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二人の賢者と熊本遠征7『アクティベーション』

■前回のエピソード》

※賢者α=僕の仕事を少しサポートしてく
 ださる宇宙の流れに逆らわない天才の友達。
※賢者β=税理系職の一見普通に見えるが
 めちゃ深みのあるカッコイイおじさん。

 2023年3月下旬、熊本遠征二日目。この日、事前に賢者βから行先として提案のあった『不動岩(ふどうがん)』にまず向かう。

 この連載のサムネ画像(表題として使っている画像)にしている鉛直上向(えんちょくうえむき)に『ずど~ん』と立っている岩こそ、不動岩とよばれるモノである。

 予めnetで画像を見ていたが、単純に一枚岩がド~ンと突っ立ってるものとばかり思っていた。でも実際には一枚岩ではないようだ。

 おそらく、その昔ここに今よりもっと大きな山があり、溶岩が登て来てそのまま固まって、山が雨水とかで浸食・風化した。溶岩の塊だけそこに残ったのだと思う。もしかすると地中にはもっと沢山の溶岩の塊が存在するのかもしれない。

 写真左下にお社(やしろ)がある。鳥居が置かれているので神社かと思いきや、そこには‥

 と、早朝にも関わらず僕等の他に誰もいなかったこの場所にロン毛でオールバックで髪の毛を後ろで一つに結んだ随分と日焼けした一人の男性がやって来て、ひとしきり拝んでいった。

 拝み終わると、鳥居の上に設置してあるお賽銭箱にお金を投げ入れようとし始める。お賽銭箱はお社のなかのよくある通常の位置にもあるが、鳥居の上にも災害義援金として、募金箱として設置してある。

 これは、神がかったところに置いてあるとついつい入れてみたくなる。そういう心理を逆手に取った催眠テクニックの一種だ。だが、こういうお金には投げ入れた人のプラスのエネルギーも一緒に封入されることになる。鳥居の上に設置するとはナイスアイデアだ。

 一度では入らない。
「なかなかね(笑)難しいんです」と照れながら3度ほど挑戦すると「カラカラン」とお賽銭が入ったような音がした。
 我々は思わず拍手した。

 彼は満面の笑みで帰って行った。いつも来ているようだった。

 賢者二人は早々にお参りを済ませ、立ち話を始める。鳥居の上のお賽銭も、賢者二人はそれぞれ2度3度挑戦するころには入ったような音がした。

『凄いなぁ~、やっぱこういう人たちってこういう所でもお賽銭が入っちゃうんだな~』と、子供の頃要領が悪く鳥居の上にお賽銭を乗せられなかった苦い記憶が思い起こされてくる。
 僕はそういうのが下手くそだった。近所の子どもはみな、こぞって小銭を鳥居の上に投げて乗せるのが上手かった。

 さて、お社に入ると仏さんが鎮座していた。鳥居が設置されているので神社かと思いきや、そこには仏さんがいるのである。他にも何体か仏さんが置いてあったと思う。中央には真っ赤に塗られた燃えたぎるような浮彫(うきぼり)の不動明王がいる。いわゆる神仏習合というやつだろうか。

早朝現れた男性参拝者
慣れた様子でお賽銭を鳥居の上の賽銭箱に投げ入れた

 比較的新しそうなお酒やお供え物が見られたので、先ほどの男性の様にこの場所に度々訪れている人たちが他にもいるのだろう。

 折角遠方から来たので、お賽銭を500円入れてお参りする。
 鳥居があるので神社式に二礼二拍一礼でお参りした。しかし鎮座しているのは不動明王だ。

 とっさに、持って来ていた般若心経と不動明王の真言を持ち出し唱えてみた。
 とりあえず般若心経を一度。つづいて不動明王真言を7回くらい。

 この時唱えた真言は、よく知られた『の~まくさ~まんだ~‥』と発音せず、『なまく さまむだばさらなん せん だまかろしゃな そわたや うん たらた かんまん』と発音した。
 この頃は不動明王真言はこの発音しか知らなかった。

 唱え終わり、どことなく空回りしたような緊張か高揚感を感じながら「これでいいはずだ‥」と自分に言い聞かせ鳥居の賽銭箱に挑戦した。

 『投げる』ので、どこかに転がって無くなってしまうかもしれないので、とりあえず100円玉を使う。

 子どもの頃、確かにこういうことは下手くそだったかもしれない。でも今やっても入らないと現時点で決定されてはいないはずだ。

 思い切って鳥居上の賽銭箱へ投げてみる。が、外れる。どころか100円玉が一瞬何処へ転がったか分からなかったり‥、それを繰り返すこと3回目。 

『カラカラン カチャッ』と
お賽銭が入った音がした!

