見出し画像

生方美久脚本『いちばんすきな花』

ダメだ。うまく息ができない。もしくは息を吸いすぎて過呼吸になっている。
あっ救急車呼ばなくて大丈夫です。冗談です。ご迷惑な冗談言ってごめんなさい。

 
一昨日から始まったフジの木10ドラマ『いちばんすきな花』。
多部未華子、松下洸平、今田美桜、神尾楓珠(敬称略)の4人がクアトロ主演を務める。
脚本は生方美久氏。昨年の同枠ドラマ『silent』で一躍売れっ子になった脚本家だ。
 
『silent』といえば、儚いラブストーリーでありながら主人公たちを取り巻く人間ドラマも話題になった作品。
例に違わず、僕も世間の人々と同じようにドラマを観始めたらどっぷりとその魅力にハマってしまい、未だそこから抜け出せていない。
『いちばんすきな花』は果たしてどうなるのだろう。同作で描かれるテーマは「男女の間に友情は成立するのか」。

昔からうまく2人組ができない4人。
気の合う異性の友達にフラれたり、結婚目前の恋人から唐突に婚約を破棄されたり、恋愛感情のない優しい同僚だと思っていた人に言い寄られたり、大多数にとってのイイ人をやめられず誰かと親密になるのを諦めたり。
経緯は違えど、1対1で人と向き合うことに苦手意識を持っている、年齢も職業も経験してきた環境も異なる男女4人が、心地よく交錯する人間ドラマである。

 
当然、「あの『silent』の脚本家だから」といった期待感はそれなりにあった。
でも、あまりそうした前提で放送前からワクワクしてしまうと、もし自らの好みと反したテイストであった場合、その落差に幻滅するのは僕自身なのだ。昔から色々なものに期待して、結局のところ足の小指をタンスの角にぶつけるような痛みを経験してきたからか、今回もなるたけそのハードルは下げておこうと意識していた。
 
でも、いざ本作を観てみると、それを軽々超えてきたどころか、『silent』放送中の「これ以上の名作に出会える気がしない」と考えていた当時の自分もびっくりするような仕上がりだった。
『silent』でも印象的だった繊細な心理描写は、本作でも4人の主人公たちによる独白然とした台詞回しとともに丁寧に描きだされており、こうした表現方法に一種の安心感すら抱いていた。生方作品の虜になっている証拠でもある。

2人きりになると途端に自分の正体を上手に明かすことができず、うまくいかない。または、大人数でいる間は軽やかな気持ちでいられるのに、面と向かって誰かと向き合うとなると急に怖くなる。
ほんの一握りの人間にしか本音を話せず、お世辞にも人付き合いが得意とはいえない僕の場合、その気持ちに共感するなという方が難しい。

異性に対する何気ない言動が、良すぎるルックスを持ってしまったがために別の意図だと勘違いされ同性から嫌われる原因になったり。周囲のためを思って毎回同窓会の幹事を買って出るのに、単に「都合のいい人間」としか思われていなかったり。
日常でも見られるリアルな光景は自らが経験した出来事はもちろん、「あの時、あの人はこんな風に思っていたのかな」と過去に想いを馳せながら観ることだってできる。まさに「どこかにあるだろう日常」が『いちばんすきな花』でも健在で、これが心に根付く要素にもなる。もしかしたら出会っていたかもしれない友人の話を観ているかのような心持ちになるからだ。


改めて、なぜこんなにも心の奥深くにまで溶け込む物語を書けるのだろう。
しかも、その根底にはとめどない優しさを滲ませているのだから、どうしたって感情移入してしまう。生方作品に出てくる登場人物たちには、全員幸せになってほしいと心から願ってしまうほどに。
 
本作でも男女それぞれが抱える言語化しにくい感情を秀逸に物語に落とし込んでいる。こうした、印象的な脚本を書き続ける彼女が何度考えても同い年とは思えない(というか、思いたくない)。
誰にも見せたはずのない心のドアをノックされ顔を出すと、そこにはとても懐かしい人が立っていて、その人を見ているだけで自然に涙してしまう。彼女の物語に触れると、不思議とそんな気持ちになる。

冒頭、冗談めかして「息ができない」と書いたが、実はあれ間違いではない。
視聴中はたびたび胸を締めつけられて、録画していた本作の再生を一時中断し息を整えながら観ていた。それくらい物語の世界に没入していたのである。
あっでも、そんな深刻なやつではないので心配しないでくださいね。今後の視聴でも呼吸困難にならないよう気をつけます。笑

 
いちばんすきな花。
タイトルにもなっている“花”は1話目から登場しているが、きっとこのタイトルにもまだ何かしらのメッセージが隠されているのだろう。
あれやこれやと考えながら、そして何より楽しみな今後の展開に胸躍らせながら、週に一度の木曜10時は心に溜まった垢を洗い流しつつ、本作の行き先を見届けたい。


皆さんから大事な大事なサポートをいただけた日にゃ、夜通し踊り狂ってしまいます🕺(冗談です。大切に文筆業に活かしたいと思います)