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憧れの先輩

「お疲れ様でした〜、お先です」

〇:お疲れ様です

定時はもうとっくに過ぎてオフィスに残っているのは〇〇のみとなった。

〇:はぁ〜〜、あのクソ上司!いい経験だとか言って全部僕に仕事押し付けて自分は帰りやがって!あー!ウザい!!ダンッ

〇〇はあと少しで完成する資料を残し、自販機でコーヒーを買ってオフィス内にある喫煙所へと向かった。



別に入りたくてこの会社に入ったわけで、やりがいがないわけではない。1年近く仕事をしてきて多少のことは慣れた。つもりだ。

〇:さすがに誰もいないよな、、

喫煙所には当然誰もいない。
もうみんな帰ったのだろう。タバコを咥え、火をつける。

〇:働くって大変なんだな〜

パタン

〇:ん?、、、えっ!?
?:お疲れ〜
〇:さ、佐々木さん!?

1人だと思っていた〇〇だったが、突然の扉の音に顔を上げると直属の上司ではないが同じ部署の佐々木さんの姿があった。
同じ部署なのにあまり話したことはなかったが〇〇は密かに憧れていた。

美:どーしたの?
〇:あっ、、いや、、、

佐々木さんはクールで、若いながらに仕事ができて社員からの人気も非常に高い。それに加えて、スラっとした首筋に大きな目、プルプルの唇という美貌も兼ね備えたまさに完全無欠。

無表情で何考えてるかわからない
とりあえずなにか話題を、、、

〇:佐々木さんってタバコ吸うんですね、知りませんでした
美:へぇ〜、私は知ってたよ?君がタバコ吸うこと
〇:?

やっぱり何を考えているかわからない
いくら憧れの佐々木さんとはいえ、今は少し1人になりたかった。

〇:う
美:どーしたの?
〇:間違えてブラック買っちゃいました
美:嫌いなの?
〇:、、だって苦いじゃないですか
美:ふふっ
〇:なんで笑うんですか!?
美:君、クールなイメージだったから
〇:クールって、、、

佐々木さんってこんな顔して笑うんだ、、、

美:飲まないならちょーだい?
〇:ありがたいですけど、口つけちゃってますし
美:いーよ。別に。
〇:いや、でも、、、
美:ゴクッ、、、じゃ、お疲れ様、コーヒーありがとね

パタン

佐々木さんと間接キス、、、

〇:いやいや、何考えてんだ、佐々木さんはただ僕がブラック飲めないから処理してくれただけで、、、戻るか、、、

もうとっくにフィルターに到達しているタバコを灰皿に押し付け喫煙所を後にした。



〇:なんだこれ

デスクに戻ると資料は完成していて、おまけにミルクコーヒーが置かれていた。

〇:一体誰が、、、まさか
美:その資料、もう終わりそうだったし不備あったから私がやっちゃった。勝手にパソコン借りちゃってごめんね?
〇:え、、ほんとですか!?ありがとうございます!むしろ申し訳ないです
美:ふふっ、1年目なのに仕事押し付けられてるの見てたし、さすがに放ってはおけないよ

佐々木さんが僕のことを見てくれていた、、?いやいや、上司として放っておけなかったんだろう。この人は仕事もできて周りまで見えているのか、、、すごすぎる。

美:なんかあったらすぐいいなさいね?それじゃ、私帰るから。お疲れ様〜
〇:おっ、お疲れ様でした、、、



それ以来、僕らはよく喫煙所で遭遇するようになった。1人になりたいと思って喫煙所に来るのだが、佐々木さんとなら悪くない。

美:うわ、やっちゃった
〇:どーしたんです?
美:タバコ忘れた
〇:、、、僕の吸います?ピースですけど、、笑
美:ふーん。じゃあもらおっかな。火もらえる?
〇:どうぞ
美:ありがと、、、これ、甘いね
〇:ですよね、この甘さにハマっちゃって、、

