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【39】取っておいた「残り糸」からショールを作りました!

「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクト!
《私たちのシルクロード》
第39回 残り糸でショール篇

お蚕さんが結んだ繭から糸を作り、染めて織って着物に仕上げ、その全工程をレポートした「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクト《私たちのシルクロード》。

2020年に「蚕から糸へ、糸から着物へ」の取り組みを開始し、2021年に本ブログでご紹介して、ひとまずの千秋楽を迎えてから1年余り。
お久しぶりです。今も皆、元気にしておりますよ!

2022年7月、お蚕ファームの元気な桑畑

前回の第38回ラストに「もしかして、また何かお伝えすることがありましたら、ひょこっと現れるかもしれません。」と記しましたが、このたび「ひょっこり」案件がありましたので、登場することにいたしました。

タイトルは、取っておいた「残り糸」からショールを作りました!です。
どうぞよろしくお願いいたします。

■ところで「残り糸」って?

2020年の「蚕から糸へ、糸から着物へ」の取り組みで、最終的に一枚の着物を制作しましたが、その過程で使用された糸が全て着物になったわけではありません。

例えば、縞糸Bとしてブラッシング・カラーズを施した経糸(たていと)。

【26】着物記者歴30年のライターも驚く「究極のきもの」とは? 染め織り篇⑤より

このとき ↑ 、デザインの都合上、余裕を持って多めに糸を用意したので、本番で使わなかった分がありました。それを大事に取っておいたのを、2022年秋、ショールの制作に生かしたのです。

この経糸をショールの経糸に使用して、9本織ることができたそうです。
9本のうち一部の緯糸(よこいと)には、「蚕から色へ、糸から着物へ」の別な残り糸を使用しました。

そうです、あの糸!

【30】着物記者歴30年のライターも驚く「究極のきもの」とは? 染め織り篇⑨より

織機に張った経糸は、構造上、最後まで緯糸を入れて織ることができません。上の写真、いちばん手前の白布は、経糸を巻き取る「緒巻き」の「ちきり布」です。これに結び付けた経糸が、321本ほど吊されている綜絖(そうこう)を通って向こう側に渡っています。その「向こう側」で吉田さんが緯糸を織り入れていくのですが、写真の状態は、経糸を結び付けた「ちきり布」が綜絖に迫り、まもなく織れなくなる(終了)という状態です。

織り上がると、最後に緯糸を織り入れた所から5㎜ほどのところで、織物が切り取られます。そうすると、張力から解放された残りの経糸がだらんと残り、ちきり布から外されます。

【31】着物記者歴30年のライターも驚く「究極のきもの」とは? 染め織り篇⑩より

これらの残り糸は、昔は綿入れの一部に使っていたなどと言われますが、今では処分されるのが主流です。しかし、吉田さんは「花井さんが大事に育てあげた繭から、中島さんがあんなに丁寧に絹糸にしてくださったことを思うと、短い糸さえもったいなくて」と、30㎝ほどの残り糸1284本を手で結んでつなぎました。すごいー!

【31】着物記者歴30年のライターも驚く「究極のきもの」とは? 染め織り篇⑩より

そうして小管(こくだ)に巻いて、「いつか」のために取っておきました。この辺りのことは、以下の第31回に詳しいです。

■ショール作品鑑賞会

それでは、早速仕上がったショール作品を鑑賞しましょう。
「蚕から糸へ、糸から着物へ」で作った着物「Blue Blessing」を思わせるようなショールですが、緯糸6越ごとに別糸(ロイヤルブルーに染めた太めの糸)を入れることで、表情も変わって見えます。

一楽織ショール 吉田美保子作 2022年11月

さわさわと清らかな水が流れるような織物から、プツプツと糸が飛び出ているのが見えますでしょうか?

もっと近づいて見てみましょう。↓
ひげ紬のように、結んだ糸が織り目から出てきて、豊かな表情を見せています。糸たちが個性を主張しているようで、なんとも魅力的!

清流の流れが思われる、一楽織のショール 

このショールは「一楽織(いちらくおり)」という織り方で織られています。

一楽織とは、明治時代に流行した織物で、幕末の籠編み名人・土屋一楽の名に由来するそうです。平織と綾織を組み合わせた織り組織のため、平織の丈夫な固さと綾織の柔らかさといった、両者の長所が生かされているのが魅力だと吉田さんは語ります。

ショールの房、先端部

房の先にも、ご注目ください。
ブラッシング・カラーズによるブルーの染め色が、ほんのり見えて可愛い!

これを吉田さんが織っているようすを記録した1分ほどの動画がTwitterにアップされているので、本欄にも転載します。(吉田さんご自身の解説付き)

ということで、すみません、早い者勝ちとでもいうのでしょうか。これをワタクシが手に入れてしまいました。どうです?素敵でしょう。うふふ。

一楽織のショールを羽織ったところ

私一人自慢しても申し訳ないので、同じ経糸で織った別のショールもご紹介しましょう。

一楽織のショール

緯糸は結び糸ではなく、多様な質感と色の糸を使っているので、同じ一楽織でも、まったく違った印象のショールたちです。

せっかくなので、これらを織っている別の動画もご紹介します。(1分)

もうひとつ、動画がありました。(1分弱)
元々染めてあったブラッシング・カラーズだけでなく、新たなブラッシング・カラーズも施されています。創作って、無限の可能性があるんだな。
(動画内で案内されている展覧会は2022年12月に開催)

これら一楽織のショールは、着物の帯あげとしても使えるんだそうです。
詳細とお問い合わせは、こちらへ 

■やっぱり今回も、ありがとう

今では捨てられてしまうことの多い、織り上げた後に残る経糸の端っこ。
それはたまたま経糸の端っこになっただけで、寒い日も暑い日も桑畑の手入れを怠らずに丹精した桑の葉を、生まれたときからずっと食べ続けたお蚕さんが結んだ繭から、糸の美しさを生かすために手間暇をいとわず丁寧に糸づくりされた糸です。

養蚕の花井雅美さん、糸づくりの中島愛さんから最終ランナーとしてバトンを受け継いだ染織作家の吉田美保子さん。

桑畑の土壌から糸になるまで、全ての工程を把握した吉田さんが、少しの糸さえも捨てることなく創作に生かした・・・・・・。それは、本連載でずっと見続けてきた「かつては当たり前の手仕事」の精神そのものだなあって、ありがたく、尊いことと思いました。

「アリガトネ」
蚕の神様が小さな声で言ったようにも思いました。

花井さんから中島さん、吉田さんへとつながれたシルクロードのもうひとつの終着点であるショール。これに身を包めることの幸せを思い、大事にしていきたいと思います。

なんだかね、このショールに身を包まれていると、とても幸せな気持ちになるのです。どうしてかな?
この唯一無二の素敵なショールが似合うような人になれるよう、精進していきたいと思います。

また、いつか「ひょっこり」するかもしれません。

「それでは、またね」

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