー」も、「異世界で異世界のネイティブが活躍するファンタジー」も、ともに異世界が舞台である。
舞台だけを考えるならば、ともに「異世界でのファンタジー」、略すと「異世界ファンタジー」ということになる。
だが、「異世界を舞台にしたファンタジー」=「異世界ファンタジー」と考えるのは、「異世界でネイティブが活躍するファンタジー」を思春期の頃に吸収した人たちだけである。そうでない人たちでは違う。
「異世界で現代人が活躍するファンタジー」をベースにした世代にとっては、異世界ファンタジーと言うためには、
・現代の日本人(異世界にとっては非ネイティブ)が主人公
・現代日本から異世界への移動が前提
の2つの条件が満たされていなければならない。
対して、「異世界でネイティブが活躍するファンタジー」を思春期の頃に吸収した年配の世代の人たちにとっては、
・舞台が異世界であること
が満たされていれば、異世界ファンタジーということになる。
だが、今2016年の人々(すなわち、「異世界で現代人が活躍するファンタジー」に馴れ親しんできて、「異世界でネイティブが活躍するファンタジー」を知らない人たち)の中では、
・舞台が異世界であること
では不十分なのである。そして、そういう人たちにとっては、
・異世界のネイティブが主人公
・現代日本から異世界への移動はなし
という、異世界のネイティブが活躍するファンタジーは、
・現代の日本人(異世界にとっては非ネイティブ)が主人公
・現代日本から異世界への移動が前提
という条件が満たされていないため、「異世界ファンタジーではない」ということになるのである。
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