不明熱診断の「型」を伝授します!

総合診療科では、いわゆる「不明熱」の患者さんに対応する機会が多いです。研修医の先生方から時々「不明熱の考え方が難しいです」と言われることがありますが、診断をつけるという意味においては不明熱はワンパターンであり、難しく考える余地はあまりないです。今回、その「型」を伝授しようと思います。



不明熱精査が必要な状況

不明熱の定義を細かく言う医師もいますが臨床的には無意味ですので、今回は以下の2つのスタート地点を想定します。想定している診療場所は、精査が自施設で可能な規模の病院とします。

  • 近医から熱の原因分かりませんと紹介されてきた

  • 救急外来や内科初診外来に発熱を主訴に来院し、問診票や予診からの情報では熱以外に症状が判明してない


鑑別診断を想起するために特に重要な情報は2つ

不明熱診断に限った話ではなく、あらゆる症状の原因を考える際には、鑑別診断を挙げるというのが最も大切な作業です。そのために特に重要な情報が2つあります。これを間違えると、正しい診断に辿り着きませんので、もうこれ以上確認しなくても十分確証を得た、というところまで突き詰めるのがポイントです。

  1. 発症形式  

  2. 熱以外の症状・所見

なんだ、当たり前のこと・・・と思うかもしれませんが、この当たり前のことを正確にできるか否か、が不明熱診療のキモです。最初にワンパターンと述べたことにも通じます。思考力が問われるというよりも、正確に情報を取得するスキルが問われる領域です。

1.発症形式

不明熱の原因を病態的に分類すると ①感染症 ②膠原病(自己免疫疾患) ③悪性疾患 ④その他 となりますが、疾患頻度や緊急性を考慮し、まずは感染症(特に細菌感染)か否か、という視点で考えます。

その際に最も大事な情報が「発症形式(Onset)」なのです。問診の型で「OPQRST」のゴロは有名ですが、これの最初に出てくる "Onset" です。Onsetが「急性」の場合には、細菌感染症の可能性が上がります。

このOnsetの聴取でしばしば陥るミスが、患者さんの発言や紹介状や救急隊などからの事前情報を鵜呑みにしてしまうことです。患者さんは症状がいよいよきつくなった時を「発症時期」として訴えることがあります。救急外来を受診する患者さんは、急に悪化したタイミングで受診するので尚更その傾向が強いです。

これに対する策は「いつから熱が出てきましたか?」「他の症状は?」という質問に加えて、
普段と変わりなく生活出来ていたのはいつまで?」
「食事10割(定量化して伝えるのがポイント)摂れていたのはいつまで?」
というように「裏を取る」クセをつけることです。

本人から問診で聞き出せなくても諦めてはいけません。家族なり紹介元医師なり、使える手は全て使って、全力で情報を集めます。かかりつけ医がいれば定期採血でWBCやCRPがチェックされているかもしれませんので、問い合わせます。それ位に重要な情報です。

2.熱以外の症状・所見

今回の想定は、問診票や予診からの情報、前医診察では熱以外の症状が判明していない、という状況です。「熱以外の症状が判明していない」というのが実際は、本当にfocal signがないのか、隠されてしまっているだけなのか、のどちらかになります。

本当にfocal signがない疾患は少なく、まず考える主な鑑別は以下です。

感染症 ”アイイー・ノーヨー・テーベー”
・血流感染(IE・シャント感染など)
・膿瘍(肝・腎嚢胞内・肺)
・TB(粟粒結核) 