「ぅわぁぁーあああ やったぁ!
 入った入ったぁ!!」

 大人げなく歓喜の声を上げてしまう。

 子供の頃の『出来ない』をようやく断ち切ることが出来たようで本当に喜んだのだ。劣等感がまた一つ浄化されたようだ。

 二人の賢者が立ち話している方へ行く。すると

賢者α
「白へびさん不動岩登って来てよ?」
白へび
「興味ありますけど時間大丈夫ですか?」
賢者β
「時間はたっぷりありますから平気ですよ」
白へび
「αさんは登らないんですか?」
賢者α
「私運動音痴やから、よう登らん。白へびさん登って上の様子写真に撮って来て?」
白へび
「はいはい、僕下っ端ですから、登って調査してきます(笑」

不動岩に沿って急な登りが延々つづく

 木という木の多くが、パワースポット特有の成長の仕方をしている。根元で幹別れしてそのまま成長するという、街中ではまずお目にかかれない生え方だ。
 それでも、京都御所敷地内ではこういう生え方をした大きな木を幾つも見ることが出来る。それはさておき‥


 どう見てもこのロープの先は切り立った崖でしょ?ロープの所まで近づいて足元の下がどうなっているか確認するのはやめた。
 これほど危険な場所へ侵入したことは殆(ほとん)どない。ついさっきまでの遊歩道とは雰囲気が一変、一気に緊張感が増してくる。

 恐らくこの先が頂上だ。これが頂上へつづく道なのだが、もはやただの岩肌だ。

 ここで、上着のチャックのついたポケットにデジタルカメラだけを入れ、ハンカチや携帯が入ったトートバッグを下ろし、岩肌から転げ落ちないようにそっと置いていく。しょったままだと危険極まりないからだ。ここからは両手両足で慎重に登る。

 周りが木々に囲まれてない、岩肌に辛うじて生息する背の低い木、又は草がへばりついて生えているだけになった場所。
「間違いない、もう‥すぐそこが不動岩の頂上だ」

 しかし、最後のあと数歩がなかなか出ない。何故か?

恐いのだ。
ただ、単純に恐いのだ。

「乗っかった僕の重みで、岩が崩れたら?そこで終わりだ」
ここにきてありもしない未来を想像してしまう。

やめるか?登の

ここまで来て登のやめる?

今度いつ熊本に来れるか分からないよ?

あとちょっとだよ?
ここまで来て登らないなんてありえないでしょ!

 

そんな10秒足らずの自問自答の末、『宇宙が望むなら僕は頂上に立てるはずだ!』とか、自分に酔ったようなセリフを吐きながら、とうとう頂上に登ることが出来た!

 頂上からの景色を‥

見せてあげない

 頂上に登った人にしか見ることが出来ない。その方がきっといい。
 というか、写真も動画も撮ったけど、どんな感覚かが伝わらない。緊張感でアドレナリンが出まくって、その末の頂上だ。撮った写真を見返して、「あの緊張感が伝わらない」と思うだけなのだ。はてしない緊張感を味わえるのは、実際に不動岩に登った者だけなのだ。

 両足がちょっと震える、しかし意外にも落ち着いている。急斜面を登ったので息が少し荒くなったが、気持ちは意外と落ち着いているものだ。

 ここは不動明王の鎮座するお社より上の場所だ。折角なのでここで非常に短い時間だが瞑想してみる。ほんのわずかな時間だけ。
 10秒だったか20秒だったか。下で二人を待たせているので少しの時間だけ瞑想する。

