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自分の心を知って管理する ~ブッダの実践心理学 第3巻 心所(心の中身)の分析~

この本の概要

ブッダの教えを忠実に伝えるテーラワーダ仏教の教科書アビダルマの解説書、その第3巻。「心所」の解説。

著者は日本にテーラワーダ仏教を伝えてくださったスマナサーラ長老。スリランカ人であるが日本語はペラペラ。そして難いタイトルに反して驚くほど読みやすい。誰にでもわかるやさしい文章で解説されている。

心所とは

「心所」、初めて聞く言葉である。心に溶けている成分だと書かれている。例えば、水に味噌が溶けるとみそ汁になる。コーヒーの成分が溶けるとコーヒーになる。そのように、心所が溶けることで、心がいろいろな状態になる。
仏教では、心とうものは、単に眼耳鼻舌身意を通じて認識するだけの機能であると定義される。

私たちが普通に「心」と捉えているものは、仏教では「心+心所」ということだと理解した。

心所の分類

心所は、五十二種類に分けられる。

共一切心所 7種、雑心所 6種、不善心所 14種、共善浄心所 19種、離心所 3種、無量心所 2種、彗根心所 1種

これらの心所は、一つずつではなく、いくつかが組み合わさって、セットになって心に溶ける。どのようなセットが溶けるかで、八十九もしくは百ニ十一種類の心が形成される。

この本では、それぞれの心所の意味と、それらがどのように組み合わさって、どのようなセットでどのような心を作るのか、解説されている。

心所を知る意味

心所というのは初めて聞く言葉である上に、それぞれの名前も難しい。とても覚えられない。何のために心所を知る必要があるのか。

それは自分の心の状態を知って管理するため。私たちは普段、ただなんとなく生きていて、周りの環境や感情に流されている。自分では、自分の意思でいろいろなことを判断していると思っているが、実は動物としての生存欲から生じる感情に流されている。

他の人に負けたくない、勝ちたい、あれがほしい、これがほしい、そして生きていたい、死にたくない。これらは動物としての本能、生存欲。

これが私たちの原動力になっている。しかしよく考える必要がある。すべての人に勝ち続けることはできないし永遠に生きることなどできない。いつかは必ず死ぬ。死ぬときは、どんなお金持ちでもすべてを捨てることになる。どんなに名誉があっても、すべては水の泡になる。そのことで苦しんでも仕方がない。

心所を知ることで、自分の心がどういう状態にあるのか、動物としての欲と怒りに操られているのかどうか、把握して、管理できるようになる。

心を管理する必要性

どんな心所が溶けやすいかでその人の性格が決まる。善心所が溶けると明るく前向きな性格になる。不善心所が溶けると欲や怒りが強く働く暗い性格になる。怒りは競争社会の原動力のようにも思えるが、仏教では単に「暗い」と位置づけられる。

もともと生存欲に支配されている私たちの心は、善心所を溶かしやすくはなっていない。善い性格になるためには、善心所が溶けやすくするように訓練しなくてはいけない。

例えば、私たちは本来わがままで、博愛精神など持っていない。私たちが優しくするのは自分に対して優しくする人に対してだけ。博愛に至るためには、慈悲喜捨という無量心所を育てる必要がある。

心を管理するための訓練の方法

自分の心がどのような状態にあるのか、どの心所が働いているのか、瞑想によって観察すること。それが重要な訓練となる。

自分の心の中で、どのように不善心所が働いているのか、客観的に観察する。そして、それを善心所に変えていく。そう訓練する。

それができれば人格が向上する。欲を追求する毎日では、幸福は得られない。
自分の心の状態を知って、いつでも落ち着いて、穏やかで、余裕のある心を保ちたい。

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