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10年以上前の本は存在価値がないのか〜学校図書館図書廃棄規準〜



公益社団法人全国学校図書館協議会が2021年に改訂した規準。

一般規準
次の各項のいずれかに該当する図書は、廃棄して更新の対象とする。
1.受入後 10 年経過した図書。

 学校図書館に新しい本が必要なのは、よくわかるのです。
 でも、やはりこれ、機械的に実施されると学校図書館が成り立たないなあと日々本棚を眺めながら思っています。


 2021年度決算の1校あたりの平均図書購入費は、小学校47万円(前年度と同額)、中学校59万円(前年度比-8千円)、高等学校82万9千円(前年度比+11万2千円)であった。 

「2022年度学校図書館調査」より

 これはあくまでも「平均」で、私の知る限り、予算が300万円という高校もある傍ら、30万円しかない高校もあります。

 予算が数十万円しかない学校図書館では並ぶ本が古く、半分以上が10年以上前の本だと言っても過言ではありません。だからと言ってすべて処分したら本棚はスカスカになります。
 もちろん内容自体が古く使えない本は何とかしないといけませんが、使える本もあるのは前回のエッセイで書きました。

 予算の少ない学校の選書は、予算の多い学校とは違う難しさがあります。私なら人気のある本を買う一方、なるべく長く本棚に置けそうな本を意識して選びます。
 過去の司書もそう思ったかはわかりませんが、書棚に並ぶ本は今でも新刊として流通に乗っているものが多いです。

 さて前回は保管したいレファレンスツールを書きましたが、今回は小説のシリーズを幾つか。


『精霊の守り人』シリーズ(上橋菜穂子)


 1996年〜2018年単行本として刊行されました。綾瀬はるか主演でドラマ化もされています。 
 


 腕ききの女用心棒・バルサはある日、川におちた新ヨゴ皇国の第二皇子・チャグムを助ける。チャグムは、その身に得体の知れない”おそろしいモノ”を宿したため、「威信に傷がつく」ことをおそれる父、帝によって暗殺されそうになっていたのだ。

偕成社:公式サイトより


『十二国記』シリーズ(小野不由美)


 1992年『月の影 影の海』から始まり、2019年『白銀の墟 玄の月』まで出ています。これもアニメ化されましたが原作と設定が違うようです。
 
 発売当初は少女向け「講談社ホワイトハート」でしたが、大人に人気となり講談社、後に新潮社の文庫として発行されました。今の高校生でも読む子がいます。
 
 『十二国記』はその名の通り「国」を統べる王の話です。
 シリーズは何冊もあり、本によって主人公が変わります。王は女性だったり男性だったり、大人だったり子供だったりします。

 『月の影 影の海』は親やクラスメートの顔色をうかがいながら自分を抑えて生きる高校生の陽子が、突然異世界に飛ばされるところから物語が始まります。これは上下巻に分かれていますが、「上」のヒロインの運命のあまりの過酷さに、読むのを挫折する生徒がいるくらい甘い話ではありません。だからこそ大人にウケたという気もします。

 どちらも「国とは」「政治とは」「王とは」と小説の世界でハラハラしながら考えさせられます。

 

⚫「受入後10年」って何なのでしょう。


 日本の学校司書は残念ながら非正規が多いです。あろうことか図書館運営をボランティアにさせる自治体もあるようです。
 多くの本を知る、経験ある司書なら決して捨てないような本を、何も知らない人が捨てることは充分に考えられます。
 
 廃棄は機械的にする作業ではありません。

 例えば古い漫画でも『ドラえもん』『ブラック・ジャック』は今でも10代が読みます。 『ドラえもん』はアニメが続いているのも大きいでしょうが、『ブラック・ジャック』は生徒がよく読んでいて、もっと新しい漫画があるのに面白いものは年代を超えるのかと思うのです。


⚫漫画の話が出たので「その勢いで」ご紹介

 1990年代に発行された漫画が今も古びていないと思ったので紹介します。ただしこちらは学校図書館に既にあるなら、生徒や大人に薦めてみてはという感じです。
 今は電子書籍で試し読みできるサイトが増えましたので、気になった方はご覧になられてはいかがでしょうか。

『花咲ける青少年』(樹なつみ)

 樹(いつき)さんは今も活動を続けている人気漫画家です。
 これは1989〜1994年の連載で、2009年にアニメ化されています。

 話の設定は現代なので、今どきならスマホやパソコンを使うだろうとか、そういうことを考えると内容は古いのでしょうが、NOTEにも「この作品を何度も読み返す」という方が見受けられます。
 少女漫画らしくイケメンが何人も出てきて恋愛や友情、そしてヒロインの出生の秘密がメインテーマのように見えます。

『BASARA』(田村由美)

 1990〜1998年連載。田村さんの映画・ドラマ化された漫画『ミステリと言う勿れ』で、ご存知の方もおいでではないでしょうか。

 こちらは架空の国としての日本を舞台にした戦記ものです。民に圧政を強いる王家が、国を救うと予言された「運命の子供」を殺し、遺されたその双子の妹・更紗が復讐を誓い王族と戦う物語。

 両方に共通しているのが、「王家」「王族」が描かれていること。
 そして政治とは?民の上に立つ王が馬鹿ならどうする?王が民を弑逆するなら民はどうする?というテーマが一本の線となって、底に敷かれているように思えます。

 小説も漫画も10年以上前のものでも、今の子たちに刺さる本はかなりあります。本の世界は奥が深いです。



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