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【36】着物記者歴30年のライターも驚く「究極のきもの」とは? 「山鹿里帰り展」ご案内篇

「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクト!
《私たちのシルクロード》 第36回 「山鹿里帰り展」ご案内篇

お蚕さんが結んだ繭から糸を作り、染めて織って着物に仕上げ、その全工程をレポートした「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクト《私たちのシルクロード》。
ここで制作した「Blue Blessing(ブルーブレッシング:青の祝福)」着物が、先日「つぶやき」欄でお伝えしたとおり、なんとお蚕さんの故郷・熊本県山鹿(やまが)市で「里帰り展」を開催しますので、ご案内いたします。

■「繭から着物」山鹿里帰り展 概要

展覧に至るありがたい経緯や、展示にかける思いなど、お伝えしたいことはたくさんありますが、例によって長いので、まずは概要から。

【名称】「繭から着物」山鹿里帰り展
――山鹿で育った繭、山鹿の美しさが表れた糸、山鹿の清流を思わせる着物

【期日】 2021年10月11日(月)~15日(金) 9時~17時 
【場所】 山鹿市民交流センター
      熊本県山鹿市山鹿987番地3(山鹿市役所敷地内)
【入場料】無料

■きっかけは新聞記事!

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前回の第35回「動画できました篇」でご紹介しました熊本日日新聞の記事。すべてはここから始まりました。

熊本日日新聞は「熊本県民なら誰でも読んでいる」といっても過言ではないほど、熊本で信頼され、親しまれている新聞です。記者の猿渡将樹さんの熱意と社内の皆様のご配慮により、インパクトのある、とても大きな記事にしてくださいました。もう一度、記事のリンクを貼りますね。

これを山鹿市のトップに通じる偉い方がご覧になり、「OH!これは!」と山鹿市の早田順一市長にご紹介くださいました。そして、市長さんに我らが「Blue Blessing」着物をご覧に入れるという栄に浴しました。

■山鹿市長さんを訪問

8月30日、養蚕農家の花井雅美さんは「秋蚕の掃き立て」にあたる日だったので、私がひとり「Blue Blessing」を抱えて市庁舎を訪ねました。

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山鹿市といえば、和紙でできた精巧な金灯籠を頭に頂いて民謡「よへほ節」に合わせて踊る「山鹿灯籠まつり」で知られる街。千人もの浴衣姿が踊る幻想的な光景を浮き彫りにしたレリーフが壁いっぱいに掛けられた、会議室のような広い市長公室に、ご紹介者さまと私がぽつんと座るとすぐに、市長さんが入られました。

お一人だけでなく、市議会議長の服部香代さまほか、市のお歴々が続々と入室され、白い手袋をはめて「Blue Blessing」をニコニコと鑑賞し、話を聞いてくださいました。私は、ありがたい気持ちでいっぱいになりました。

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この着物は、制作に関わった私たちの思いを込めて「Blue Blessing」と名付けましたが、note連載で多くの方にご覧いただいて本当に「祝福」に満ちた着物になったと思っていたところ、お蚕さんの故郷・山鹿市をリードする方々のあたたかい眼差しに包まれ、よりいっそう「祝福された着物」になったと実感したのです。

もともと良く晴れた明るい日でしたが、「Blue Blessing」は光を発するように一座を照らし、それを取り囲むみんなで、山鹿生まれの繭が一枚の美しい着物になったことを喜び合いました。こんな幸せの場所にいられて、私は花井さんや糸づくりの中島愛さん、染織家の吉田美保子さんら他のメンバー3人に申し訳なく思うほどでした。


■山鹿に思いを寄せる展示を

そんなこんなの経緯を経て、「Blue Blessing」を山鹿市民の皆様にご覧いただける機会を作っていただけたのでした。並行して、購入してくださる方も決まったので、納品が遅くならないよう、急ぎ展覧の会期を10月半ば頃に設定してくださいました。概要書には以下のように説明しています。

【案内文】
熊日で反響を呼んだ記事「繭から着物 一貫手作り」で紹介された「Blue Blessing」着物は、山鹿の養蚕農家が育てた繭から作られました。繭から糸を繰った人は「繭が育った山鹿の空気、水などの美しさは、確実に糸に表れている」と語ります。その糸を熊本市出身の染織作家が糸を染め、織り上げた着物が「Blue Blessing」です。この着物の美しいデザインは、岩野川を始めとする熊本の清流や湧き水から想を得たものです。このたび購入された方のご厚意で、繭のふるさと山鹿にて着物のお披露目をすることになりました。山鹿の魅力がたっぷり込められた着物をどうぞご鑑賞ください。併せて、かつての養蚕農家が家族のために作った「繭から着物」も展示します。家族の愛情が込められた、世界にひとつだけの宝物です。

そうです。最後に記しましたとおり、メインはもちろん「Blue Blessing」ですが、資料として「かつて養蚕農家が家族のために作った『繭から着物』」も展示します。そのきっかけを作ってくれたのも新聞記事でした。

■思いがけない新聞の反響

「繭から着物へ」の記事が掲載された8月18日以降、いろいろな形で熊本日日新聞の影響を見ることができました。把握しているだけの4記事を写真に撮ってみました。

下の写真、左上は翌8月19日の夕刊です。前日のニュースをクイズ形式にして振り返るコーナーです。皆様もクイズに挑戦してみてください!

