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METオペラビューイング「めぐりあう時間たち(原題:The Hours)」が期待以上に素晴らしかった話

長文になりそうなので、いつものtwitterではなく、こちらに書きます。

このブログは、すでに鑑賞した方、および、まだ鑑賞していない方、これから映画館に行けそうな人とか、WOWOWの放送待ちな人でも、読める内容にしました。とはいえ、予備知識が少ないほど感動が大きいタイプの作品だと思うので、このブログを読まないで即観れるならそれが一番です。とはいえ、スケジュール的ギリギリで映画館に行くための調整をするか悩み中とか、WOWOW放送まで待てないよ!みたいな方は読んでいただければ…くらいの感じで。ちなみに、この作品については、翻案となったウルフの小説「ダロウェイ夫人(原題:Mrs. Dalloway)」、同名の原作小説、その小説をもとにした同名映画がありますが、日本語字幕付きならオペラ初見時は付け焼き刃での小説・映画の予習ならしない方が楽しめる可能性が高いと思います。幕間にあったクリエイター陣のインタビューによると、実際にそれらを読んだり観てない人にもわかるよう作ったそうです。

って感じで、以下の3点にまとめて書いていきます。他にもいいなって思った点はあるんだけど、書き始めるときりがないので。あと私は普段ミュージカルが好きな人で、オペラは完全に素人なのでトンチンカンなこと書いてたらごめんなさい。

あの複雑なストーリーがオペラならではの手法で!

私にとって「めぐりあう時間たち」といえば、20年くらい前の映画で、その後の英語圏のミュージカルやストレートプレイを好きになるのを予感させるような…スティーブン・ダルドリー監督、デヴィット・ヘア脚本、1923年英国のヴァージニア・ウルフ役をニコール・キッドマン、1951年ロサンゼルスのローラ役をジュリアン・ムーア、2001年ニューヨークのクラリッサ役をメリル・ストリープ、という大変豪華な座組のものでして、その後繰り返し鑑賞したりはしてないけど印象深いシーンをいくつも覚えている、私にとって忘れることができない作品でした。

このお話の肝は、ウルフが思い悩みながら小説「ダロウェイ夫人」を執筆すること、ウルフが書いた小説「ダロウェイ夫人」をローラが読むこと、クラリッサのフルファーストネームが小説「ダロウェイ夫人」の主人公と同じなので愛称がミセス・ダロウェイなこと、ウルフとローラとクラリッサの感情がリンクしていることが表現される、その構成の妙こそが最大の魅力…だと私は思うのですが、これは映画だと、それぞれの時代のシーンごとにみせてくことしかできなかったんです。ちなみに、そんな映画も十分に美しく、複雑に構成されたオムニバスドラマみたいで、めちゃくちゃ感動的で、なのでずっと覚えてたので、今回のオペラ化は「あの印象深い映画のリメイク」として大変期待してたました。そして、昨年11〜12月にMETで実際に観た人の評判も上々で、先日ついに日本の映画館で日本語字幕付き(松竹さん超感謝!)で観たら……まーこれがね、映画のリメイクなんてレベルのものじゃなかったんですよ!

オペラなので何よりも歌声で魅せる、そしてフルオーケストラによる音楽、大勢の合唱やバレエダンサーが華を添える、まさにこれぞメトロポリタンオペラといった豪華さ。ウルフとローラとクラリッサの時代の違いは衣装やセットだけでなく、それぞれの時代を意識した曲調で表現されていて、さらに互いの人物の感情がリンクするシーンでは曲調が重なり合い二重唱、三重唱になるといった趣向の演出だったんですよ!!ミュージカルファンの人にわかりやすく解説すると、ウェスト・サイド・ストーリーの一幕最後のトゥナイト五重唱(Tonight:Quintet)みたいに、それぞれの登場人物が個性をいかして違うことを歌ってるけど曲と物語は同時進行している、あんな感じのシーンが要所要所で繰り返しでてくるんです。そこがね、圧巻でしたね……

ケリー・オハラが、真のMETのディーヴァに!

