公務員にとっての「戦略と戦術」〜レイヤー編〜

先日、(株)美ら地球代表取締役の山田拓さんから「手段の説明には、戦略と戦術の違いも明記できればよりわかりやすい」とのご指摘をいただいた。

「戦略と戦術」については、ひょっとしたら昨日少し触れた「プロジェクト」と、階層という意味の「レイヤー」で説明できるのかもしれない。今日はまず「レイヤー」について説明してみる。

軍事用語である「戦略と戦術」は、「戦略」が、戦いに勝つために兵力を総合的・効果的に運用する方法で、大局的・長期的な視点で策定する計画手段であり、戦術は、戦いに勝つための戦地で兵士の動かし方など、実行上の方策のことをいう(「違いがわかる辞典」より)。

これを行政に当てはめて、ものすごく乱暴に整理するならば、戦略とは「計画」であり、戦術とは「事業」であろうと思う。

自治体には大抵「総合計画」というものがある。小さな町村であれば、この総合計画は立派な戦略となりえて、それに則った戦いをすれば良いと思う。しかし、自治体の規模が大きくなるにつれ、この総合計画だけでは「戦略」としての役割が十分機能していないのではないかと思っている。

宮崎県を例に出せば、平成23年に策定、平成27年に改正された「未来みやざき創造プラン」という総合計画がある。

総合計画の策定には、相当な労力が注がれる。担当チームにより、様々な調査や、様々な関係機関との調整を経て、叩き台がつくられ、主要団体や住民代表等による委員会で何度も審議を重ねた上で、県全体として目指すべき中長期のビジョンとしてオーソライズされていく。悪く言ってしまえば、総花的にはなってしまうが(行政としては止むを得ない部分である)、それでも相当な叡智が集積されたものである。

ぼくはこういった定期的な計画づくりは行政において重要な役割を果たしていると思っている。今時点における課題をいったん整理し、次の計画策定年度までのロードマップと次の到達点を設定することは必要不可欠なものだ。

それでも、「大きな自治体の総合計画が十分機能していない」と書いたのは、カバーする範囲があまりにも広いからだ。たとえば、宮崎県の総合計画には目指すべき将来像に向けて8つの「長期戦略」が明記されている(上図三章)。

「人口問題戦略」「人財育成戦略」「産業成長戦略」「地域経済循環戦略」「観光再生おもてなし戦略」「文化スポーツ振興戦略」「いきいき共生社会戦略」「危機管理強化戦略」・・・どれもこれも課題山積で、まさに長期的、あるいは永続的に取り組むべき壮大なテーマである。

そのため、総合計画を第1層としつつ、深掘りして階層化していく「レイヤー」が必要となってくる。いわゆる「部門別計画」と呼ばれるものだ。

さて、宮崎県にはどれほどの部門別計画があるのだろう。部門別計画にも濃淡があるが特に重要な計画は「県議会の議決」が必要とされており、その議決計画だけでも23本ある。さらに、議決案件以外にも相当数の計画があり、ぼくの所属する福祉保健部で策定している計画は27本(議決計画除く)もある。県全体の計画数は100本を越えるのではなかろうか。

ちなみに福祉保健部で今年度に更新した計画だけで8本ある。「医療計画」「医療費適正化計画」「高齢者保健福祉計画」「障がい福祉計画」「健康みやざき行動計画21」「がん対策計画」「歯科保険推進計画」「子ども・子育て応援プラン」

どうだろうか。総合計画からレイヤーを一段、落としたにも関わらず、ひとつひとつの計画の守備範囲はまだまだ十分に広い。

そして守備範囲の広い計画というのは、どうしても「理念計画」になりがちだ。「かくあるべき」という「理念」が書いてある。

しかしながら、「計画=戦略」とするならば、もっと具体性の高い「実行計画」であるべきなのだ。更新ターンとなる3〜5年といった期間内に、具体的にどういう戦い方をして、課題を解決していくのかが書かれていなければならない。全ての計画に目を通したわけではないが、現実はなかなかそうはなっていないんじゃないかと思う。

県レベルで考える場合、実行計画をつくろうとするなら、さらにもう一段「レイヤー」を落とさないといけないと思っている。たとえば、ぼくが担当する高齢者関係で言えば、
1層目:未来みやざき創造プラン「戦略7 いきいき共生社会戦略」
 2層目:高齢者保健福祉計画
  3層目:介護人材確保計画・認知症支援計画・介護予防計画・医療介護連携計画・・・といった感じになるのだろう。

しかし、実際には3層目の個別の計画づくりまではやれていない。仮に2層目と同じような労力をかけてやるとするならば、年がら年中「計画ばっかりつくっている」ということになりかねない。それこそ「手段の目的化」に他ならないことになってしまう。

肌感覚では、レイヤーは第5層くらいまで必要で、第5層目に個別の「事業=戦術」がぶら下がっている感じだ。つまり「戦略」と「戦術」の間に大きな距離があるのだ。

ぼくはそれを繋いでいくのが「プロジェクト」なのではないかと考えている。以下、プロジェクト編につづく。

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