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生きることは苦、書くことは癒やし ~苦役列車~

西村賢太さんの自伝的小説と言われる苦役列車。
これはあんまり、と思うくらいの、強烈な、そして美しくない、心の内面の吐露。
小説家という人たちは、ここまで心をさらけださないといけない商売なんだ、と改めて思う。こういうことができる人でないと、小説家になんてなれないのだろう。

でも、ここまで自分の弱くて汚い心の面を細かく文章にしているということは、ものすごく心を観察しているはずなので、小説家というのは、これはもう、瞑想なんかよりも、もっと心が浄化されるんではないだろうか

物語の中で主人公の僕は、まっとうな仕事につけず、日雇い暮らしから抜け出せない、しかし、プライドは高く他人に嫉妬し続ける。
そして人生というものは、降りることのできない苦役列車ではないか、と感じ、呆然としてしまったようだ。

生きることは苦であるとは、初期仏教の教え。生きることが苦であると知って、いやな気持ちになる人は、生きることが楽しく、素晴らしいものであると勘違いしている
自然の法則からして、生きることが楽ではないのは当然のこと。
世界は自分のためにあるのではない。世界の中に、たまたま自分が生まれてきてしまっただけ。

主人公ではない、小説家本人の西村さんの方は、少なくとも書くことによって癒やされているはずだと思う。ここまで自分の心を文章にすれば、その心と距離がとれるだろう。
だから小説を書くのだろうし、書いていなかったならば、もっと苦役が重たくのしかかっていただろう。
そして、この小説を読んで、自分にも同じような嫉妬心があるのに、さらけ出すことなく、しかし苦しんでいる誰かの苦役も軽くしているのだろう。