自己免疫疾患
・大血管炎
・Still病
・血球貪食症候群

悪性疾患
・血管内リンパ腫
・腫瘍熱

その他
・薬剤熱

※実際は海外渡航歴・レジャー歴・職業歴などあればrare diseaseを想起する必要もありますが、今回は割愛します。


次に、実はfocal signがあるパターンですが、なぜ隠されてしまっているのか考えることで覚えやすくなります。

1)患者が言えない(意識障害・認知症あり)
まずは肺炎・尿路感染・腸管感染・偽痛風などcommon diseaseから検討。

2)患者が言いたくない(恥ずかしい、後ろめたい)
STD、前立腺炎、乳腺炎、肛門周囲膿瘍、ドラッグなど

3)患者が気づかない(DM・高齢女性・統合失調症などで痛み閾値は低下)
まずは肺炎・尿路感染・腸管感染・偽痛風などcommon diseaseから検討。

4)医師が気づかない(軽微、観察しにくい、非特異的な所見)
頭部丹毒(頭痛)、副鼻腔炎(頭痛)、血管炎(眼球充血・難聴)、IBD(慢性下痢)、2期梅毒(淡いバラ疹・小紅斑など軽微な皮疹)、Still病(一過性皮疹)など

1)3)のパターンは問診・身体所見の限界があるので、検査への閾値を下げ、積極的に発熱ワークアップ検査に進みましょう。
2)4)のパターンでは逆に問診・身体所見が重要です。これらの知識を事前に知っておくことで、狙って問診・身体所見を確認することができます。むしろ、狙って確認しないと見逃すものばかりです。不明熱診断のpitfallと言えます。


鑑別診断を絞り込む

このようにして、ある程度鑑別疾患を挙げることができれば、それ以降は得られた結果を元にして、それぞれの鑑別疾患の事後確率を見積もる作業になります。ここが、ある程度の知識が必要になるところです。ポイントは、各疾患の感度・特異度の高い情報は何か?ということを把握することです。

感度・特異度を意識する

感度が高い情報は除外に、特異度が高い情報は確定診断に有用です。例えば菌血症における食事摂取不良(8割未満)は感度94% 特異度35%、悪寒戦慄は感度24% 特異度95%、血培陽性は1セットで感度73%、2セットで94%といった情報です。
つまり、食事摂取不良でなければ血培2セット陰性と同等のレベルで菌血症である可能性を下げることになります。一方で、悪寒戦慄があれば、少なくとも血培2セット陰性を確認できるまでは、菌血症として扱うのが妥当だろう、となります(もちろんインフルエンザなど他疾患でも悪寒戦慄は出うるので、あくまで診断は相対的に考えることが大切です。一点張りはダメです)。

ここでも、Onsetの時と同じような注意点があります。感度・特異度の高い重要な情報は、事前情報を鵜呑みにせず、必ず自分で確認しましょう。「悪寒戦慄」のような専門用語は患者さんには勿論伝わりませんので、「寒くて震えましたか?」と聞きがちですが、これだけでは不適切です。患者さんは、一瞬ゾクゾクした程度でも「はい」と答える可能性があります。さらに、「ガチガチと歯がなるくらい強い震えがありましたか?」とか、実際に全身が震えている様を真似して「これ位ガタガタとした震えがあったのですか?」と追加問診をしなければ、信用に足る情報とは言えません。

感度・特異度の細かい数値までは実際は不要ですが、ざっくりと「この疾患でキーになる情報は何か?」ということを疾患別に自分の知識箱にストックしていく地道な作業を続けることで、不明熱診断のレベルが徐々に高まっていきます。ストックが揃っていなければ診断できないということではありません。目の前の患者さんの症状に真摯に向きあい、知らない知識についてその都度調べる、ということを繰り返していけばよいのです。「千里の道も一歩から」です。

こうして、鑑別診断として挙げた各疾患に関して1つずつ可能性を吟味して、十分に確度が高まれば「診断できた!」となります。


おまけ

「発症がインフルエンザっぽい=インフル様」という概念が、特に救急外来で有用です。インフルエンザに罹患したことがあれば分かると思いますが、最初は気道症状なく、急にゾクゾクしてあっという間に高熱が出てくるのが典型的インフルエンザです。「朝まで何ともなかったのに、昼からゾクゾクしてきて、夕方には39度」というパターンの時に考える主な鑑別疾患は次の通りです。



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