私はミュージカルファンなので、今回の主役3人のなかで一番気になるのはケリー・オハラでした。彼女はブロードウェイミュージカル界では知らない人がいないであろうスター、日本でも渡辺謙がでた「王様と私」で主役をやったことで有名な方です。とはいえ、彼女は大学での専攻はオペラでしたが、その後のキャリアはミュージカル界がほとんどであったからか、これまで2回のMET出演は、メリー・ウィドウのヴァランシエンヌ、コジ・ファン・トゥッテのデスピーナ、と脇役かつコミックリリーフ的な配役で、ミュージカルファンとしてはちょっと物足りない感じでした。ちなみに、本人の性格はとても明るいそうで、そういった役を楽しそうに歌ってるのは魅力的ではありましたし、METの主役クラスと並ぶと若干見劣りする部分もあったので、まあミュージカル界からのゲスト枠ってことでだよなぁ…と思っていたのですが……

今回の「めぐりあう時間たち」は新作、かつ主役3人はあらかじめ決まった状態での制作であったこと、さらに3人の名前の並びが、ルネ・フレミングが発案者の一人であり実力的に1番目なのはともかく、ケリー・オハラは2番目、ジョイス・ディドナートが3番目、といった順番という!それは、つまりですね、ケリー・オハラが演じる役は、彼女がオリジナルキャストとして、彼女の魅力が存分に発揮できる楽曲やシーンが用意されて、2番目に重要な役になっている、ってことなんですよ!その点は情報がでた時から期待ポイントではあったのですが、本当にすごい良かったんですよ、それが!!彼女がミュージカルとオペラで演じてきた作品の集大成なんじゃないかな?…と、彼女の出演作のほとんどは映像や音源でしかふれてない私が言うのもなんですが、とても素晴らしかったです。

現代NYのパフォーミングアートのリアルが!

ニューヨークに限ったことではありませんが、現代において、舞台芸術関連のキャストやスタッフはもちろん観客側も、LGBTQの人は多くて人種は非白人も増えている、男性が活躍し女性は添え物の古典的な話の需要は減りつつある、そんな社会情勢にあった新作オペラなところが、すごいぐっときました。

原作となった小説・映画は20年くらい前の作品なのですが、その時点ですでに、女性3人が主役の物語であり、女性の生きづらさはもちろん当時猛威を振るっていたエイズについてなど、個人の感情の葛藤にとどまらない、広く社会問題をとらえた話でした。さらに、2022年公開の新作オペラとして制作されるにあたり、脚本や演出面での細かい調整がされ、さらに現代的な雰囲気をまとった作品に仕上がっていたと思います。

余談ですが、指揮者のヤニック・ネゼ=セガンは、クラッシック音楽界では珍しくゲイであることを積極的に公表している人で、収録日のシャツが、ゲイorヨーロピアン?@キューティ・ブロンド(原題:Legally Blonde)って感じでした。…本当に、あんな服着るんだな、と。

真面目にオペラ部分の話にもどると、ソプラノ歌手としての絶対的な地位を築くと同時にミュージカルやポピュラー音楽など他ジャンルでも活躍の場を広げていたルネ・フレミングの歌声と演技のバランスの良さは絶品でした。2番手をケリー・オハラに譲ったジョイス・ディドナートも、常に苦悩し続け変化の少ない難役を、繊細な歌声で表現するのは言うまでもなく、何も歌わない立っている時ですら存在感がすごかったです。

って感じで、まったく具体的なことを書かずに、無駄に3千字くらい書いてしまったので、ここらへんでおしまいにします。観たことある人とは、別にtwitterスペースかZoomあたりで語る会をしたいなと思ってるので、ご希望の方はtwitterのDMで連絡ください。(開催日時は希望者で相談しましょう)

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