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熊倉献「ブランクスペース」の引用、連想


◇まえがき

熊倉献「ブランクスペース」にはたくさんの本が登場する。
単に雰囲気や目配せとして選択されているのではなく、内容と結びついている。
1巻の帯に、〈これは、想像力についての物語。〉とあるように、ただのいい漫画というに留まらず、過去の文芸作品を、源泉にしたり、仲間にしたりしている。
その上選ばれた作品が、どれも素敵。
備忘録も兼ねてまとめてみた。
たとえば「ボルヘス」で検索してみた人が、この漫画にふらっと辿り着いたらいいなと思う。
記事の性質上ネタバレご注意。

◇方針

● 明示された引用。
▲ 暗示された類推とか、オリジナルの作品とか。
〈 〉 マンガ内の文字テキスト
「 」 会話文、強調
【 】 メモ、感想、調べた事柄など
改行やコマ移りなどにはこだわらない。

1巻

 ◇#1 003p 緑茶も紅茶も

 ◇#2 035p 風船

▲046p 図書館にて、『図説金属』『照明の歴史』『全国の鉄塔』

●049p 図書館にて、ノートで筆談。ショーコ〈「おすすめの本は?」って聞かれたら何て答える?〉 スイ〈啄木の歌集かな。〉

▲054p スイの「見えない風船」 【なんとなく連想したのは、ジョシュ・トランク監督『クロニクル』】

▲066p 図書館にて、『図鑑ねこ』

 ◇#3 069p 夏そして春

●072p スイのノート 〈人間性(虚無は人間の付属品だ)――坂口安吾〉 【不良少年とキリスト】

▲075p ムカデベア 【トム・シックス監督『ムカデ人間』の語感から?】

▲086p 図書館にて、『鉄の性質』『金属加工の歴史』

▲096p ショーコが読む、『刃物図鑑』

 ◇#4 099p 多足類

●106p スイのノート 〈飼いならすべし獣ほど猛々しくなくて それでも日々とは獣 ――中澤系〉

●106p スイのノート 〈何がなしに/頭の中に崖ありて/日毎に土のくずるるごとし ――石川啄木〉

●107p スイのノート 〈海に足浸る三日月に首吊らば ――西東三鬼〉

▲108p 古書すずしろにて、『わが空白』

▲112p スイの部屋にて、『図説・銃』

▲123p ショーコ「きっとスイちゃん ナイフの次に 銃を作ったんだ 空白の銃…」 【石川啄木の いたく錆びしピストル出でぬ/砂山の/砂を指もて握りてありしに とか、『一握の砂』には拳銃にまつわる歌が3、4ある】

 ◇#5 129p 文学

▲134p 図書館にて、『犬のからだ』

●140p スイのノート 〈カフカの『ジャッカルとアラビア人』に出てくる 錆びたハサミをくわえたジャッカル →弱そう、好きだけど (ラクダ食うだけ?)〉

●140p スイのノート 〈角に皆炬火(たいまつ)したる/千頭の牛を放たば/心足らむかも(啄木) →さすがに1000頭は多すぎる 作るのが大変そう〉

●140p スイのノート 〈餓えし犬皆来て吠えよ此処にいて肉をあたえぬ若き女に(啄木) →餓えた凶暴な犬〉 【『一握の砂』以前なので、たぶん分かち書きしていない】

●141p スイのノート 〈ともすると早春の空のただならぬ燦(きら)めきは、地上をおおうほどの巨(おお)きな斧のすずしい刃の光りのようにも思われた。私はただその落下を待った。考える暇も与えないほどのすみやかな落下を。(金閣寺・三島由紀夫)〉

●141p スイのノート 〈空から落下する 巨大な斧〉

●155p スイとショーコの会話にて スイ「人間作るなんて…全然思いつかなかった 『不在の騎士』? いや―――『円環の廃墟』か なんか…とんでもないものに手を出しているみたいで――ザワザワする 何か始まりそう… 『伝奇集』借りなくちゃ あと少しズレるけど『フェッセンデンの宇宙』も… 文学だ 文学だ!」 【イタロ・カルヴィーノ】【ホルヘ・ルイス・ボルヘス】【エドモンド・ハミルトン】 【p032でもショーコ「何か始まりそうだ」】

▲156p ショーコが『ラブ・ナントカ』を読みながら、想像するスイの理想の彼氏……藤本タツキ「チェンソーマン」とかから?