「ここに登らせてくださったのは、僕に天下をとれってことですね?やりましょう。ありもしない恐怖を克服して一番上に立ったのですから、それ相応の働きをして行けるでしょう」

 不動明王か神様か内なる自分の神性にか。とにかく何かに誓いを述べて来た道を戻る。

 頂上からの景色はお見せしないが、頂上の様子は少しだけお見せする。

 頂上は草が少し生えてるくらいでほぼ岩肌。それも幾多の岩石や砂利が練り固まった様な鈍(にぶ)い表面をしている。一瞬の気のゆるみが滑落事故を起こさせそうな異空間だと思いたくて仕方ないところ。

 来た道を戻るのも又一苦労。トートバッグを置き去りにした頂上2~3m手前の所まで降りるのも、十分しゃがんで両手両足を使って慎重に降りていく。

 興奮の冷めやむ間もなくお社近くにいる二人の賢者の元へ戻る。

賢者α
「どこまで行ってきたん?」
白へび
「一番上です」
賢者α
「息が荒くなっとるし、上まで行って来たみたいやな、写真撮れた?」
賢者β
「上まで上がれるんですね!今度私も登ってみようかな」
白へび
「βさん、その靴はさすがに駄目ですよ?本当に危険です。せめてローカットでいいので登山靴とかで行ってください」

 賢者βは必ずと言っていいほど、革靴で行動するのだ。前に京都の鞍馬寺(くらまでら)から貴船神社(きふねじんじゃ)へ抜ける遊歩道があるとお伝えしたところ、随分と興味を示したので「ただし革靴はさけてください、ちゃんと登山道になってますから」と念を押しておいたが、

「白へびさん、行ってきましたよ!鞍馬寺から貴船神社へ」と話されたときは、やはりいつもの革靴で行ったと言うのだ。
「そりゃ行けなくはないでしょうけど‥」

 が、不動岩は革靴では絶対にヤバイ。今回は十分に念を押した。「革靴で登るのだけはやめてください」と。

 

 お社近くに立っている案内図を差しながら
賢者α
「結局白へびさん何処まで行って来たん?」

白へび
「これこれ!①これに登ったんですよ!」
賢者α
「これぇ?②これやで?これ登れるぅ?」
白へび
「あぁ‥そうですねぇ‥。これじゃないなら、③こっちです!間違いないです」
賢者α
「これ?これも無理やろ?④これやで?」
白へび
「いや、オレ、③これに登りました。途中切り立った崖になってて‥、間違いないです。①これじゃないなら③こっちです。⑤奥のヤツはちょっと遠いんですよ。あと600mあるって立札に書いてあったんで、さすがに待たせすぎると思ってやめました」
賢者α
「ふ~ん、③コレ登れるんや‥」
白へび
「頂上で少しだけ瞑想しました」
賢者α
「やっぱりそうか、ゆっくりしてるからそうなんかな?って思ったんよ。
頂上まで行けたんなら下から撮ってあげたらよかったなぁ」
白へび
「いや、それが‥みんなの姿が下過ぎて見えませんでした。覗き込むのも危険すぎて、それはやらなくて正解です」
賢者α
「βさんとな、白へびさん落ちたら救助要請せなあかんなぁって話しとったんよ」
白へび
「僕も、僕の体重で不動岩が崩れたらどうしよう‥って心配しました」
賢者α
「いやいやいや、白へびさん一人の重さで崩れることはないから」

 今これを執筆していて、ようやくわかった。間違いなく⑤のてっぺんに登ったんだ。上で撮った写真の様子と、はたから見た写真の様子がわりと合致してみえるのだ。

 確かに手前2本の岩は手ぶらでは登れない。

 

 ともあれ、不動岩頂上へ登る経験を果たすことが出来たので早速不動明王にご報告に行き、貴重な経験が出来てありがとうの意を込めて1000円のお賽銭を追加しておいた。

 思えばこの経験からなのだ。不動明王の導きがマジでありうる。そう思いたくて仕方ない不思議なめぐり合わせが、事あるごとに起きるのだ。 

絶対勘違いじゃない!
アクティベーションだったんだ!

 つづく