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ARスタートアップの戦略論 | ARISE登壇で自分が話したことまとめ+おまけ

MESONで主催開催したARイベント「ARISE」のパネルディスカッションで自分が話した内容と、時間の問題で話しきれなかったけど、話としては用意していた内容をメモ的にまとめてみました。

経営者視点で2019年最もインパクトのあったAR関連のニュース、出来事はなんでか?

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やっぱり、一番インパクトを感じたのは、nrealの発売時期と価格の発表。

来年一般販売、で価格は5万円程度。で体験としてもものすごく良い。

実際昨日nrealの人たちがオフィスに来て体験会を開いてくれて、自分はこの前のAWEで一度体験してるのに普通にもう一度感動した。

最初の消費者向けARデバイスとしては、相当機能・デザイン・価格的にも申し分ないと思ってて、これでいま色々とプロジェクトを仕掛けようと話を進めている。

2019年後半に注力すべきはスマホARか?グラス型ARか?

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両方やるが、今後はかなりグラスに力を入れていこうと思っている。

理由としては、nrealをはじめとして、シチュエーションを限定すれば十分実用的なデバイスが出てきた、ということが一つ。

もう一つの理由は、ARグラスネイティブな、UXの正解を誰も見つけられていないので、ここの知見をどれだけ貯められるかが、競争優位性になっていくはずで、早くからここにフォーカスすべきかなと考えている。

実際、いまARグラスを使ったサービスのプロジェクトも進めているが、スマホARのアナロジーでは設計しきれないところばかりで、ここを今どれだけ試行錯誤できたかで今後のスタートラインが変わってくるかなと思っている。


将来どのような道筋を描いてマーケットに自社プロダクトを普及させていくのか?

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もちろん5年10年後のビジョンや海外展開は考えつつも、正直、あんまり道筋は考えていない。

スタートアップは道筋よりも、入り口とタイミングで決まると思ってるので。

特にAR市場はマーケットがいつどう立ち上がるか読めなすぎるので、目標は設定すべきだが、道筋描いてもどうせ外れるので、それよりはベットする場所とタイミングに意識を全て向けておくべきかなと思っている。

なので、今はブランド・データ・デバイスといったアセットを持っている会社と一緒に組んでユースケース検証を回しまくることに注力しながら
「どういうユースケースで、 どのタイミングでアクセルを踏むべきか」だけを考えている。

一緒に働くチームメンバーの採用で意識している点を教えてください!

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採用という観点では明確に2つあって、「スキルの幅を自分で広げていける人」と「事業が変わってもついて来てくれて、かつ活躍できる人」の2つを強く見てる。

まず「スキルの幅を広げられるか」に関して、ARサービスは空間的な体験のデザインと実装なので、求められるスキルが今までのデジタルプロダクトよりも広いと思っている。

例えば、プロダクトマネージャーであれば、立体的・空間的なサービス設計のプロセスやデザインメソッドに精通しなければいけないし、そのために建築的な知識だったり3Dプロトタイピングツールのような新しいツールの学習も必要。

そういったスキルの幅を広げる動きを自分からできるかが、まず1つ目の重要な資質かなと。

2つ目が「事業が変わってもついて来てくれて、かつ活躍できる人」という観点。

大前提、AR市場は不確実性が高いので、事業は変わる前提で考えている。

その事業を変えたときでも付いてきてくれるかを見るために、ビジョンの共感度や、単純に良い奴かを見ていたり、どんな事業になっても活躍できる地頭とマインドを持っているか、は強く見ている。

もう少し広いチームという意味では、個人のクリエイターをゆるくチームに入れるというのやっている。

ARでは空間・五感のデザインが重要なので、感性的な演出に強いクリエイティブ・ディレクターや、サウンドデザイナー、建築家たちをチームに入れて、プロジェクトごとにコラボレートするようにしている。