2巻

 ◇#6 005p 比喩・変身・銃

●019p スイ、ベッドに横たわって文庫『堕落論』を手に、(「虚無は人間の付属品」って どのへんに書いてあったんだっけ… 『帰る』ということは不思議な魔物だ」… ―――いや違う ここじゃない)↓

●020p 〈スタンダールと仲がいいようなメリメは、これは又変った作家で、生涯殆んどたった一人の女だけを書きつづけた。彼の紙の上以外には決して実在しない女である。 だが、メリメやスタンダールばかりではない。人は誰しも自分一人の然し実在しない恋人を持っているのだ。〉

 ◇#7 041p 犬が吠える

▲063p スイ、テツヤに、「「新しい靴は踏んでもらうといい」ってなんかあったよね」 【井上雄彦『スラムダンク』のバッシュのジンクスか】

▲067p 「じゃあスイはどのシーンが一番好きなの?」 「んー サソリはどこ? って聞かれたウルスラが 自分の胸を指すとこかな… テツヤは?」 「クリスマスのでかい贈り物が腐乱死体だったとこかな」 「そこなんだ…」 【たぶん、ガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』】

 ◇#8 071p わが空白

▲075p 〈第一章 空代市の空代という字は、最初、空白と表記されていたらしい。そもそもの由来がよく分からない上に、街の名としてあまりにも空虚であるという理由で、途中、空代に変更されたそうだ。私は、空代で生活している。〉 中道ゴロウ『わが空白』の冒頭 →ゴメタ珈琲店にて、時田と中道青年が。

▲083p 〈親友がほしい。恋人がほしい。誰かと話したい。もう作るしかない。頭の中に。〉「反魂の術だ!!」西行。→イチコ。

▲086p 〈「かつてこの街の名を変えた人々と違って、私は空白を空虚な言葉だとは思わない。私は空代で生活している。」〉 中道ゴロウ『わが空白』のラスト。

 ◇#9 107p 遺失物粉砕所

▲113p 古書すずしろにて、アキラ青年が店番しながら読む、漫画雑誌『月刊ルピナス』に、〈「今月の新人賞 32p! 遺失物粉砕所 今給黎(いまきいれ)モモ〉。〈真の死は人に忘れられた時のことだと… そうある友人が語ったと 職場の先輩が言っていた――〉

▲138p キリンの滑り台と、燃える少女と、クレーン。 【『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』を連想】 【ピンク・フロイド『炎~あなたがここにいてほしい』?】 【もともと、タイトルの『ブランクスペース』、テイラー・スウィフトに同名の曲があるらしい。ネタ元かどうかは不明】

▲140p アキラが読みながら居眠りしている、『かんたん! ダンス入門』

 ◇#10 143p 鳥

▲147p 青年ふたりが話す中に、ギデオン・マンテル

●152p スイとテツヤ「あれ…なんだっけ あの小説 主人公がもらったチョコレート食べたくないからコッソリ放り投げる話…」 「チョコレートを…?」 「あと…ウサギ飼ってた小屋をブッ壊したり… 最後主人公が川で――」 「あ 『車輪の下』か」 「あっ そうだそうだ」 「どーいう覚え方してんだよ」 【ヘルマン・ヘッセ】

▲174p 町に通り魔ふう事件が多発し、不穏。 【今敏監督『妄想代理人』を連想】

3巻

 ◇#11 003p 見えない

▲023p ショーコが想像する、死体の山。 【またもや『少女☆歌劇 レヴュースタァライト 再生産総集編ロンド・ロンド・ロンド』を連想】

▲034p スイの部屋の棚に、『銃のしくみと歴史』『ハンドガン大全』『図説銃』『武器図鑑』

 ◇#12 037p 撃つべきもの

▲037p  ショーコがスイに差し入れしたジュース「濃い!トマト青汁」 【もはや牽強付会だが『スタァライト』の「ネクタル」を連想】

●039p 「さっきポケットに入れてた文庫本 何?」 「『羆嵐』…お守りに」 「お守り!? 目茶苦茶人食われるのに…?」 「でも凶暴な動物倒すし…」 「まあ…そうだけど…」 【吉村昭】

