櫂十子

小説を書いてます、一般文芸からBLまで色々と。津原泰水文章講座・作品集に参加、小説すば…

櫂十子

小説を書いてます、一般文芸からBLまで色々と。津原泰水文章講座・作品集に参加、小説すばる23年8月号にコラム掲載。 R18作品■novel18.syosetu.com/n2252hc 連絡先はこちら■tohko.kai@gmail.com ※お仕事いただけると泣いて喜びます。

マガジン

  • 掌編

    短い作品あれこれ。

  • 小説

    これまでに書いた小説を置いてあります。おもしろいよ! R18のBL作品は下記URLへ。すこしエッチだよ! novel18.syosetu.com/n2252hc

  • 随筆

    随筆やら日記やら。書かねば塞げぬ穴もある。

最近の記事

掌編|大丈夫ですか?

昨日、僕が薬屋を目指し歩いていた商店街の中道で見た光景です。 その女性は道に転がった小石を一つ拾い、それを握りしめていました。たこ焼き屋の横でしゃがみ込んでいます。 通り過ぎる人々はそんな彼女を見て、危険だな、と思ったようです。彼女が小石を手に、こちらを睨んでいるように見えたためです。通り過ぎる人々は通り過ぎるだけなのに、危険じゃないか、と怒っていました。 誰も彼女に声をかけません。 彼女は怯えてました。 誰も彼女に声をかけません。 彼女は自分を守るために小石を持ってい

    • 掌編|迷走ハイボール

      もうすぐ電車が来るのだという。そう言われた。 けれどこのまま寒いこの場所で電車を待っていることが果たして良いことなんだろうか。 隣に立つ彼にそう訊いてみると「そんなこと考えたこともなかった」と笑う。 線路の向こうに目をやる。 駅舎の屋根に覆われたプラットホームより先は雪に白く霞みまるで見えない。 「だってどこに行くのかもわからないよ」ともう一度尋ねる。 「そっちなら安心?」と振り返り顎をしゃくる。 彼の視線を辿り振り向くと背後に伸びる駅の足場に握りこぶし程の黒いボールが一つ転

      • 小説|ライカの啼く夜(未完)

         冬枯れの梢を掠め落ちた月明の照らす顔面には青みがかった白目と黒い瞳が目立つ。その少女のような少年が言うには、ここを静箕(しずみ)と呼ぶらしい。なら目的の集落に違いないが、俺の立つ場所からは人家の明かりがまるで見えない。 「死にに来たの? おじさん」 「お兄さん」 「殺されたいのかな、おじさん(・・・・)」と、あどけない声に薄く大人の男を滲ませた声色で笑われた。顔に似合わず、感じの悪い子供(がき)である。  細くうねる山中の道だ。ぐぅと根本の曲がった樹々の向こうから、水音が冴

        • 掌編|畜生道

          父母については死んでくれとしか思わない私だけどあなたには長生きして欲しい、そう思うの。だってあなたが死んでしまっては、私困ってしまうもの。 この間、鉢に植えていた葉っぱがね、ずいぶんと長い間私の目を楽しませてくれていたのだけれど醜く枯れてしまったの。だから私はすぐに庭に放り投げました。だって気持ち悪いでしょう、枯れた植物なんて。 そういえば飼い犬が死んだの。知ってる? 生きてる間の犬は従順で柔らかいのに死ぬと冷たくて硬くて邪魔臭いの。だからすぐに捨てようと思ったのだけど、

        掌編|大丈夫ですか?

        マガジン

        • 掌編
          6本
        • 小説
          7本
        • 随筆
          3本

        記事

          掌編|たとえそれを恋とは呼べなくても

          空が綺麗だった。

          掌編|たとえそれを恋とは呼べなくても

          掌編|鰐と猫

          嫌われ者の鰐は、もう目を開くこともできないほどに老いています。そんな鰐に、人気者の若い猫が尋ねます。 「あんた、なんでまだ生きてるの?」 鰐は答えません。答えられないからです。 「可哀想だね。俺は嫌だな、そんな風になるのは」 猫はわりと長い間、動かないままの鰐をまるい眼で見続けました。鰐はただじっとそこにいて、すぅすぅと呼吸を繰り返しました、猫の視線を感じながら。 やがて鰐は、静かに息を引き取りました。 「楽しかった?」 猫が訊きます。 しかし答えは返ってきませ

          掌編|鰐と猫

          掌編|彼と彼女と神の歌

           ある町に、神さまの話を人々に伝えることを生業(生業とは、仕事のことです)とする若い男がおりました。男は町の人間から「アカさん」と呼ばれておりました。なのでここでは彼のことを「アカ」としておきます。  アカは、町外れに神さまを崇める(崇めるとは、大事にするということです)ためのモニュメントを建てました。するとアカの周りには多くの人が集まりました。その中に、まだ幼く可憐な少女がおりました。  その少女の名は、クロエ。人々はクロと呼んでいます。  クロはアカのことが大好きで

          掌編|彼と彼女と神の歌

          随筆|「うさぎや」のどら焼きについて、十年ぶりに思い出して味を言語化してみる。

           先日、SNSのトレンドを眺めていると『雲霧仁左衛門』というワードがランクインしていた。現在、NHKで放映中のドラマがどうも人気らしい。 https://www.nhk.jp/p/ts/NZ28LWRKMV/ 私はこのNHK版は観ていないけど、95年に放映されていた山崎努主演のフジテレビ版が好きだった。中でも石橋蓮司演じる切れ者の二番手・木鼠の吉五郎(通称・小頭)が大好きだった。シリーズの中盤でこの吉五郎をフューチャーした回があり、放送を心待ちにしていたのに、修学旅行帰り