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答えは「青の祝福」です。正解でしたか?

次は、右上8月25日(水)の投書欄です。96歳の女性が、あの記事を見て、実家が養蚕農家だったこと、年に4回養蚕をしていてお父さんの手伝いをしたことなどの思い出を語られています。この欄は「熊本弁まっだし」といって、ルビや語注を入れて本格的な熊本弁で書かれています。96歳の方なら大正14年くらいのお生まれ。お父様は明治生まれでしょう。96歳の方の幼少期の思い出をよみがえらせた記事なんてすごい、とうれしくなりました。

3番目は、写真左下。8月26日(木)の投書欄です。66歳のこの女性は、嫁ぎ先が養蚕農家で思い出を語られています。2016年の熊本地震の前には座繰り機もあったけれど、家を解体するときに捨ててしまってもったいなかったと振り返り、私たちの取り組みを「何か夢が持てそうなうれしい話題だった」と評してくださいました。

最後に、写真右下。9月9日(木)朝刊2面、社説欄の下にある「射程」というコラムを、論説委員の久間孝志さんが書いてくださいました。熊本県全体で昔ながらの養蚕農家が山鹿に2軒残るだけとなった現在、私たちの「蚕から糸へ、糸から着物へ」の取り組みと、「あつまる山鹿シルク」という先進技術を駆使して通年繭の生産を可能とした養蚕工場を並べ、やり方は違うけれど、養蚕にかける情熱は共通していると指摘した、「超絶優秀」なコラムです。私も、こうした「両輪」があってこそ、初めて産地としての強みがあり、シルクの街・山鹿の素晴らしい特色になると思うので、この記事は大変うれしく、ありがたく、感動して読みました。

反響はそれだけではありません。新聞社には電話も寄せられ、そのうちのひとりに私はお目に掛かることができました。

■もうひとつの「繭から着物」

熊本市内に住むSさんは昭和22年生まれの74歳。お母様の実家が養蚕農家だったそうで、自家の繭から作った着物類を大切にされています。しかしそれを受け継ぐ人もなく、私たちに託したいとおっしゃいます。

Sさんのお話は、また別の所で詳しくお書きしようと思っていますが、私はSさんのお着物も、もうひとつの「繭から着物」であることを教えていただきました。本連載でも新聞記事でも書かれているように、昭和初期の最盛期には、熊本県全体で7万軒もの養蚕農家があったそうです。どの家にも、養蚕の思い出があり、出荷できない繭から作った自家用の着物があったことでしょう。

新聞記事を見て、投稿してくださった2人の女性も同じ。日本全体で、このような着物が家の奥深くに、人知れず蔵されているのでしょう。

そう思うと、西日本の「蚕都」といわれる山鹿だからこそ「もうひとつの繭から着物」にスポットを当てたい――そう強く願いました。市役所の担当の方にお許しをいただき、以下のような展示内容を企画しました。

【展示内容】
1,メイン・衣桁掛け「Blue Blessing着物」
2,トルソー① 山鹿の養蚕農家が孫娘のために自家の繭から自ら糸を繰り、織った着物
3,トルソー② 下益城(しもましき)の養蚕農家出身の母が、娘(Sさん)のために自家の繭を染めに出して制作した着物
4,台置き① 丹前(たんぜん) 下益城の養蚕農家出身の母が、娘(Sさん)のために自家の繭から七五三の祝い着を作り、それを後日Sさんの嫁入り支度のため、自家の繭から取った毛羽を綿入れにして仕立て替えた丹前
5,台置き② 綛糸(かせいと)「Blue Blessing着物」の緯糸。清流の冷たさをイメージ
6,台置き③ 繭 山鹿の養蚕農家、花井雅美さんが育てた、今年の繭
7,ビデオ上映「蚕から糸へ、糸から着物へ」(約10分)DVD

上記3と4が、S様からご提供いただいた着物です。
2の「山鹿の養蚕農家」とは、現在の「お蚕ファーム」です。花井さんが入入居される前に、養蚕に従事していた農家が孫娘のために作った着物です。花井さんは家屋とともに、この着物も受け継ぎました。

■山鹿市民交流センターでお会いしましょう

ご紹介が遅くなりましたが、今回のタイトル上にあるトップ写真は山鹿市市役所です。向かって右側が市役所庁舎、左側が山鹿市民交流センターです。

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上の写真は山鹿市民交流センターの入り口を撮ったものですが、市役所側から入っても会場に通じているので大丈夫です。

緊急事態宣言等が解除されても、まだ移動がためらわれる昨今です。ご無理のない範囲で、ぜひ実物をご高覧いただけましたらと思います。お越しになれない方のために、note連載第37回として、会期終了後10月下旬に「山鹿里帰り展」ご報告篇をお届けする予定です。

ご購入くださるお客様に納品する前の、最初で最後の展示です。「Blue Blessing」着物がよりいっそう祝福に満ちた着物になり、お召しになる方を祝福のパワーでお守りすることができるよう、心を込めた展示を行いたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。

*「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクト《私たちのシルクロード》に関するお問い合わせは、下の「染織吉田」サイト内「お問い合わせとご相談」にご連絡をお願いします。


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