▲050p ショーコが空白の銃で狙う。 【『チェンソーマン』のマキマを連想】

 ◇#13 069p 餓えたるもの

▲080p 空白の犬が見つけた、一匹の蝶の死骸と、そこに群がるたくさんのアリ。 【三好達治の詩を連想。蟻が/蝶の羽をひいて行く/ああ/ヨットのやうだ】

 ◇#14 105p 空白たち

▲120p 砂漠から道路やメカ・キリンが。 【やっぱり『スタァライト』を連想】

 ◇#15 139p あらゆる曲がり角で

●158p ショーコの夢の中で、手の文庫本 三島由紀夫『金閣寺』

▲159p 夢の中の、マスコット? の口調。 【『魔法少女まどか☆マギカ』のキュウべえを連想】

▲170p スイ、垂直に落下。 【どうしても『スタァライト』を連想】

 ◇#16 183p 犬も星も

 ◇#17 219P 空白の街

●219p スイのノート 〈うすみどり/飲めば身体が水のごと透きとほるてふ/薬はなきか (石川啄木)〉

●220p スイのノート 〈氷を荷造りする思いがつづいている。なにを書き送ろうとしても、宛て名まで溶ける。届いたとしたところで、そのひとが消えるだろう。 (平出隆『胡桃の戦意のために』)〉

●220p スイのノート 〈すべてのもの、網の中の白き眼に、遠し、遠し。 (生田春月『網目』)〉

●221p スイのノート 〈食えぬ茸光り 獣の道せまし (西東三鬼)〉

●222p スイのノート 〈「さばかりの事に死ぬるや」/「さばかりの事に生くるや」/止せ止せ問答 (石川啄木)〉

▲223p スイのノート 五十音

●224p スイのノート 〈泥濘の中の太陽を胸に燃やさない限り 彌次郎兵衛のやうに剣呑の頂上にゐるばかりだ (萩原恭次郎)〉

●224p スイのノート 〈夏嵐机上の白紙飛び尽す (正岡子規)〉

●230p スイのノート 〈火星の住民の有無を問うことは我々の五感に感ずることのできる住民の有無を問うことである。しかし声明は必ずしも我々の五感に感ずることのできる条件を具えるとは限っていない。もし火星の住民も我々の五感を超越した存在を保っているとすれば、彼らの一群は今夜もまた篠懸(すずかけ)を黄ばませる秋風とともに銀座へ来ているかもしれないのである。 (芥川龍之介『侏儒の言葉』)〉

●231p スイのノート 〈「私はどれぐらいウトウトしたのかな」 「二十分ぐらい」 「二十分か。二分かと思ったがなァ。君は何を考えていたね」 「何も考えていない」 「何か考えたろう」 「ただ見ていた」 「何を」 「あなたを」 (坂口安吾『青鬼の褌を洗う女』)〉

●232p スイのノート 〈今つぶすいちごや白き過去未来 (西東三鬼)〉

●232p スイのノート 〈すぎし日のすぎし想出さり乍ら 我には永劫のうつくしき鞭 (石川啄木)〉

●232p スイのノート 〈勿論、Nよ、僕は青春などという吐き気のする言葉によって、その日々のことを語ろうとは思っていない。 (桐山襲『風のクロニクル』)〉 【その日々、に傍点】

◇あとがき

・初めて知った桐山襲には手を伸ばしてみたい。
・小さなコマだが、1巻155p、スイの「文学だ 文学だ!」という独白が、好き。
・wikipediaによれば作者、〈人見知り[1]。漫画は福島聡、小説は円城塔や町田康、カフカから影響を受けている[1]。映画は『エクソシスト』(1973年、ウィリアム・フリードキン)や『キル・ビル』(2003年、クエンティン・タランティーノ)、『未知との遭遇』(1977年、スティーヴン・スピルバーグ)、ジブリ作品が好きである[1]。〉

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