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彼女いない歴24年の哀れな初恋

不器用な告白

雪も降らない例年よりも暖かな3月の冬の日、大阪出張から帰ってから、私は電話でKちゃんに告白をした。
「ずっと前から好きでした。付き合ってください」
恥ずかしさを抑えつつそう伝えると、Kちゃんは「きゃー!!」と身悶えるような声をあげ、恥ずかしさと嬉しさを表現していた。
そんな様子がたまらなく愛おしく、私も喜びと少しの気恥ずかしさを噛み締めた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」

付き合うまでは友達として4人で集まって遊んでいる中で、彼氏がいるKちゃんにアプローチをするべきかずっとウジウジしていた私だったが、ようやく念願の夢が叶った。私の人生が報われ始めてきたとさえ思った。

私は24年間彼女というものがいたことがなく、告白しては振られると言うことを繰り返しており、どうやったら付き合えるのか、女子とはどう会話すれば良いのかと言うことを悩み続けてきた。
そんな中新卒入社で出会った彼女との初めての会話は、別の同期との噂話を広めた張本人と疑われ、問い詰められた。と言うものだった。
はじめの出会いこそ良いものではなかったが、疑いが晴れ、趣味などを話すうちに、男3人とKちゃんで遊ぶ仲良し4人組が出来上がっていた。
今思えば、側から見ればそれは「姫を取り囲む非モテ」と言う構図だったが、その時は純粋にその仲間でゲームをしたり、旅行に行ったりを楽しんでいた。

しかし、この関係が続いていき、私はこんなにリラックスして話せる女子と出会ったことがなかったため、次第に「この子と付き合えたら楽しいだろうな」と思うようになっていった。
Kちゃんが彼氏と別れたと知るや否や、アプローチを開始した。
拙いところは大いにあっただろうが、Kちゃんも私が気になっていたと言うことがあり、非常にスムーズに話が進んだ。(いざ電話で告白すると言う時は、Kちゃんも勘付きLINEで大焦りをしており、電話をし始めるのに時間がかかったが)

そうして3月初頭、私は人生で最も幸せな時間を過ごしていた。


付き合うと言うこと

「タバコはやめて!後Yくん(私)は慣れてないと思うから、思ってること、感じたことはできるだけ言葉にして伝えるね」
告白のOKをもらった直後に決めた二つの守りごとだ。私はきっぱりとタバコをやめ、私も思いはできるだけ言葉にするよう努めた。
今思えば言葉にして伝えることが乱暴だったことも多く、非常に反省しているが、タバコの禁煙は今でも続いている。振られたショックでやさぐれて始めたタバコだったが、流石にもう大人だ。害のあるものをまた改めて始めようとは思わない。

3月はお互いの家に泊まりあい、手を繋いで駅まで歩いて出社した。
会社に行くのが毎日楽しかった。恋愛というのはこんなにも心躍るものなのかと手を繋ぐ間はずっと喜びを噛みしめた。

お泊まり初日か2日目、私の隣で寝ているKちゃんが
「してもいいよ?」
といった。
私はここで(今までの男はすぐ求める奴が多かったのかな?)と邪推をしたが、昂る性欲を抑え
「明日は会社だし、今日はゆっくり寝よう。正直したいって気持ちはあるけど、それ以上にKちゃんを大切にしたいって思ってるからね」
と、一昔前のきざなセリフを吐いた。本心からそう思っていたし、Kちゃんにも想いが伝わり涙を浮かべていたそうだが、文面に起こすとなんとも言えない歯痒さがある。
そしてそっとハグをし、その日はそのまま眠りについた。


ささやかな恋愛期間

3月は本当に様々なことがあった。配属に納得のいかない同期を慰めるため二人でなんと言うべきか考えたり、オリエンタルランドに現地調査にいったもののアトラクション名がわからず困った事を話し、コロナが開けたら一緒にディズニーランドに行く約束をしたり、住む場所は近くにしようと話し合ったり…
結局住む場所は同じマンション同じ階になってしまい、毎日一緒にご飯を食べるという夫婦のような距離感で過ごすこととなった。
料理もできて、共にアニメを見て笑い合い、ゲームをして1日を終える。
そんな日々を過ごすうちに、私は彼女との結婚生活を思い浮かべていた。


価値観の相違

私は日に日に、ここまで俺が愛せる女は彼女しかいないと言う気持ちが強くなり、将来やこれからのことについてよく話を持ち出した。そこで私は思いも寄らない一言を言われることとなる。
「私は今が幸せならそれでいいから、過去がどうだったとか未来がどうとかは考える必要がないと思う」
その時はその一言に全く同意ができず、理解に苦しんでいた。そしてそのタイミングで仕事が全くうまく行かず、怒られる毎日でメンタルが弱っていたこともあったのか、
「その考えは絶対にダメだ、これからを考えずに今を生きるだけって、なんで生きてるの?って俺は思っちゃう」
彼女の人生観を全否定してしまった。この時は彼女のためを思って言ったつもりだったが、確実に言い方としてNGだと今は思うし、到底受け入れられる一言ではないと思う。

