見出し画像

わたしが結婚するはずだった日。

その日は、3月も末だというのに
朝から雪がふっていた。

桜と雪が同時に見られる
不思議な日だったが、
おそらく花見に行った人は少なかっただろう。

西の国から世界中へ広がったウイルスに
いよいよ日本も動き出し、

「今週末は外出を控えて下さい」と
お偉いさんがテレビ画面の中でしゃべったのが
四日前のこと。

その“今週末”が
わたしと恋人の結婚記念日になるはずだった。

両家顔合わせを東京駅でセッティングしていて
そのまま婚姻届を提出する予定だったのだ。

当然、顔合わせは延期になった。

追い打ちのように
頼んでいた指輪屋さんから
「ウイルス騒動が落ち着くまで閉店します」とメールが届く。

つまり、しばらくは指輪の受け取りもできない。

まさかそんなことになると思っていなかった。

自分の苗字とも、ついにお別れかーとか
思ってたのに。

婚約破棄になったわけじゃないし、
うちの両親や恋人の両親の命の方が大事だからしょうがないし。

まるで
そんな急がなくても、
と言われている気分だった。

そんな急がなくても、
そんな急がなくても。

急いでたのかなぁ、わたし

ちょっと涙がでそうになる。

待ちに待った日ではあったのだ。
お付き合いを始めて、
13年目になっていたのもあるけど。

前の週に指輪屋さんで、ふたりで
わー、ずれた!難しい!とわいわい言いながら
結婚指輪の裏に
結婚記念日になるはずだった日付を刻印した。

予約したレストランは、ふたりで
あーでもない、こーでもないと
色々電話してやっと決めたとこだった。

婚姻届を提出したら、
久しく会ってない友人らにFacebookで
「結婚しました」を伝えるためのイラストも描いて、文章も考えていた。

それがパアになっちゃった。

あーあ。

こんなに楽しみにしてたんだ、と
延期になって初めて気付く。

恋人は
またレストラン予約し直そう?
指輪に刻印しちゃった結婚記念日、矢印書いて新しく刻印しよう?ちょっとユニークになるよ。だから元気だして?
と、珍しくポジティブに慰めてくれた。

嬉しくて可笑しくて、
なんだか笑っちゃった。

笑っちゃった後に、
ひとりで泣いた。

しょうがないと納得したが
でもやっぱ悲しいもんは悲しい。
ごめん。

悲しいという気持ちを抱きかかえて
ただ受け入れて、身を潜める。

ウイルス騒動が落ち着いた後に
また日を改めて設定し直して、

きっとその頃には
笑い話にできると思う。

だからせめて、もう少しの間は、
悲しいままでいるよ。

--------------------------
後日談 
わたしが結婚するはずだった日。そのに

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?