見出し画像

【創作】二階堂と莉亜のバレンタイン(短編小説)

※さりげなくBLです。

今日はバレンタイン。昼休みも中盤に差し掛かったころ、僕は複雑な気持ちを抱えながら学校の中庭で空を見上げた。

チョコレートが貰えなくて悩む、なんてことは有難いことになくて、毎年妹の夏菜と一緒にチョコレートを分け合って食べるくらいはもらえるのはいい。ただ、毎年1人くらいは女の子が告白してきて、それを毎回断ることで僕の心は削られていた。

僕にも好きな人がいる。もし自分もその人に勇気を出して告白をして、断られたらどんな気持ちだろう、と毎回思う。
それじゃなくても、この日のために前々からチョコレート菓子を用意したり、想いを込めたメッセージカードをつけたり、可愛らしいラッピングを考えたり、とても気合いをいれて告白に臨んでいるのに空振りで終わるのは、考えただけでも申し訳なさで胸が苦しくなる。

僕は好きな人にそんな思いをさせたくないし、自分もそんな気持ちになりたくないから、自分の気持ちはそっとしまっておく。それに僕の場合は両思いになれる可能性は、天文学的数字でありえないことだから、なおさら気持ちを伝えることに意味がないと思ってしまう。

僕の好きな人は同性の男の子だ。それも、その人には好きな女の子がいる。
きっと彼も学校が終わるまでにはたくさんチョコレートをもらって、好意を寄せてる女の子からもお菓子をもらえるんじゃないかな、なんて考える。義理チョコだったとしても喜ぶんだろうな。そのときの彼の表情を思い浮かべて、思わず顔が綻びる。危ない。まだ放課後までは2時間ちょっとある。

「二階堂!お前に用があるっていう女子が来たぞ!」

そう呼ばれて、咄嗟に我に返る。また告白されるとしたら断らなきゃいけない現実に心が重くなる。
でも僕を呼んだクラスメイトと一緒にいたのは、見慣れた顔だった。

「なんだ、莉亜。どうしたの?」
「どうしたの、じゃないでしょ…今日何の日か覚えてる…に、決まってるよね」
「おっ!?また告白か!?モテる男は違うねぇ〜」
「そ、そんなんじゃないから!!あんた、さっさとどっかいってよ!」

クラスメイトの男子のひやかしに怒る莉亜に苦笑いしている僕の隣に、莉亜が腰を下ろす。
莉亜は、僕の小さなころからの幼なじみで、バレンタインやイベントごとのときには必ずプレゼントをくれる。それが幼なじみだから、という理由だけなら僕も嬉しいだけで済むのだけれど、莉亜はどうやらそれだけではない気持ちもあるようで。

「はい。毎年あげてるけど、クッキーね」
「ありがとう。莉亜の作るクッキーはいつもおいしいんだよね、嬉しいな」
「あ、当たり前でしょ!感謝しなさいよ!」

莉亜は照れるとこうやって怒ったり頬を赤らめたりする。そういうところは可愛いと思うが、距離が近すぎるためか、僕が好きになれる性別とは違うためか、恋愛対象に入れることが出来ない。

「あ、あと、一応言っておくけど、義理だからね!夏菜ちゃんのぶんもあるから、一緒に食べてよね!」

彼女は昔から僕のことを知っているから、僕が女の子を好きになれないことも、告白を断るたびに心を痛めていることも知っている。だから毎回義理だから!と顔を真っ赤にしながら言うが、まったく説得力がない。

「わかってるよ。夏菜にも渡しておくね」

莉亜は僕が莉亜の気持ちに気づいてないと思っている。何年一緒にいると思ってるんだ。莉亜には悪いけど、莉亜にチョコをもらうことでも、僕の心に罪悪感みたいなものが生まれる。近い存在だからこそ、その申し訳なさは増幅する。

「…今年も、好きな人にはチョコ渡さないの?」

莉亜が先程と比べると落ち着いたトーンで話を振る。

「渡さないよ。彼もたくさんもらってるだろうし、僕からもらっても気持ち悪いだけでしょ?」
「そんなことない!気持ちを伝えられなくても、もらえるだけで喜んでくれるかもって思って用意したり、楽しんでお菓子を作った気持ちは相手に伝わるはずでしょ!」

いきなり大きな声で言われて少しびっくりしたが、確かにその通りだ。というより、これは莉亜の気持ちなのか?

「あと、あんたね、いっつもへらへら笑ってるけど、心の奥ではたくさん傷ついたり悲しんだりしてること、私は分かってる!バレンタインが嫌いなことも!でもお菓子をくれる人があんたのためを思って作ってるのも分かるでしょ!今は同性にチョコ渡すのも変じゃないんだから、渡してみればいいじゃない!私だって…」

そこまで言うと莉亜は少し口ごもり、先程までの勢いが少し失われた。

「私だって、好きな人、にあげるお菓子は特別に思い込めてるんだから…」

いつになく真剣な莉亜に少しどきりとする。莉亜が僕に対してこんなに真剣に考えてくれていたなんて、思ってもみなかった。

「そうだね。莉亜のおかげで勇気出せそうだよ。少し考えてみるね」

好きな人に想いを伝えなくても、好きな人を想って選んだものや気持ちは必ず伝わる。それが恋愛の好きじゃなくても、あなたが大切です、という気持ちは必ず伝わるものだと、僕も信じたい。

放課後、僕はいろんな人からもらったたくさんの想いを抱えて、デパ地下のお菓子売り場に寄った。そこで売れ残っているのお菓子の中から、彼が好きそうなものを選ぶ。

「ほんと、好きな人を想って選ぶのはすごく楽しいね…」

誰にも聞こえないようにぼそっと呟いて、サッカーボール型のチョコレートをちょっと子供っぽいかな、と思いつつもレジまで運ぶ。
少しでも喜んだ顔が見ることが出来たらいいな、と思いながらデパートを後にし、帰路についた。

莉亜の言っていたことを思い出して、僕は最高の幼なじみを持ったな、と思った。この気持ちが恋だったなら、彼女の想いに答えられたのになぁ、と少し心が痛くなる。
でも、バレンタインに対してここまで前向きになれたのは彼女のおかげだ。

「ありがとう、莉亜」

夕日に染まった空を見上げて、僕は呟いた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?