未完の短編(学校の話)

また目が覚めてしまった。
朝、目覚まし時計が鳴った瞬間に、僕の頭の中ではこの言葉が再生される。それは、この目覚まし時計のように、毎朝セットされているかのように繰り返される。

重い体を持ち上げて目覚ましを止め、親が用意していった朝ごはんを食べ、顔を洗い、いつものように制服に着替えようとした。そのとき、またいつものあの感情が襲ってくる。

学校が嫌だ。壁にかけてある制服へと伸ばした手が止まる。体が鉛のように重くなる。この制服を着て、あの教室に行ったとしても、何か得るものはあるのか?冷静な判断力は失われる。あんな、いるだけで苦しい空間に自分から出向く必要はないだろ、と思うが、親が帰ってきたときに「学校くらいちゃんと行けないでどうするの!」と叱られるのも嫌だし、うまい言い訳も思いつかないから必死に制服に手を伸ばす。

制服に着替え、家から出て学校へ向かう。外に出ると、冬の寒い風がひゅーっと吹いた。足元は親が雪かきしてくれていたのか、固く踏み固められた雪道で、靴で踏むときゅっきゅっと音がする。
家から学校までは徒歩10分程度。絶妙に学校に通いやすい距離に住んでいることを呪う。同じ制服を着た学生が自分の手前を何人も通り過ぎていく。この中にクラスメイトがいたら…と思うと、また体が重くなる。歩くスピードもだんだん遅くなってくる。もう何人に抜かされたかわからない。朝から元気な笑い声が自分をわらっているかのように聞こえる。無駄に天気がいいのも自分を嘲笑っているようにしか感じない。今から大雪が降って、学校までの道が塞がれて、臨時休校になればいいのに。

そんなことを考えながら歩いていたら学校に着いてしまった。校門を通るときも、靴箱の前で上靴に履き替えるときも、教室へ向かう階段をのぼっているときも、考えることは同じだ。教室に入るのが嫌だ。

でも学校に着いてから教室に入るまではあっという間だ。僕は渋々いつもの教室の、いつもの席に座っていた。廊下側の一番後ろの席。

僕はいじめなんて大層なものは受けてない。だが、大きな笑い声が響くこの教室が大嫌いだ。僕は中学のときから容姿がチビ・デブ・ブスの三拍子だったこと、言い返せない根暗な性格だったことが重なって、いろんな人から馬鹿にされて生きてきた。漫画の世界では地味なやつが目立たない、というのはよくある設定だが、本当に地味なやつは、『普通』が『当たり前』の学校生活では逆に目立ってしまい、常に笑いのネタにされて生きている。この前なんて「オッサン」というあだ名をつけられたし、その前は「昭和」と呼ばれていたし、新しいあだ名がつくたびに僕の神経はすり減らされていく。
死にたい、なんて思うこともしょっちゅうだ。みんなにとっては笑い話でも、僕からしたら大問題なのだから。

僕は成績もそんなに良いわけでもないし、友達と呼べる人もいないし、授業中のしんとした空気も嫌いだし、本当に学校に来る意味が見いだせない。ただ、将来働くためには高校くらい出ておかなければならないという義務感だけで学校にきている。

とうとう僕が一番嫌いな時間が来てしまった。昼休みだ。別のクラスの人が教室に入ってきたり、2〜4人程度で机を向かい合わせにして弁当を食べ始める。

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