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地方公務員の新しいキャリアデザイン~ワーク、ライフ、コミュニティ、セルフのブレンド 小紫雅史

 本日は、奈良県生駒市長の新著『地方公務員の新しいキャリアデザイン』についてです。
 地方公務員を取り巻く環境が変化していて、公務員も意識を変えていかなければならない、というのは再三言われていることではありますが、今回はコロナ禍を踏まえて、改めて、地方公務員の在り方について書かれていました。
 すなわち、「ワーク、ライフ、コミュニティ」そして「セルフ」をブレンドすることの大切さです。

第1章 求む!ミライを創る公務員

 地方公務員といえば、新卒で地元に採用されたら、そのまま定年まで働く、ということが定番であり、それを求めて就職する方も少なからずいるわけですが、小紫さんは、今後は、①終身雇用は崩壊、②中途採用やプロジェクトベースの採用が当たり前になる、③副業やテレワークの推進、が進むと考えられるとのことです。

(1)プロフェッショナル人材の中途採用について
 中途採用が増えると、これまでの公務員の給与体系やキャリアパスが通用しなくなるので、それに合わせた職場の整備、労働環境の整備、そして、そういう人材と、プロパー職員が円滑に仕事ができる環境整備が必要になります。
 確かに、そういわれればそうなのですが、いわゆるプロパー人材な自分としてはいささか構えてしまいますし、そういう職員も多いと思います。
 それについては、
「地域の歴史や文化、可能性のある人・もの・場所などを一番知っているのはプロパー職員なので、彼らの知見をプロフェッショナル人材に伝え、逆に専門知識を教わるなど、両者がよいシナジーを生むための場や機会をしっかり作ることが大切です。また、プロパー職員の中にもプロフェッショナル人材に負けない専門性やリーダーシップを発揮する職員もいます。プロパー職員の育成や活躍の場を確保しながら、両者を二項対立的に位置づけるのでなく、相互にシナジーを生む制度・仕組みを構築することも、プロフェッショナル人材登用には不可欠です。」
 と、プロパー職員もどちらも尊重できるような雰囲気づくりを進めておられます。

(2)副業について
 公務員の副業、というと、職務専念義務との関係が問われますが、法律をきちんと整備すれば可能だということです。実際生駒市ではすでに副業申請しておられる方がいらっしゃいます。
 その時重要なのは、「職員の成長と本業への還元」と、「自治体職員自身の豊かな生活につながる」ことが大切とのことです。
また、管理職には、「本業をちゃんとしてから副業を語れ」といわないようにする」、とし、管理職が部下を伸ばしたいときには、地域に飛び出す部下を応援することが、本業での成長を促す有効な手段であるとしています。
「本業をちゃんとしてから…」というのは、本当によく聞く話で、個人的にもまだ消化しきれていないところはありますが、性善説を取っていくというのも一つの手なのかなと思いました。

第2章 ピンチからの「超回復」を実現できる自治体とは

 この章では、コロナ後の大きな社会の変化への対応を「超回復」をキーワードに分野ごとにまとめています。
特に気になったのは、「地域電力会社をまちづくり会社へ」「複合型コミュニティ」「高齢者のデジタルリテラシーの向上」「EBPMその先へ」でした。

(1) まちづくりのプラットフォーム「まちづくり会社」
まちづくり会社、というと、昔は、開発公社、中心市街地の活性化組織など、ハード整備中心のものでしたが、ここでいう「まちづくり会社」は、「市民や事業者、関係者とパートナーシップを組み、収益を確保しながら、地域課題を解決するための事業を展開していく会社」であり、生駒市の場合は、電力会社、「いこま市民パワー株式会社」を設立して、その収益を、まちづくりに生かしていくという仕組みになっています。また、このようなまちづくり会社は往々にして行政主導になるのですが、最終的には、「市民自身」がまちづくり会社を運営する、という展望も持っています。

(2)歩いて行ける「複合型コミュニティ」を100創れば未来は変わる、からの、高齢者施策の発想の転換
生駒市では、高齢者の移動手段を確保するのではなく、逆転の発想で、高齢者が歩いて行ける場所に、生活に必要な機能を整備する「複合型コミュニティ」を作る方向で動いているそうです。例えば、地域を支援し、高齢者でも歩いて行ける場所に買い物や健康づくり教室を設ける、などです。この辺は、高齢者の居場所づくりとしてのサロン活動の発展形ではないかと思いました。また、高齢者関連の逆転の発想として、高齢者はデジタル関係をつかえないからアナログを残す、というよりは、高齢者にもデジタル関係をつかえるようにする、という事業も展開しています。