そんな中私は自分の仕事のできなさに悩み、検査を受け、ADHDであることが発覚した。
弱り目に祟り目、泣きっ面に蜂。彼女に言った酷い一言を詫びることもなく、弱っている自分を慰めてもらおうとした。
最低だ。私の初恋の後悔はここに集約されている。
タイミングが悪かったと言えばそれまでだが、彼女は私の彼女であって母親ではないのだ。
その事を勘違いし情けなくすり寄って慰めてもらおうとしていた。年下の彼女に。
こうなれば彼女は私に男としての魅力を感じず、冷めていってしまうのも当然だった。


初恋の終わり

「私たち、別れよう?」
その一言は突然ではなかった。ことあるごとに意見の不一致が生じ、明らかに空気が悪くなっていた後の一言だった。
私は全てを察した上で、彼女の気持ちは簡単に変わることはないと言うことも今までの意見の衝突からわかっていたので、うまく言葉が返せず、
「友達としての関係は続けていいですか?」
と言った。彼女は泣きながらいいよと答えたので、彼女が落ち着いてから自分の部屋に戻り、今までありがとうとLINEを送った。

これが5月のことだった。このお話はここで終わり、ではなく、ここからが第二の後悔だ。

2月までと同じ週末にオンラインでスマブラをやる友達の関係を続け、仕事でも協力して進めなければならないもののため会話が多く、
6月には私の家に彼女がきて一緒に仕事をすると言う関係がまた続いた。
そして付き合っていた頃と同じように昼飯を一緒に食べ、会社から一緒に帰ってきた日にぽろっと
「俺たちまたやり直せないですか?」
とこぼしてしまった。
彼女は「なしではない」とだけ答え、帰って一緒にスマブラをした。
一緒にオンラインでやるスマブラは楽しかった。共に喜び合い、笑い合い、付き合ってた頃の幸せな気持ちがこのまま帰ってくるんじゃないかとさえ思った。

しかし私はもうこの時点で、彼女に執着をし、彼女にまた振り向いてもらえるようにプレゼントを用意したり、何か都合の良くないことがあり機嫌が悪くなったら、
お詫びにカフェオレを買っていったり。全力で彼女のご機嫌を取ろうとしていたのだ。
今思えば私には彼女しかいないと思った上での行動だったが、全てが男としての魅力に欠けていた行動だった。
彼女は付き合っていた頃とは明らかに対応が違っていた。

こんな中彼女の7・13の誕生日プレゼントを付き合っていた時既に用意しており、渡そうかどうか迷っていたが、結局渡すことにした。暗証番号を彼女の誕生日に設定し、宅配ポストに入れた。

彼女は喜んでくれたが、心から喜んでいると言う感じではなかった。


終章 良かれと思って

そして私の誕生日7・17の当日、彼女から
「17日は前に約束してたお寿司屋さんに行かない?」
と誘われていたので、速攻で午前に仕事を終わらせ、彼女が駅に着いたときにはすぐに入れるように準備をしていた。
この時点では誕生日に二人でご飯に行けると言うことはこのままいけば復縁もあり得るかもしれないと完全に期待してしまっていた。

彼女が美味しそうにお寿司を頬張る姿を見て、私は本当に幸せな気持ちになった。
なんて可愛い顔で見つめてくるんだろう、この時間がずっと続いて欲しいと思っていた。

しかしお寿司はすぐに食べ終え、私の自宅へ戻り一緒にスマブラをした。
私は手が抜けず彼女をボコボコにしてしまった。こんな事を負けず嫌いな彼女に言ったら怒るだろうが。

その後、彼女の大学時代の後輩と共にオンライン対戦をして、幸せな1日は終了した。


そして次の日、同期のWから電話があった
「暇ならKのお家おいでよ」
私は早々にジムに行き彼女の家に急いだ。
そしてチーズタッカルビとケーキを食べ、そろそろ帰る時間を意識し始める頃、
「Kは今の彼氏はどうなの?」
と同期のJが一言。
私は息が止まるようだった。彼女も言葉に詰まっており、今の一言は事実なのだろうと悟った。
私はいたたまれなくなり、家に帰るといい帰ったが、動悸が止まらずケーキを吐いてしまった。
それから怒りと無力感に打ち振るえ事実を確認せずにはいられなくなり、彼女の家に再び乗り込んだ。

部屋には彼女と私二人きりになり、事実を言えと迫った。
1週間ほど前から付き合いだしているようであり、私には言わない方がいいと判断したと言っていた。
1週間前?彼女の誕生日の頃には付き合っているって事?彼氏と会って誕生日を祝ってもらった後に、未練たらたらの元彼がプレゼントを渡してきたってことか!
そりゃ素直に喜べないわけだ!!!

こうなると私の怒りと惨めな思いは爆発し、感情のままに彼女に当たり散らした。
余計な説教もし、彼女の私の評価は地に落ちただろう。

その後は他の同期に俺の思っている事を全て聞いてもらい、この感情をデトックスするためにこの文章を書くことにした。
その時の私は本当にダサかったしウザかっただろう。彼女は寝てしまっていた。


後書き

私は今でもKちゃんのことが好きなのだろう。今はまだこの気持ちをどう切り替えたらいいのかわからない。
恋愛はこうも苦しいものなのか、25の誕生日をへて遅すぎる経験だったのかもしれないが、この経験を経てこれから私は成長してきたいと思う。
彼女の事を考えると動悸がする。私はこのまま明日仕事ができるのだろうか。
辛くても耐えて今は頑張ろう。他にたくさん熱中できるものがあるのだから、そこにのめり込もう。
そうやって一歩ずつ進んで生きて行きたいと私は思う。