佐々木さんが僕のタバコを、、、



「では、新プロジェクトの完成を祝して」
「「「かんぱーい!!!」」」

僕らの部署が担当した新プロジェクトが完成したことを祝う打ち上げが行われた。もちろん佐々木さんの姿も。

「今回は〇〇!よく頑張ったな!いい資料だったぞ!」

あの日、佐々木さんが詰めてくれた資料のことだろうか。そりゃ佐々木さんが詰めてくれたんだから当然だろう。

「佐々木も助かっただろ?」

〇:いや、実はあの資ry、、、
美:ええ、すごい見やすい資料で。〇〇くん頑張ってましたし

「おー!そうか!ありがとな!〇〇!」

〇:あ、あはは〜

あとで佐々木さんにお礼しなきゃな、、、

「そーいえば、最近そこの2人仲良いよな?なんかあったりして??笑」

〇:いっ、いや!なんもないですよ!なに言ってんすか!ねぇ、佐々木さん!?

何を言い出すか、この上司。これはさすがの佐々木さんも困っているだろう。

美:ふふっ、〇〇くんは優秀な社員ですよ

ん?満更でもなさそう?

「まぁ、さすがにないか、2人とも真面目だし笑そいえばさ〜、、、」

なんとかこの話題は切り抜けたみたいだ。噂なんてされちゃとんでもない。とりあえず飲もう。

美:〇〇くん、ちょっと一服しにいかない?ここ、私たち以外に吸う人いないし
〇:あっ、はい、行きましょ



僕らは店内にある喫煙スペースへと向かった。

〇:ほんとあの人ありえないっすよね!僕と佐々木さんに限ってそんなことあるわけないのに!、、、

タバコを吸うや否や僕はさっきのことをかき消そうと否定した。そう、佐々木さんはただの上司で僕のことは一社員としてみてくれていただけなんだから。

〇:なんかすいません、戻りましょっか
美:なんで君が謝るの?別に私はよかったんだけどな〜
〇:へ?

佐々木さんが僕と噂をされてよかった?満更でもなさそうだったのはほんとはうれしかったから?
そんな淡い期待と疑問が頭の中を渦巻く。

美:んーん、別に〜、じゃ、戻ろっか



「おかえり〜、長かったな」

美:ふふっ、ちょっと野暮用で

ダンッ !!

〇:おかわりください!!!

「大丈夫か?顔赤いぞ?」

〇:なんでもないっす!



「お疲れ様〜、じゃあまた月曜日」

美:お疲れ様、大丈夫?顔真っ赤だけど

ふらっ

美:危ないって〜
〇:すいません、、、
美:歩ける?
〇:、、、

情けない。女性に、しかも上司の佐々木さんに介抱されてしまうなんて。

美:タクシー拾おっか
〇:、、、はい
美:家どっち?スマホで地図出せる?
〇:はい

佐々木さんに住所を伝えタクシーを拾ってもらい家まで向かう。何から何まで自分が情けない。



やがてタクシーは家の前まで到着した。
タクシーをおりてエントランスへ。

〇:ほんとにご迷惑をおかけしました
美:全然大丈夫、気にしないで
〇:なんとお礼をしたらいい、、か、、、ボフッ
美:え!?、、、ふふっ



〇:、、、んぐっ!?

目が覚めた時には自分のベッドだった。

僕、昨日飲み会で飲みすぎて佐々木さんに介抱されてそれで、、、

〇:ん?窓開いてる?

ボケーっと窓の外のベランダを見る

美:お、目ぇ覚めた?

フゥ〜

美:あ、ごめんね?勝手にタバコ吸っちゃって
〇:そんな、気にしなくていいのに、中で吸いましょ、僕も吸います
美:そー?じゃあお言葉に甘えて



美:もう平気そうだね
〇:あ、はい、ほんとにご迷惑をおかけしました。ベッドまで運んでもらっちゃって、、自分が情けないです
美:そんなことないよ〜、さっきまで顔色悪そうだったから心配だったんだよ?
〇:ありがとうございます、、、
美:いーえ。、、、本たくさんあるんだね、見てもいい?
〇:あ、はい、もちろん

なんだか不思議な感じだ。自分の家で佐々木さんと2人で話しているなんて。

美:あ!この本!パン屋さんの特集のやつじゃん!
〇:あー、一時期パン屋巡りハマってたときあったんで笑
美:えー!私パン大好きなの!!
〇:そーいえばたしかに佐々木さんよくお昼パン食べてますもんね〜
美:ふふっ、バレてたか

こんなふうに女性と話したのなんていつぶりだろう。しかも、自分の家でなんて。下手したらこれ捕まるのでは?