(3)統計・データに基づくEBPMとその先にあるもの
証拠に基づく政策決定EBPMというのは、一瞬、いいことのように思えますが、複雑化する現代社会においては、統計やデータだけでは対応できない課題も少なくないとのことです。なので、データの整理は重要ですが、これらのデータを活用し、新しい取り組みにつながる市民ニーズを見出したり、取り組みを改廃する際にニーズや効果を定量的かつ客観的に説明したりするためにも、データを活用して具体的な変革につなげることがポイントだとのことです。そのため、現在は、「EBPMを超える、「美意識(真、善、美)」に基づく決断の重要性」を主張しておられます。その理由として、①EBPMだけではほかの組織との差別化が図れない。②EBPMでは分析困難な承認欲求や自己実現欲求が重要性を増している、つまり、静的なEBPMモデルによる対応をしようとしても社会やシステムの変化にルールが追い付かないのです。そのため、EBPMに拘泥して「結論を先延ばしにする」ことは致命的な問題であり、スピード感を持って現場の課題に対応するためには、市民に直接選挙で選ばれた首長が、EBPMを超えた政治的な決断を下すしかないとのことです。
 ここでいう「美意識」というのがまだピント来ないのですが、データに基づく施策はそれっぽく正当性があると感じられる中、現代社会にはそのままの適用では問題があり、さらにその先を見越しているのがすごいと思いました。

第3章 公務員3.0時代~自治体職員が身に着けておきたい視点と力

 この章では、自分は2.0まではなんとなくできているような、想像がつく範囲ではあるが3.0の領域まではなかなかいけてはいないので、日々努力が必要だと痛感する章でした。
特に、「目の前にある課題や事務の改善などに取り組む「公務員2.0」でさえ、社会変化のスピードや大きさを考えると合格点がもらえない時代」
「協創力2.0では、市民のニーズを聞くばかりだと、いずれすべてのニーズに対応しきれなくなる、市民と一緒にやることが3.0」
「リーダーシップ2.0 指示に対応するだけでなく、市民からの要望や自ら気づいた課題を解決しようと行動するが、単なる改善だけではなく、改革を続け、時には破壊的創造とも革命的ともいえる制度作りや取り組みに挑戦できるのがリーダーシップ3.0の職員」
「発想力2.0の職員は、まず先進事例を学び、徹底的にパクることから発想力を高めようとしているが、発想力3.0 自由な発想による創意工夫から改革、さらには革命に近い破壊的創造ともいえる発想を生み出す」などが心に突き刺さりました。

第4章 ワーク、ライフ、コミュニティ、セルフの視点でキャリアデザインしよう

 ワークライフバランスだと、人生はワークかライフかの二項対立やゼロサムゲームになってしまいます。人生はワークとライフだけではなく、コミュニティ、そして、コロナ禍のなか、セルフも大切にしなければならないとのことです。
 セルフを大切にする、というのは、①意図的に自分一人の時間を確保し、趣味やリラックス、健康づくり、自己研鑽などに充てる、②自分をプロデュースする必要性の高まり…終身雇用の崩壊、などがあげられます。
 印象的だったのは、「余生という言葉は死語」
定年後にその先を考えるのではなく、定年前から、家庭はもちろん、地域での暮らし方を見据えて考え、準備しておくことは、人生の幸福度を上げるために大切とのことでした。地域活動の要諦は、とにかく「やりたいことを、地域を舞台としてやってみる、楽しんでみる」ことになります。
 また、セルフを大切にするためには、①朝の時間を有効に使う、②スマートフォンを使う時間を減らす、③イレギュラーな予定を組み込んでいく
 とのことで、特に②が突き刺さりました。
 一方で、メンタルケアのなかで、「「みんなと仲よくしよう」の弊害を知り、距離をとる、つまり、 付き合う人をうまく選び、余計なストレスを生む人とは最初から接点を減らしておく方が賢明。仕事を進めるうえでどうしてもストレスの原因となるような人とお付き合いしないといけないケースでは、鈍感力を鍛える」「市民の声をすべて「受け止める」必要はあると思いますが、すべて「受け入れる」必要はない」というのは励みになりました。
 また、公務員は「個人事業主」のつもりで、辞めたら食べていけない、と職や地位に固執する人よりも、辞めても食べていける自負を持っている職員ほど良い仕事ができるとのことです。そのためには、アウトプットを意識的に行う…①文字を書く、②話を聞いてもらう場所を持つ③本気でユーチューバーになる!などがあるとのことでした。

 仕事、家庭、地域、自己実現の4つを含めた人生全体のキャリアをデザインし、シナジーを考えながら具体化することが必要と〆られていました。

 公務員3.0への道はちょっと遠いですが、メンタルケアなどセルフも大切にして、頑張って明日から生きていこうと思いました。

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