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写真批評 サシイロ 16 〜光=儚さの世界観

モノクロ写真とは離れるが、光を撮る写真家として、印象的なのは川内倫子氏である。写真集「うたたね」は木村伊兵衛賞を受賞した有名な作品だが、彼女の淡い光の、青みがかった写真は、特に女性に人気があり、川内倫子氏の写真を真似て、同様の基調の写真を撮りたいとカメラを持つ女性は多い。

川内倫子氏の写真を見ていると、光、つまり彼女の撮る写真は、生のある絶対的な一瞬であり、それはいずれ訪れる死という影の存在に裏打ちされてこその儚い輝きなのだと知る。
例えば、無邪気に遊ぶ幼児。顔が見えない分、それは汎用性のある、誰にも存在する幼少時期の記憶や、子供を育てたことのある親たちのかけがえのない記憶と同化する。耳を掻く老人にしても然り。微笑ましい光景は、敢えて全て死の予感を排除しない。
彼女の撮る光は、見る者の心をも焼き尽くすような激しさはないし、時代に埋もれまいとする熱いエネルギーもない。ただ、それは永遠には続かないという、動かしがたい真理が眼前にドッシリと現れるだけである。その儚さは、その光の希少性を否応なく高めていく。

現代に求められる、時代や社会に対抗できるようなエネルギーは、一体どんなものなのか?私はこのサシイロのシリーズな中で問いかけたが、その答えの一つを川内倫子氏は示しているような気がする。
一瞬で、永遠ではない。でもそれは絶対的に人の記憶に残り続け、その人の長い長い人生を生きていく支えになる。そんな一瞬を、日常の無為な時間たちに埋もれさせるもんか。淡い柔らかな写真の裏で、そんな強固な主張を彼女は発信している。これは一つの生き方の提案であり、時代の流れが早くなった儚い現代への熱い抵抗であると言わずに何と言おうか。

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