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抗がん剤の歴史

最初の抗がん剤の誕生

マスタードガスは第一次世界大戦で使用された毒ガス兵器である。
毒ガスによる死者は暴露後すぐの直接死亡と、8-9日後の白血球減少による感染症による死亡が多かった。
マスタードガスは硫黄の匂いがし、毒性も強すぎたことから改良され、硫黄原子を窒素原子に置き換えたナイトロジェンマスタードが開発された。また、細胞毒性に着目し血液がん治療にも使用された初めての抗がん剤である。

1949年にはナイトロジェンマスタードの誘導体であるナイトロジェンマスタードN-オキシド(商品名:ナイトロミン)が日本で開発されたが、その後シクロフォスファミド(商品名:エンドキサン)がドイツで開発され現在まで広く使用されている。

【1960年頃】自然や植物が抗がん剤に

1956年にはマイトマイシンが日本で開発され、そのうち安定性や抗悪性腫瘍効果の高いマイトマイシンC(1963年)が製品化された。抗菌薬以外で使用された初めての抗生物質系抗がん剤である。その後ブレオマイシン(1969年)なども開発された。

ビンアルカロイド系抗がん剤は植物のニチニチソウ(旧学名:Vinca rosea)から単離された。ビンクリスチン(2004年オンコビン発売)、ビンブラスチン(1968年薬価収載、2004年エクザール発売)、ビンデシン(1985年)、ビノレルビン(1999年ナベルビン発売)がある。

タキサン系薬剤は1966年にタイヘイヨウイチイから単離された。現在は全合成技術もあるが費用の問題もあり、生薬を原料として半合成で製造されている。日本で使用されているタキサン系薬剤にはドセタキセル(1997年タキソテール)、パクリタキセル(1997年タキソール、2010年アブラキサン)、カバジタキセル(2014年ジェブタナ)がある。

トポイソメラーゼ阻害薬として1950年代に中国原産の喜樹から抽出されたカンプトテシンがアメリカで研究されていたが、副作用が強く開発は中断された。しかし日本で研究が続けられ、イリノテカン(2008年カンプト、トポテシン)が誕生した。

【1990年頃】分子標的薬が登場

いわゆる癌細胞に特異的に作用する薬剤で、抗体薬や低分子薬がある。
最初に承認された抗体薬としてはキメラ抗体のリツキシマブがあるが、重篤なアレルギー反応が出やすいため、ヒト化抗体や完全ヒト化抗体が開発された。特にイマチニブ(2005年グリベック)は慢性骨髄性白血病に対し大きな効果を発揮して、分子標的薬の評価を飛躍的に高めた。

さらには抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugate:ADC)として、抗CD33抗体にカリケアマイシンを結合させたゲムツズマブオゾガマイシン(2005年マイロターグ)、抗HER2抗体にカンプトテシン誘導体を結合させたトラスツズマブ デルクステカン(2020年エンハーツ)などが販売されている。

協和発酵キリンHP


第一三共HP

【2011年】世界初の免疫チェックポイント阻害薬

今までは免疫のアクセルを踏み込むような薬剤が開発されていたが、免疫チェックポイント阻害薬は免疫のブレーキを解除させる働きをする。2018年にノーベル生理学賞を受賞した本庶佑先生の研究が契機となって開発された。
2011年にはアメリカで世界初の免疫チェックポイント阻害薬のイピリムマブ(商品名:ヤーボイ)が承認されたが、2014年には世界に先駆けてニボルマブ(商品名:オプジーボ)が日本で承認された。発売当時は年間薬剤料3000万円以上であったが、度重なる薬価改定により2022年現在は5分の1程度となっている。


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