【創作】ヒロヒナ過去話(短編小説)
空はこんなに青いのに。おれは校庭のうさぎ小屋の中のうさぎにエサをやりながら、青い空と自分を比べて胸がしめつけられた。この青すぎる空までもが、おれのことをあざ笑っているような感覚がした。
おれは小学校で体型のことをからかわれている。クラスのリーダー的存在がおれのことをからかうから、クラスのみんなが口を揃えておれのことを小馬鹿にしてくるようになった。そりゃあ、自分でも太っている自覚はあるが、自分が気にしていることは人に言われるとすごく嫌な気分になるものだ。
でも、おれのことをかばってくれる奴もいる。そいつは普段は気が弱くて、人に強く言えないタイプだが、おれがからかわれることを良く思っていないらしく、休み時間や放課後に声をかけてくれることがある。今日みたいにうさぎのエサやりをしているとーー
「ヒロくん、大丈夫?」
ふいに声をかけられて心臓がぴくりと跳ねる。このか細くて高い声。振り向くと、頭に思い浮かべていた人物が目の前にいた。そう、声をかけてきたのはおれをかばってくれる優しい女子、朝比奈乃蒼。
「ヒナ…おれ、また逃げ出してきた…」
「あんなこと言われたら逃げたくなっちゃうの、わかるよ」
「でも…おれって弱いなって…」
おれが苦笑いをすると、ヒナは眉を吊り上げ、怒ったような表情をする。
「ヒロくんは弱くないよ!嫌なことがあったら逃げるのも強さのうちだってお母さんが言ってた!それに、何も悪いことしてないのにあんなふうにからかってくるなんて、あの子たちはひどいよ!」
普段は温厚なヒナの大声を聞いて少し驚いた。ヒナはこんな声も出せるのか。
呆然として声を出せずにいた俺を見て、ヒナは慌てて口をおさえる。
「ごめん!つい思ったことを言っちゃって…」
「謝ることはないよ。ありがとう。おれが悪いわけじゃないって言ってもらえて嬉しい」
ヒナの顔がみるみる赤くなっていった。大声を出したことがそんなに恥ずかしかったのだろうか。
「ううん…本当のことだから…それに、ヒロくんはみんながやりたがらないうさぎの世話を自分からするくらい優しい人なのに…」
そう言ってうさぎに視線を向ける。するとうさぎはおれの腕に体をすりつけてきた。
「こんなに懐いてるもん。ヒロくんが好きなんだね」
ヒナはそう言いながらうさぎを撫でる。
その言葉を聞いて、おれの顔が少し熱くなり、また心臓が跳ねるような感覚をおぼえた。その言葉には、特別な意味はないのに。
「ヒロくん、優しいもんね。私もヒロくん好きだよ」
追い打ちのように続けられた言葉に、鼓動が早くなるのを感じた。ここで焦ったら確実に気づかれる。どうしよう。
「おれも…ヒナのこと好きだぞ」
平静を装って出てきた言葉はこれだった。相手も特別な意味はなく言っているのだからこっちが言っても変ではないだろう。
だが普段は言わないそんな言葉に自分でも戸惑い、心臓はばくばくと跳ね、おれは正直気が気じゃなかった。
ヒナは少し驚いたような顔をしておれのほうを見た。やっぱり変だったか?
「ありがとう。嬉しいな!」
ヒナは本当に嬉しそうな笑顔でそう言った。別に変ではなかったようだ。
そしてヒナは校門へと続く道へと体を向けた。
「ヒロくんも元気になったし、そろそろ帰ろっか!」
ヒナはなぜかおれに背中を向けたままそう言った。少し疑問には思ったが理由は聞かないでおいた。
「あぁ。帰ろう」
おれが立ち上がった瞬間、風がふわりとおれとヒナの髪を撫でた。それが少しくすぐったかった。
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