          随筆|「うさぎや」のどら焼きについて、十年ぶりに思い出して味を言語化してみる。

          随筆|上手い文章、良い文章、読ませる文章について。

           専門誌でライターをしていた頃、「文章、上手いですね」と褒められることがあった。そう言われてもあまり嬉しくなかったのは、それが単に「整理された文章」ってだけで、良い文章とも良い記事とも思えなかったからだ。  なんて書いていてふと思ったけど、「良い文章」ってなんだろう。例えばある雑誌Aを読んでいると、きっちり校正を入れて表記ゆれを正し、整然と文字が並んでいるにも関わらず、情報の羅列ばかりでちっとも面白くない。ところがもう一つの雑誌Bの場合、誤字脱字が目立ち表記も記事ごとにバラ

          随筆|上手い文章、良い文章、読ませる文章について。

          随筆|墓について考えることは、死について考えることではなかろうか。

           お盆ということもあり、墓について調べながら考えている。  先日、納骨堂を運営する宗教法人が経営破綻して、千体もの遺骨を収めたまま突然閉鎖されるというニュースが地元であった。原因の一つに、法人の代表者が運営資金を個人の居住費や飲食代に使い込んでいたというのがあるらしい。嫌な話だ。  この納骨堂を利用していた元契約者達は、遺骨を手元に引き取ったり、そのまま閉鎖された納骨堂に置いておいたりと、とにかく、遺骨の置き場所に困っているそうだ。  今朝見たワイドショーでは、六十代の

          随筆|墓について考えることは、死について考えることではなかろうか。

          小説|御伽噺、ロストハイ

           1  桃太郎が、真昼の陽光差し込むリビングで、ソファに腰掛けテレビを観ている。 「桃太郎さん、桃太郎さん。目の前にあるそのテレビ、何をしてるかわかります?」  カウンターキッチンから歌うように声をかけると、桃太郎は黙ったまま頭を横に傾けた。テレビに映っているのはバラエティ番組だ。若者相手に昭和生まれの司会者が、昭和の人々のファッションや暮らしぶりを「ほら、古臭いでしょ?」と自虐めいた笑いと共に紹介している。そのテレビに真正面から向き合う愚直なまでにぴんと伸びた背を見つつ、

          小説|御伽噺、ロストハイ

          小説|でぃあぼろ

           一  心を奪われると終わる。  だから私は息を詰めて生きていました。  黒い壁とガラス製のパーティションで区切られた役員室の天井には、橙色の間接照明が灯っている。部屋の中央には飾り気はないがデザイン性の高い大きなデスクが一台。そのデスクに向かう岸 侑李(きし ゆうり)は、マホガニーの天板に置いた右手の爪先を見ていた。いつもと同じように磨かれ、薄色のジェルネイルが塗られた爪が明かりを反射している。親指の付け根に浮いた甘皮を人差し指で擦りながら裏返すと、爪の間の垢に気付いた

          小説|でぃあぼろ

          宣伝・文学フリマに冊子『文章講座植物園/津原泰水文章講座』で参加します

          津原泰水先生の文章講座受講生の中から、有志が集まってつくった作品集『文章講座植物園』に参加しています。 「シックスティーン・キャンドルズ」という小説です。下記リンクから試し読みができますので、ぜひ。 こちらの作品は、津原先生の講評で大変な好評をいただいて(駄洒落です)とても嬉しかった思い出があります。講座で教えてもらい、どハマリした橋本治作品を意識して、「津原作品と橋本作品のハイブリッド路線」を狙って書きました。上手くいったかどうかはさておき。 なのでその後、津原先生ご

          宣伝・文学フリマに冊子『文章講座植物園/津原泰水文章講座』で参加します

          小説・青春恋愛|ナカノ

           1  俺が中野の妹である中野 怜から、中野から荷物を預かっていると言って呼び出されたのが、ここ中野である。ちなみに俺の名前は中埜。中埜 昌磨(なかの しょうま)という。その俺、中埜が中野で中野の話を聞きながら中野の妹の中野 怜とスズキの洗いを摘んでいる。ここは中野の居酒屋だ。 「そんなわけで、来てもらったんですけど。なんでウチが姉ちゃんのお使いなんか」と口を尖らせる向かいの席に座った中野 怜を見ながら俺、中埜は――と、もうこの辺でナカノナカノ言うのもしつこいのでここまでに

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          小説・ミステリ|月白に誘う

          1  取調室に入ると、蒸し暑い空気が動きマスクの内側にまで男の体臭が運ばれてきた。  パイプ椅子に座る男の背後にある窓が開いている。換気のためだ。冷房で冷やされた空気は流れ出し、代わりに季節外れの真夏日で熱された湿っぽい空気が室内を満たしていた。  もう10月だというのに、30度を超えるこの暑さは異常だ。しかし年々、そんな日が増えているような気がする。やがてこの異常さにも慣れ、疑問を抱くことなく日常として受け入れる日が来るのだろうか。  そんなことを考えながら、東馬 文結(

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          小説・BL|共犯

          1 もう少しで、日付が変わる。昼間は混雑している高架下の国道も、この時間になると車が少なく、たまにすれ違うヘッドライトがやけに眩しく感じられる。  助手席に座り外を眺めていると、小走りで横断歩道を渡るスーツの男と、手をつないで歩くカップルが見えた。これからどこへ帰るのか、これからどこへ向かうのか。 「なに考えてるの」  ふいに、ハンドルを握る高瀬(たかせ)が声をかけてきた。上矢(かみや)は視線を外に向けたまま、小さく「なにも」とだけ答える。  信号が青に変わり、二人を乗せた車

          小説・BL|共犯