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AIの作った画像と著作権について

DALL-Eやmidjourny, Stable Diffusionなど、ここ数カ月Twitter上でも画像生成AIによる画像がたくさん投稿されています。

AIの出力した画像の著作権について「学習に使われたくない」「出力画像が既存作品に似てたら違法になる?」というような質問を友人から受けたりしたのでこのあたりをまとめようと思いますよ。

ちなみにヘッダー画像はStable Diffusionで出力した画像です。手が苦手なのが分かりますね。かわいいね。

はじめに:機械学習と著作権の整理

機械学習と著作権については次の二つの視点が特に気なる点になるでしょう。

  1. 機械学習のためにイラストを作者に無断で収集することに違法性はないのか

  2. 生成された画像に著作権はあるか(そして他イラストに対して権利侵害しうるか)

冒頭の質問のうち、「学習に使われたくない」が1,「出力画像が既存作品に似てたら違法になる?」が2の括弧内に対応しています

1:機械学習のためにイラストを作者に無断で収集することに違法性はないか

結論としては、日本の著作権法上は原則として問題はないということになります。

これはなぜかといえば著作権法第30条の4(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)の規定が根拠になります。

この条は何を言っているかというと、機械学習に注目して簡単に表現すれば

著作物を「データ」として多量に収集し情報解析に用いるのであれば、収集される著作物に著作権の保護は適用されない

ということになります。まだわかりにくいですね。よりざっくり言ってしまえば

AIの学習に使う分には他人の著作物を自由に学習データとして使える

ということになります。

この規定は19年1月1日から施行された著作権法の改正から有効になっているのですが、かなり緩い条件下での著作権の保護の例外となっていまして、他国のそれと比べても機械学習側に大変有利とよく聞きます。当時は「日本は機械学習パラダイス」というような言い方もされていました。今は海外と比べて有意に自由なのかどうかはちょっとよくわかりませんが……
海外法だとここら辺どう処理してましたっけね。学習データとしての利用が個別の著作物の経済的利益を直接に損なうとも考えにくいのでフェアユースあたりで処理するんでしょうかね。

2:生成された画像に著作権はあるか(そして他イラストに対して権利侵害しうるか)

つぎに2点目です。なぜ権利の有無と侵害の有無を同時に語ろうとするのか少々違和感を感じられるかもしれませんが、これには意味があります。

まず生成された画像に著作権が生じるかについて整理していきます。

著作権法についてちょっとでもかじったことがあれば、「法律のような公共性の高いもの、データのような事実以外はたいていの場合に著作権が発生する」と知っていると思いますが、実はほかにも条件があります。

作品を作ったのが「実在人物」あるいは「法人」であること

AIは「実在人物」でも「法人」でもないため「AIが生成した画像そのものには現行法上著作権が生じない」ということになります。

さて、このように法律上の権利の主体となれるのは「実在人物」か「法人」です。これは当然著作権にとどまりません。権利侵害についても似たようなものです。

補足:AI生成イラストを素材として使う

AI生成したイラストは上記のように著作権は現状存在しません。なので基本的に自由に利用できますが、AIによる画像生成サービスの利用規約に「うちで生成したやつは利用規約で定める範囲でだけ使っていい」とされてる場合はそれに従う必要があります。

利用規約はサービスとユーザー間の契約なので、割と自由に内容を決めれます。当事者同士が同意していて、マネーロンダリングのような違法行為がなければ、もっとも古いTweetを印刷した普通紙を3億で売買したっていいんです。なので、「AI生成の画像に著作権はないけど、それはそれとしてうちで出力したのはよそで投稿したりしないでね」と制限することができるのです。

今話題の生成サービスは基本商用利用まで自由とされていたはずなのでその前提で話を戻しましょう。

このとき、AI生成の画像をレタッチしてイラストを完成させたり、背景素材にしたり、’あたり’代わりに使ったりして作ったイラストは当然、そのイラストを完成させた人に著作権が生じます。

CC0の素材を使うのと基本的にはあまり変わらないです。

生成された画像は他イラストを権利侵害しうるか

たとえば、あるAI生成のイラストXがイラストレーターの作成したYというイラストに似ていたとしましょう。この時、イラストレーターが権利侵害を主張するには”Xの権利者が”イラストXによって、Yについてのイラストレーターの権利・利益を損なっていることを示さなければなりません。

さて、上述の通りイラストXを生成したAIは権利主体になれません。直接イラストを完成させたものを権利者と考えるならばこの時点で権利侵害を主張できなくなります。

ではちょっと視点を広げてイラストXの生成にかかわった人を権利者と想定できないか考えることにしましょう。

  • AIのモデルと作成した開発者

  • AIにプロンプト(命令)をだしたユーザー

当然この二者から選ぶことになりますが、AI開発者は個別のイラストの生成にかかわってません。また、モデルの設計もイラストと直接は関係がありません。あるプログラムや行列演算が特定のイラストの著作権を侵害することはありえません。また、学習データの収集を違法なコピーとして責めるのも上述の通り不可能です。合法ですからね。

次にユーザーについてみれば、ユーザーは命令の文字列を作っただけで個別の画像生成はその文字列から確率的に生成されるにすぎず、ユーザーの意思が挟まるのは「命令の作成」と「出力画像の選択」になります。

ところで、 著作権侵害が成り立つには基本的には「似ていること」と「直接参考にして作成されたこと」の2点が重要になります。

今回の例では「似ていること」は達成されていると仮定しているので「直接参考にして作成されたこと」が満たせている必要があるとわかります。

そう「直接参考にして作成され」なければならないのです。「画像の選択」は作成ではないのでここから攻めることはできないとわかります。

では「命令の作成」はどうでしょうか。これも「AIがいい感じにイラストを比較的高い確率で返してくれる文字列を作成する」という程度のものにすぎないので、イラストの文章化とみなしたとしても「直接参考にした」ということはできないでしょう。

このように、AI生成の画像があるイラストレーターのイラストの権利を侵害したということも成立はしないと考えられます。

しかし、この「命令の作成」については民法上の不法行為が成立するかもしれません。民法上の不法行為とは「故意や過失(意図的、あるいは不注意)によって、相手に損害を発生させること」です。

どういうことかというと、上の例で言えば、ある人がイラストレーターの不利益になる目的で似たイラストを自動生成できるようにプロンプトを研究し、当該ストレーターの作品に似たものを大量に作成、販売などを行い、当該イラストレーターの経済的利益を不当に奪ったと認められるようなときにはそのAIに命令を出したユーザーに損害賠償や生成物の利用の差し止めができるかもしれないのです。

まぁ、まず成立しないでしょうが……あり得るよ、という話です。

”心”はどうなる

ここまでは現行法上の整理をしました。しかし我々は感情の生き物です。

苦労して描いたイラストを、イラストを生成する目的で収集され学習に買って使われると考えるとむかつくし、苦労して描いたイラストに似たイラストを余人がポンと生成していれば腹も立つでしょう。

わかります。理解できます。

ただ、現行法上これらの心情面の不満は解消する手立てはありません。

まとめ

  • 機械学習のためにイラストを作者に無断で収集することに違法性はないのか

    • 学習データとして利用するのは著作権法上合法なので如何ともし難い

  • 生成された画像に著作権はあるか(そして他イラストに対して権利侵害しうるか)

    • 生成された画像自体には著作権は発生しない

      • 生成した画像をもとに作品を作ればその作品はもちろん製作者に権利がある

    • 生成された画像について権利侵害を主張するのは難しい(多分無理)

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