見出し画像

【絶望三部作】『Evermore』第2章:タイム・リミット(第2部:ガッタ・メイク・イット(ライフ))

▼ 前章はこちら ▼


「海へ行こう!」

 と言ったのは、サトシのほうだった。9月下旬のことである。
 本来は、俺から提案すべき案件だったのかもしれない。そう思いながらも、二つ返事で彼の申し出を受け入れた。

 彼と付き合って、5度目の夏が過ぎ去った。
 互いに30代になり、ふざけてばかりいた20代の頃とは一変し、将来のことを真面目に考える回数もきっかけも増えていた。
 物書きの仕事でやっと家賃が払えるようにまでなってはいたが、食費や光熱費など、諸々の生活費はだいぶ不足していたため、頻度こそ減ったものの、なかなかシフト勤務の例のバイトを辞めるわけにはいかなかった。
 一方、サトシは優秀な社会人であったため、順調に昇進を重ね、出世街道まっしぐらだった。
 トップセールスを誇る営業マンとして、大手不動産デベロッパーに勤務していた彼は、将来を嘱望されていた。出張で関西や九州を駆け回ることも多くなっていったし、帰宅が深夜になることも日常茶飯事だった。

 彼は、決して泣き言を言わない。けれども、サトシが大粒の涙をひた隠しにしながら、日々、生きていることを、俺は知っていた。
 周りの人間は彼を ” 成功者 ” だと羨み、嫉妬する。特別な人間なんだと、嫌厭けんえんする。
 けれどもそれは、彼を正しく理解していない証拠だ。
 サトシは知性的で、時折、大胆な行動を取ることもあるが、人一倍、繊細だ。
 それ故、悩みの尽きない人生を送っていた。

 ある晩、出張先からの電話で「このままだと、俺は将来、確実に後悔する」と、つぶやいていた。そして「後悔にまみれた哀れな自分の ” 未来 ” が見える」とも…。

 その声は震えていた。

ここから先は

2,258字

ベーシックプラン

¥500 / 月
このメンバーシップの詳細

もし、万が一、間違って(!?)梶のサポートをしてしまった場合、いただいたサポートは、なにかウチの「ネコチャン」のために使わせていただきたいと思います。 いつもよりも美味しい「おやつ」を買ってあげる、とか…^^にゃおにゃお!