【絶望三部作】『Evermore』第2章:タイム・リミット(第2部:ガッタ・メイク・イット(ライフ))
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「海へ行こう!」
と言ったのは、サトシのほうだった。9月下旬のことである。
本来は、俺から提案すべき案件だったのかもしれない。そう思いながらも、二つ返事で彼の申し出を受け入れた。
彼と付き合って、5度目の夏が過ぎ去った。
互いに30代になり、ふざけてばかりいた20代の頃とは一変し、将来のことを真面目に考える回数もきっかけも増えていた。
物書きの仕事でやっと家賃が払えるようにまでなってはいたが、食費や光熱費など、諸々の生活費はだいぶ不足していたため、頻度こそ減ったものの、なかなかシフト勤務の例のバイトを辞めるわけにはいかなかった。
一方、サトシは優秀な社会人であったため、順調に昇進を重ね、出世街道まっしぐらだった。
トップセールスを誇る営業マンとして、大手不動産デベロッパーに勤務していた彼は、将来を嘱望されていた。出張で関西や九州を駆け回ることも多くなっていったし、帰宅が深夜になることも日常茶飯事だった。
彼は、決して泣き言を言わない。けれども、サトシが大粒の涙をひた隠しにしながら、日々、生きていることを、俺は知っていた。
周りの人間は彼を ” 成功者 ” だと羨み、嫉妬する。特別な人間なんだと、嫌厭する。
けれどもそれは、彼を正しく理解していない証拠だ。
サトシは知性的で、時折、大胆な行動を取ることもあるが、人一倍、繊細だ。
それ故、悩みの尽きない人生を送っていた。
ある晩、出張先からの電話で「このままだと、俺は将来、確実に後悔する」と、つぶやいていた。そして「後悔にまみれた哀れな自分の ” 未来 ” が見える」とも…。
その声は震えていた。
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