ARの企画や開発の経験や知識を蓄積し、強みとするために取り組んでいることを教えてください

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海外の一次情報に当たる、というのと、教科書を自分たちでつくるというのを意識的にやっている。

海外の一次情報に当たる、という話でいうと、やはり海外の方が情報量は多いので、AWEのような海外のARカンファレンスに行ったり、AR関連の記事をきちんとフォローするようにしている。

教科書を自分たちでつくる、という話で言うと、ARのサービスづくりには、まだ正解がないので、その正解を自分たちで作っていかないといけなくて、
デザイン思考だったり色んなデザインメソッドをミックスして、ARサービスをつくるプロセスをまとめたりとか、良いARサービスのチェックポイントをまとめたりとか、結構している。

ここらへんのノウハウはブログで公開しまくっているので、是非興味ある人は読んで見て頂けると。

ファイナンス戦略について教えてください!

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まず、AR市場の勝ち筋は、「死なずに貼り続ける、大波が来たら一気にベットする」だと思っている。

なのでMESONでは、大波が来るまでは外部資本を入れずにブートストラップで貼り続けて、ARの一般普及の兆しが見えたタイミングで大きく調達しようと考えている。

やはり、AR市場は、いつ、どう立ち上がるか分からない市場なので、アクセルの踏み時と方向を間違えないのが凄く大事なマーケットだなと思っていて、ファイナンスはせずに全部自己資本でやっている。

ただARは、あるティッピング・ポイントを超えてからは一気に普及すると思うので、タイミングを逃さないためにも、どこかでは大きく調達しようと考えています。

これはテキストベースだからの余談なのだが、調達の際は必ずグローバルのVCから入れようと考えている。

これは自分がインドで働いてたときの実体験から来ているのだが、インドで成功するスタートアップの共通点は一つで、英語でボードMTGを開いてグローバルVCから調達しているところだった。

逆にローカル言語で経営しているところは、グローバルVCからお金が入らずキャッシュ、ノウハウ、ネットワークの点でかなり不利になっていた。

翻って日本のスタートアップを見たときに、英語でボードミーティングが開ける会社は1%にも満たないので、そもそもスタートラインに立てていないと正直感じている。

なので、日本からやる際にも、グローバルのVCからお金を入れる、そのためにボードMTGは英語で開けるチームにしておく、というのは強く意識している。


社会に爆発的に普及するワンステップ前の段階でARを用いたプロダクトを仕込みたいと考えているのですが、どのように参入分野を決めるべきでしょうか?また,ARとかけ合わせると面白いと思う意外な領域はどこですか?:

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To Bはいくらでもやりようがあるので、To Cの方でいうと、時間軸で戦略が変わってくるかなと思う。

今すぐ始めたいのであれば、
「なかなか試せないもの ✕ 今後伸びる市場かつ単価が高い ✕ スマホで使っても価値を発揮するもの」かなと思っている。

リフォームのシミュレーションとか、入れ墨のシミュレーションとか、 オーダーメイド指輪の制作前の試着とか。

グラスが登場するタイミングを見越してやるのであれば、
「初期の少数の熱量を活かす」というのが基本戦略になるかなと。

初期はグラスユーザーが少数で熱量が高いはずなので、そういう熱量を生かしたクローズドなSNSとかは来ると思っている。


国内と国外のARスタートアップの違いについて感じることがあれば教えてください。

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ノウハウという観点ではそんなに差はない。

ただ、意識は圧倒的に進んでいるなってのは思う。

海外のカンファレンスに参加すると、単純なノウハウの共有だけでなく、ARクラウド構築の際の権利問題、つまりARクラウド上の表示・マネタイズの権利がデジタルなオーナーとフィジカルなオーナーのどちらに帰属するのかという話だったり、点群取得時のプライバシーの話だとかしきりに議論されている。

ここらへんは、本当は日本の大企業とも、ARやりましょうってレベルじゃなくて、そのくらいのレベルから議論をスタートできると良いなあと思うので、頑張ってみんなで啓蒙していければなと思っている。

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