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ローカルのかっこいい生き方を教えてくれた先輩の話

約8年前、千葉にあるキャンプ場で「いいCAMP」というイベントを吉原ゴウくんと企画した。ただ同じキャンプ場で集まって、ただキャンプをするだけ。今とやってることは変わらない。イベント開催にあたってキャンプ場を運営していた人に挨拶しに行こうと友人経由で紹介してもらったのが、Purveyorsのコバさんだった。

今とは比べ物にならないぐらいの武装色の覇気をまとっていた。しかも大きなマーケットの現場ど真ん中。ピリピリした空気を感じつつ、「中村さんに紹介してもらった柿次郎です…」と挨拶をした。油断するとやられる肌がひりつく感じ、嫌いじゃない。どんなやりとりをしたかあまり覚えていない。名古屋の五十嵐さんがやっている「COFFEE,PLEASE」のキャニスターを買って、コーヒーのおいしさに感動したことは覚えていて。そのキャニスターはいまだに愛用している。

この時点でコバさんが作り上げた”場の世界”に魅了されていたのだろう。振り返るとこの体験が新たな一歩に繋がっている気がしてならない。もうちょっと落ち着いたタイミングで挨拶をすればよかった気もするけれど、ここがきっかけとなって僕の人生やジモコロの方向性にコバさんは大きな影響をどんどん与えてくれるようになる。ケンミンショー的なローカルネタの掘り方から、全国各地で起きていたカルチャーのうねりの萌芽に出会い続ける領域へ。コバさんがプロデューサーとして全国の現場を踏んできた集積に、この頃から意識的に飛び込んでいったんだろうなぁ。

時にはただ一緒にご飯を食べるだけ。誘われたイベントに顔を出すことも多かった。コバさんが桐生で事業を始めた後も、遊びに行った流れでいろんな人を紹介してくれた。その流れで取材させてもらった”あえて高校に行かず15歳で「コーヒーショップ」を構えた少年”の記事は、ジモコロの歴史の中でもメディアの影響力、功罪を大きく感じるきっかけに。これは2017年の出来事。

同じ時期にコバさんきっかけで『森、道、市場』に出店することができて、ローカルでかっこいいお店を作り上げてきた全国の猛者にインタビューする役割から、癖の強い猛者を集めたトークイベントの司会業まで、2023年時点の自分を構成する要素が生まれた。ジモコロ、そして徳谷柿次郎のキャラクターの利用価値がグッと底上げされたように感じるし、とても光栄なことだと思っている。

先日、Purveyoursで自著『おまえの俺をおしえてくれ』の出版イベントをやらせてもらった。コバさんとの対話を軸とした内容だったんだけど、僕の幼少期の体験にとても近いものをコバさんも経験していた。親がどうとか、お金がどうとか。もしかしたらバブル崩壊前後の過剰な社会変化の影響を、いまの40歳前後の世代が同時代的に受けているのかもしれない。いわば理不尽との闘いだ。肯定してほしい存在から向けられる、厄介で棘が含まれた感情の矛先は幼い頃の自分だったのかもしれない。

なにかが「ない」からこそ、平成特有の熾火のような経済エネルギー、インターネットの拡張世界、ボトムアップなカルチャーの隆盛を食って、食って、食い続けて、いまの「ある」をがむしゃらに掴み取れた世代だともいえる。そこには気合と運、どんな人とも向き合う好奇心と誠実さが求められて然るべきだろう。きっとコバさんは自分とは違う世界で、己を青く燃やしながら生きてきた人なんだと思う。だからこそ怒りの種火を数多く持っているし、僅かな差異も見逃さず、思ったことを遠慮なく口にしていく。同時にとても優しくて繊細な人だ。実はお笑いが大好きで、僕のツッコミをいつも楽しそうに受け止めてくれる。

そんなコバさんと共に時間を過ごしていると、いわゆるセンスってなんなんだろうなと考えてしまう。辞書には「物事の微妙な感じをさとる心の動き。微妙な感覚」と書いてあるけれど、微妙な差異を感じ取るためには、圧倒的な総量の現実に触れざるをえない。縦軸も横軸も、国も言語も文化も、すべて好奇心と身体ひとつで越境しながら味わっていく。

コバさんを含めて、『森、道、市場』で出会った先輩たちは”全国での再会”を繰り返しながら、出会っていない期間に溜め込んだインプット/アウトプットの機微を伝えて交換し合う。「へー、それめっちゃいいじゃん」「あれは全然よくなかった」と口にしながら、最後は必ず自分の目で見て、人間の持つ剥き出しの五感を解放して咀嚼する。

だからこそ信頼できる。だからこそもう一度会いたくなる。そして何かあったら期待に答えたくなる。

この一連のムーブメントは、ローカルの確かな希望だと思っている。グローバリズムやローカリズムなんて社会的な括りは必要がない。ただ純粋に好きな友だちの新しいチャレンジを応援しながら、「会話」「食事」「お酒」「音楽」といった現場で膨らんでいくエネルギーの交換をしているだけ。きっとここ10年間で絶え間なく全国で起きている現象だと思う。

一瞬だけを切り取っても感じられない何かがある。SNSの発信ではとてもじゃないけれど表現しきれない熱量がある。「迷わず行けよ、行けばわかるさ」と快活に言い切ったアントニオ猪木のメッセージが、2023年により力強い輝きを放つ。

2023年4月29日。そんなコバさんが群馬県で「利平茶屋森林公園キャンプ場」をオープンします。

コロナ禍でキャンプブームが起きていましたが、一過性の盛り上がりは一時の延命措置にしかならず、ワークマンの進出やアジア企業の安価のパクリプロダクトなどなど、厳しい世界になっているそうです。

だが、本物はいつだって残る。コバさんが社運を賭けたこのキャンプ場は、どう考えても次の時代に本物をぶっ刺すものだと思います。これも「行けばわかるさ」なので、現在「うぶごえ」で実施中のクラファンをぜひチェックしてください。リターンが誠実すぎて、支援分のほとんどがキャンプ場の施設利用クーポン分として返ってきます。

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1982年生まれ。全国47都道府県のローカル領域を編集している株式会社Huuuuの代表取締役。「ジモコロ」編集長、「Gyoppy!」監修、「Dooo」司会とかやってます。わからないことに編集で立ち向かうぞ!