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写真批評 サシイロ 18 〜見たことのない景色 中編

前回より風景写真が果たす役割について考察しているが、見たことのない景色とは、何も人があまり行ったことのない場所やほとんど公開されたことのない秘境に行かなければ遭遇できないものではない。

例えば、松江泰治氏という写真家がいる。彼は地表写真家とでも呼ぼうか。高度の高い宙から地表面を撮影している。視点の尺度を変えることで、私たちが日常暮らしている風景や集落、街が一変してしまうのは興味深い。
松江泰治氏は一変した景色を「墓」と呼んだりする。
彼の写真を見ていると、「生きる」ということは、限られた命という時間の中で、生きた爪痕を自然に、大地に、地球に残そうともがくことなのではないかと考えさせられる。

私たちは日々暮らしていく上で、様々な悩みや迷いを抱える。それは鬱屈した思いとなって、私たちにのしかかってくることもあるだろう。
しかし、一度視点を変えてみれば、それは大きくて広い大地にちまちまと並び立つ墓のように取るに足らないものだと気付く。
また一方で、その取るに足らない各自の墓のような爪痕が、何千、何万と集まることで大地に刻まれた全体の模様は、俯瞰してみると、一枚の絵として不思議なほどの美しさを帯びていることにも気付くだろう。それは紛れもなく、精一杯自分に与えられた命を生きた時にしか帯びない美しさであるに違いない。

松江泰治氏は「視点を変えて見る」という手法で風景写真に挑んだ写真家だが、見慣れた景色も視点や尺度を変えて見ると、新鮮で見たことのない景色に変化する。このように、風景写真というジャンルはなかなか奥が深いのである。

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