アニメ映画版「美女と野獣」は、素晴らしいミュージカルだ。

そんなのは常識かとは思いますが、最近、アラン・メンケンの作品をいろいろ見比べたり調べたりして、やっぱこのアニメは最高だなと思ったので、その思いや理由を書き残しておこうと思います。あまり長くなりすぎないように、要点を3つに絞ります。

「朝の風景(Bell)」が完璧すぎるオープニングナンバー

ベルの初登場シーンのこの曲、後のミュージカルや実写映画にもありますが、歌詞の内容やシーンの作り方が少しずつ違って、やっぱアニメ映画が一番よくできてると思うんですよ。一部引用しながら説明していきます。

Little town, it's a quiet village
Every day like the one before
ここは静かな町、いつもと同じ朝

ここ、文字だけ見ると説明っぽく感じるかもだけど、これはベルが日常に退屈してるって気持ちなので、すっと歌詞がはいってくるんですね、上手い!
そして、村に到着すると、人々は朝の忙しい生活を送ってるのに対して、ベルはパン屋のおじさんに「ジャックと豆の木」の話を語ろうとし、ベルが浮世離れしたキャラクターであることが、自然に表現されてます。
また、本屋 での会話シーン、本屋の人にすら感心されるくらい本を読むベル、っていうか本屋の人が「それ2回も読んだのに、また読むの?」って言われるのって…この村は本屋の人ですら、ろくに本読まないことがわかります。そして、ベルが好きな本の内容を教えてくれるんですよ

Far-off places, daring sword fights, magic spells, a prince in disguise...
遠い国で、決闘や、魔法や、変身した王子様

ここ大事!ベルは「おとぎ話」の世界に憧れていて、これはこの後の物語そのものなのです。そして、その本を噴水で読みながらベルが歌うところ、

Oh, isn't this amazing?
It's my favorite part because you'll see
Here's where she meets Prince Charming
But she won't discover that it's him till chapter three
ああ、なんて素敵、胸がときめく、見て!
そう、気付かないのよ、王子様が彼だってことが

ここも、あとの野獣とのロマンスとつながるんです、見事な伏線ですね。
そして、このベルのうっとりパートが終わると、ガストンが登場し、彼は村で慕われる存在であること、ベルの見た目しか興味がないが結婚相手として狙ってること、が示されるわけです。
この1曲だけで、この物語が、どういった舞台設定で、主人公のベルがどういった性格で、村人からどう見られているか、また同様にガストンについても説明されてるんですよ。戯曲に求められる、作品のなるべく早いタイミングで、観客の想像力をはたらかすために、何についての作品かを提示するってことを、軽やかに達成してるんですね。更に、オペレッタ調の曲風で、これが、古き良きミュージカル映画の世界だろうな、って期待が高まるのです。

「愛の芽生え(Something There)」への流れがすごい

一度は城を逃げ出したベルだったが、野獣によって狼から助けられ、なんとなく良い感じの雰囲気になってく曲、これもミュージカルや実写映画と共通する曲だけど、やっぱアニメ映画版の完成度が完璧なんですわ。
歌に入る前、バルコニーで野獣が、庭で馬と歩いているベルを眺めるているシーンで流れてるメロディは、「朝の風景(Bell)」でベルが本屋さんで本の世界を語ってたところと同じです。そう、メロディで、まさに今ベルが憧れていた「おとぎ話」の世界にいることを示唆しているのです。
更に、彼女を喜ばせたいと図書室をプレゼントする野獣は、本を汚すガストンとの対比でもあり、ベルにとって良き理解者なのでは?と観てる人に思わせてきたところで、「愛の芽生え(Something There)」が始まるのです…なんて自然なミュージカルらしい歌い出しですね!
そして、木の後ろでベルが一人で歌うパート、ここが大変ロマンチックで、

New, and a bit alarming
Who'd have ever thought that this could be?
True, that he's no Prince Charming
But there's something in him that I simply didn't see
ねえ とても不思議 胸が熱くなるの
二人でいると 何かが彼の中に見える

ここ「朝の風景(Bell)」でベルが噴水のところで歌ってたシーンと同じメロディなんですよ!わー気付いてないよ、彼が王子様なのにー!あの本のまんまな展開に!(余談ですが、ここの歌い方に独特な溜めがあるのは、作詞のハワード・アッシュマンから「バーブラ・ストライサンドみたいに歌って」って指示があったからとか)
いやー、完璧なプロットですね、まさに歌詞と音楽と物語が一体にして不可分な統合されたミュージカルです。

野獣のキャラクターをアニメで表現しきったのがすごい

とはゆうても、アニメ映画は野獣ソロ曲がないから、彼の心理描写が弱いんじゃない?って思った、あなた!その代わりに、アニメならではの手法が効果的に使われてるので、ぜひ注目して見直してみてください。
例えば、野獣は闇、ベルは光、野獣がベルによって闇から光に導かれていく様子が、色味や物語で表現されています。ベルが最初にお城に来た頃、野獣はすごい暗い色で描かれてますが、話が進むにつれ、野獣の色味は明るくなっていきます。特に「愛の芽生え(Something There)」では、明るい日差しのもとにでてきたり、図書館でカーテンをあけて城に光をいれる、といった象徴的なシーンとなります。その後、ベルが村に帰した後は落ち込み暗い色味に戻りますが、ラストシーンでは光りながら王子様に戻り、お城は光に包まれる…といった、様相なわけです。
また、野獣は、時と場合によって、二足歩行の人間ではなく、四つ足の獣のようにダイナミックに動きまわるのは、凶暴さや力強さが直感的に伝わってきます。当時はまだ、手書きのアニメーターがいて、伝統的なディズニーアニメらしい、躍動感ある動物の動きが書けたんだなって、感動があります。

って感じなんですよー、すごくない?すごいよねー。え、全部知ってた?だったらごめん…。
でも、ほら、もう30年近く前の映画だし、ずっと前に観たっきりの人(ちょっと前の私だ!)とか、実写映画しかみたことない人も少なくないようなので、オススメポイントをまとめてみました。

あと、せっかくだからディスクを買おうかなって人は、2017年4月以降発売の特典映像付きのBlu-rayがおすすめです。「アラン・メンケンと語る音楽の思い出」ってやつが、劇場公開25周年時にABCで放送された特番のダイジェストで、ロペス夫妻、リン・マニュエル・ミランダ、スティーヴン・シュワルツがアラン・メンケンを囲んで話す、ミュージカルオタク垂涎のコンテンツなので。予告編はこちら(Blu-rayには日本語字幕付きで19分あります)

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