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海へ、


海の傍に引っ越してきて以来、おおよそ毎日海辺を歩いている。朝に、昼に、夜に。寝る前に。
とにかく、ひどくお天気の悪い日でなければ、ほとんど毎日、時間があれば1日のどこかで、一目でも海を見たいなぁ…というような心持ちでいる。

住んでいる部屋は少し高台で、カーテンを開けると遠くにちいさく海が見える。晴れた日には、早くおいで、という目配せのように波がきらめいて、窓を開ければ大抵はすぐに海から吹く風が部屋に訪れる。風が強い日は窓を開く瞬間にもう、微かに海の匂いがする。その風に触れて一呼吸したら、胸の中がすぅっと少し透き通って、今日も海へ行こう。という気持ちがひたひたと満ちてくる。

それは、なんだかとてもすこやかな、かろやかな、動き出したくなるような、うれしい気持ちで。
あぁ、海が大好きなんだなぁと思う。

おはよう、海。いってきます、海。こんにちは、海。ただいま、海、こんばんは、海。おやすみなさい、海。

いつもこっそり声に出してあいさつをする。海はいつも打ち寄せていて、特に返事はない。ただ海を眺めて、波の音を聴く。波音が繰り返し鼓膜を撫でて、鼓動までなだらかにする。

ふふふ、大好きだな、と、思う。

海、大好きですよ、と時々こっそり言ってみる。
海はずっと打ち寄せていて、特に返事はない。
とても安らかな気持ちで、いたいだけ海の傍にいて、またあした、海。と言って帰る。

もちろん返事はない。
海はただずっと打ち寄せている。

明日も海へ行けたらいいな、と思えることを、海が明日もきっと絶え間なく打ち寄せている、と信じられることを、日々嬉しく思う。


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