掌編|迷走ハイボール
もうすぐ電車が来るのだという。そう言われた。
けれどこのまま寒いこの場所で電車を待っていることが果たして良いことなんだろうか。
隣に立つ彼にそう訊いてみると「そんなこと考えたこともなかった」と笑う。
線路の向こうに目をやる。
駅舎の屋根に覆われたプラットホームより先は雪に白く霞みまるで見えない。
「だってどこに行くのかもわからないよ」ともう一度尋ねる。
「そっちなら安心?」と振り返り顎をしゃくる。
彼の視線を辿り振り向くと背後に伸びる駅の足場に握りこぶし程の黒いボールが一つ転