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写真批評 サシイロ 20 〜憧れを撮る

皆さんは桃源郷というと、どんな所を思い浮かべるだろうか。
三好和義氏は、桃源郷を南国の海のイメージで捉えているのではないだろうか。彼の「楽園」という写真集は、見ているだけで心が軽く踊り出すような癒しの写真である。

写真というのは、目の前にある光景をありのままに映し出すものだ。だからこそ、現実の枠組みをなかなか超越することは難しい。たとえ抽象的な図にしたくても、プロデュースのために使う道具やオブジェは現実に存在するものでしかない。むしろ、写真という枠組みはそういう現実世界という土俵のうえで勝負する世界であり、もしも現実の枠組みを超えた図を展開したいのなら、絵画やCGにより描いてもらえればいいのである。

では、写真では現実を離れた、いわば桃源郷のような憧れの世界観を創り出すことはできないのだろうか。
その答えを三好和義氏は見せてくれている。そう、「楽園」という写真で。

桃源郷と思わせる写真となるために必須の要素は、何だろうか。それはまず第一に色彩の豊かさであろう。これは白黒写真とは対極にある効果だが、白黒写真は被写体とカメラマンとの間の関係性を極限まで突き詰めてクローズアップした結果の空気感を撮るのに優れている一方で、カラー写真は被写体の要素が様々な色により多様化し、多様化した被写体に臨むカメラマンの視線は絞られることはない。大きな手に包まれ、抱きしめられるような感覚をその図から得るようになるのだ。「楽園」の中の桃源郷は、こうした効果により生まれ、私たちの心を踊らせたわけである。

三好和義氏は、大仏などを撮ったりもしているそうだ。それもまた、仏教でいうところの「あの世」とはどんな所か?という彼のイメージを私たちに提示してくれるに違いない。

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