日本小児科学会のコロナワクチン推奨声明への批判的吟味 その1 (2022/8/15)

注釈:「批判的吟味」という言葉は専門用語であり、「批判」とは違います。論文や学会声明など科学的内容に対峙するときの科学者の基本的姿勢を表した言葉です。批判的吟味を行った結果、その論文の内容に賛成する、ということも多いです。論文に関わった人達や小児コロナワクチンを推奨する医師個人の価値観を批判しているわけでもありません。

以下はIDATEN(医師などが多数登録している感染症に関するメーリングリスト)に私が2022/8/15に投稿した内容になります。

標題(註;日本小児科学会のコロナワクチン推奨声明)に関して賛成意見が出ましたので、批判的吟味という科学の基本的スタンスから、敢えて別の意見を述べておきます。

本声明は「小児へのmRNAワクチン推奨」の立場を貫いています。その根拠として細かなデータを提示して下さっていますが、データ選出に偏りがあるように感じました。「健康な小児へ の新型コロナワクチン接種には、メリット(発症予防・重症化予防等)とデメリット(副反応等) を本人と養育者が十分理解することが重要です。」と記載がありますが、デメリットを理解するにはもう少し情報が必要だと思います。デメリットとして明示すべき情報としては、①重篤な合併症の人数 ②長期的副作用が未知であること、の2つです。

まず一つめの重篤な副反応の数ですが、下の副反応データベース検索から検索すると次の結果でした。

投与7日以内での10代までの死亡者は以下の3名です。
 11歳女性 投与1日後に死亡
 16歳男性 投与6日後に死亡
 19歳男性 投与3日後に死亡

重篤な後遺症(発症までの日数を14日に設定)は5名です。
 14歳女性 痙攣発作
 16歳女性 てんかん
 17歳男性 心筋炎など
 17歳女性 副腎不全など
 18歳男性 突発性難聴

このようなデータも事実としてまず提示し、3名の死亡、5名の重篤な後遺症という数が多いか少ないかという判断は、個人に委ねるべきと思います。ちなみにこの副反応報告は義務化されていませんので、過小評価されている可能性があることも考慮すべきです。新型インフルエンザワクチンの際には医師に報告義務がありましたが、今回は義務がありません。

2つめの長期的リスクに関してですが、平均余命が長い小児においては特に重要です。現在検討されている長期的リスクとしては、抗原原罪、抗体依存性感染増強(ADE)、免疫寛容IgG4増加などあります。

ワクチンに限らず新薬が市販後に多くの人に使用されることによって、後々になって稀だが重大な副作用が判明しうることを、薬害の歴史から我々は既に学んでいます。まして今回はmRNAワクチンという新手法によるワクチンです。現時点では上記の長期リスクがあるという確証はないですが、逆に長期リスクがないと言い切るのはタイミング的に尚早だと思います。

本声明には「小児においてもその効果と安全性が確認されています」と記載されていますが、上記の重篤な合併症や長期的リスクの可能性を差し置いて、このような断定的な記載をしてしまうと、リスク・ベネフィットを個人が独自に判断する妨げになると思います。もし長期的リスクが判明した場合、医師という職業集団全体への不信感となって跳ね返ってくるのではないかと危惧します。

小児コロナワクチンの心筋炎・脳卒中・死亡などのリスク、コロナ罹患による重症化・死亡・後遺症などのリスクは各々ごく少数です。ワクチンを打っても打たなくても大多数の小児にとってはプラスマイナスゼロであるという、小児特有のリスク・ベネフィットの構図をまずは説明することが最も大切です。明らかに高齢者とはリスク・ベネフィットのバランスが異なっています。

今回のコロナ問題は政治・経済が密接に絡む全世界的問題であり、様々な立場の思惑が絡み合って、科学的真実の追究が難しい状況です。そのような時こそ批判的吟味を基本とした科学的思考を我々は重視し、様々な意見を出し合って建設的な議論をしている姿を市民に見せていくべきだと思います。

なお、この内容は個人的見解であり、所属機関とは無関係であることを念のために申し添えます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?