〇:ってか!もうこんな時間!?

スマホの時計は1時半を表示していてる。

〇:佐々木さん、家どこです!?
美:□□だよ〜
〇:□□だよ〜、じゃなくて!終電はとか!
美:さすがに終電はもうないな〜、、、だから、、、

僕としたことが、女性を歩いて帰らせるわけには、ましてや上司。どうしたものか、、、

美:ここに泊まるしかないかな〜
〇:へ?

やばいやばい!大ピンチだぞ!佐々木さんが泊まる?この家に?男の家だぞ?しかも部下の家だぞ?さすがにそれはやばいんじゃないか!?

美:なーんてね?フフッ
〇:佐々木さん!?
美:下でタクシー拾うから大丈夫だよ
〇:じゃ、じゃあせめてタクシー代を、、、
美:そんなこと気にしなくていいの。じゃあ、行くから。おやすみ

パタン

〇:は、はぁ〜

なんてことをしてしまったんだろう。次会ったら絶対謝んなきゃ。

〇:、、、ん?ライター?佐々木さんのだ、、、

このライター返すのを口実に佐々木さんに話しかけられれば、、、



ザワザワ

「上に参ります」

週が明け、また今日から仕事が始まる。どっかのタイミングで佐々木さんに会えればいいけど、、、

〇:ライター返さなきゃだし、お礼も言わなきゃ、、、

しかし、そういう時に限って機というのはやってこないもので、〇〇は一週間もタイミングが掴めずにいた。

〇:やばい。会えなさすぎる。ラスト喫煙所行ってみるか〜

残っていたタスクを終わらせて、帰る前に一度喫煙所に寄ってみることにした。

〇:ここでいなかったらデスクにでも置いとこ

あまり期待はせず喫煙所へ向かう。すると



美:〇〇くん?
〇:佐々木さん!
美:どーしたの?また残業?
〇:いや、タスク終わらせて今帰りなんすけど、、、これ、、あと先週はありがとうございました!

ようやく佐々木さんに会うことができ、ライターを返す。

美:ふふっ、わざわざいいのに〜。あの後体調大丈夫だった?
〇:はい、、おかげさまで、、、
美:それならよかった、、じゃあ今日一緒に帰ろっか?
〇:え?あ、はい!ぜひ!飲み行きます?
美:いいね!

その後、2人は大衆居酒屋でガッツリ飲み、それからちょっと小洒落たバーでいい雰囲気に、、、



〇:ちょっと佐々木さん?笑今日は先輩が飲みすぎてますよ笑
美:いーのいーの!明日休みなんだから〜
〇:だからって!ベロベロじゃないすか!
美:じゃあどっか入ろっか?、、、
〇:、、、いやいや!さすがに酔いすぎですって!、、
美:、、、私は本気だよ?

その言葉にスイッチが入った〇〇は美玲を連れてそのままホテルへと向かった。



〇:勢いで来ちゃった感あるけど、、大丈夫なのか?

今、美玲はシャワーを浴びている。その間〇〇は美玲とホテルに来たことへの焦燥感と緊張でどうしようもなくなっていた。

〇:佐々木さんとホテルなんて夢にまで見たことなのに、いざ現実となると、、、

わずかな高揚感ととてつもない緊張が〇〇を襲う。すると、、

美:お、お待たせ、、、

顔を真っ赤にした美玲が浴室から出てくる。

〇:さ、佐々木さん、、、

とりあえず、2人とも勢いで来てしまったという自覚だけはあった。しかし、ここに来てもう後には戻れなくなっていることも自覚していた。

〇:と、とりあえず座りましょ
美:う、うん

2人でベッドに腰掛けると、沈黙が2人を支配する。

〇:佐々木さん、、、
美:?

先に口火を切ったのは〇〇だった。

〇:顔こっち向けてください
美:、、、

ちゅ。

ちゅ、、、んちゅ、、、むちゅ、、、

脳が焼かれるような濃厚なキス。

〇:僕、ずっと佐々木さんに憧れてて、、、
美:私も〇〇のことずっと好きだった、、、


その告白を皮切りに2人は完全に元の関係には戻れなくなった。

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